近年、特定のジャンルに限らず幅広い分野にわたって、「転売」の問題が頻発しています。商品を購入後、その商品を購入価格よりも高い再販売する「転売」は、問屋から仕入れて店頭やオンラインストアで行う「販売」と流れ自体は似ているものの、実態としては異なる点が多く、また買占めによる市場への過度な悪影響なども問題視されています。


「転売」自体は長く行われてきたものですが、インターネットの普及やフリマアプリの台頭により、個人でも手軽にできるようになったため、「転売」に携わる裾野も大きく広がったものと思われます。また、組織化して「転売」が行われることもあり、国を跨いで行われることも珍しくありません。

■環境の変化で加速した“転売問題”
ゲーム業界においても「転売」の問題は常にあり、ダウンロード販売がなかった時代は行列ができるほどの人気作がしばしば対象となったほか、発売直後の新たなゲーム機も「転売」されるケースが多々ありました。

直近では、2年以上も供給が不足していたPS5が「転売」されるケースが多く、当時のフリマアプリでは定価以上のPS5が多数出品されました。品薄時のPS5は抽選販売形式が多く、当選者以外は購入できない状態だったため、一部の幸運な者を除けば、欲しくとも買えないままか、「転売」と承知しながらも定価以上で買うか、選択肢が限られた状態でした。

こうした状況が続けば、購入希望者の意欲も下がらざるを得ませんし、潜在的なユーザーが取り込めなければメーカーの不利益にも繋がります。またゲーム機の場合、ユーザー数が増えなければゲームソフトの売り上げも伸び悩むため、目に見えない被害はさらに広がっていくのです。

そのため、ユーザー側が「転売」を警戒する意識は高まっており、任天堂が発表した新たな据え置き型ゲーム機「ニンテンドースイッチ2」(以下、スイッチ2)も「転売」の対象になるのでは、と戦々恐々な気配がネット上に広がっています。

■過去の事例を元に、ユーザーが求める“転売対策”とは
PS5の「転売」に苦しんだ経験から、スイッチ2について何らかの転売対策を要望する人も少なくありません。ユーザーが求める対策としては、「PS5 Pro 30周年アニバーサリー リミテッドエディション 特別セット」の予約応募条件を参考にしたものを、ネット上でいくつも見かけます。

PS5の転売問題がきっかけになったのかは分かりませんが、初代PlayStationの発売30周年を記念したモデルとして、「PS5 Pro 30周年アニバーサリー リミテッドエディション 特別セット」が登場しました。そしてこの商品の予約は、「ソニーアカウントによるサインイン」ならびに「一定期間内に、PS5とPS4いずれか、または双方の起動時間が合計で30時間以上」といった条件をクリアする人のみが応募可能だったのです。


その条件なら、PS5やPS4をある程度遊んでいるユーザーしか応募できないため、「転売」だけが目的の非ユーザーは参加不可能です。しかも「一定期間内」の指定は、この条件を発表するより前の期間なので、発表後にこの条件をクリアするのは不可能。そのため、転売対策として一定以上の効果があったものと思われます。

この一例を参考に、スイッチ2を予約受付にし、「ニンテンドーアカウント必須」「一定期間内のプレイ時間を参照する条件」を設定することで「転売」を防いで欲しい、と願っているユーザーが少なくありません。

■“条件による振り分け”は任天堂の姿勢と馴染まず
しかし、前述の条件による転売対策を「スイッチ2に当てはめるのは、実際問題として難しいところもあります。

プレイ時間という応募条件は、「転売」目的の購入をある程度阻むことができたかもしれません。しかし、そうした条件があると分かれば、対策することが可能です。事前にスイッチでアカウントを作り、ゲームを起動したままにするだけで済みます。

もちろん、プレイ時間ではなくプレイしたゲームの本数に変えるなど、条件の内容を変えれば事前の対処は困難になるでしょう。しかし、「転売目的」ではない一般ユーザーを振り落とす事態にもなりかねません。例えば、5本以上のゲームのプレイを条件とした場合、1作だけを延々遊び続けているユーザーは対象外になってしまいます。

条件を厳しくすれば、転売目的の購入を抑え込むことができます。
ですが同時に、一般ユーザーも引っかかりやすくなり、不満の噴出や購入意欲の減退など、別の問題が発生しかねません。

また、過去のプレイデータを購入可否の条件に組み込むと、完全新規のユーザーが全く購入できなくなります。任天堂のゲーム機は若年層からの関心も高く、“初めて遊んだゲーム専用機が任天堂のものだった”というケースも多々あります。

予約販売時だけの条件だったとしても、これからゲームを遊ぶ子供たちをシャットアウトするような販売形式を、任天堂が採択するとは考えづらいところ。「スイッチ2」の販売に何らかの転売対策を期待したいものの、少なくともプレイデータの参照のみで縛る条件設定は、ユーザー層の拡大という観点から見ても難しいものと思われます。

■購入者の目的を事前に判別するのも困難
転売対策が困難な理由のひとつは、「使用目的の購入」と「転売目的の購入」を判別しにくい点にあります。販売する際の規約で「転売」を禁じたり、「転売」と思われる購入者に販売しないことは可能ですが、それを事前に見極めるのは非常に困難です。

「転売」の対象になりやすいガンプラ(「機動戦士ガンダム」シリーズのプラモデル)の販売では、商品の正式名称が複雑化しやすい点を逆手にとり、「販売商品の名称を答えられない購入希望者には販売しない」といった転売対策を行った実店舗があり、話題となりました。

その商品が欲しくて購入する人は、当然商品に関心があり、名称も覚えています。一方で転売目的の場合、組織だっていることも多く、まとめ役に指示されて買いに行く購入役は正式な名称を覚えていなくとも不思議ではありません。前述の対策例は、そうした両者の違いに踏み込んだ転売対策と言えるでしょう。

しかし、この手段があらゆる商品の転売対策に向いているわけではありません。
「スイッチ2」においても、正式名称は複雑ではなく覚えるのが簡単です。また、「子供や孫のプレゼント」として買う場合、対象商品への知識が薄くてもおかしくありません。この場合、「使用目的の購入」と「転売目的の購入」の判別は困難でしょう。

■困難な転売対策に立ち向かう、任天堂のリスクをとった対応
今も転売問題がたびたび話題になるのは、完璧な転売対策がない証でもあります。もし優れた転売対策があれば、転売自体が起こらず、話題になることも必然的になくなるはずです。

コンサートやライブなどのチケットは、転売対策が進んでいるジャンルのひとつですが、それでもまだ完璧ではなく、転売問題やそれに関するトラブルが絶えません。

「転売」が放置されるとユーザーの購入意欲が削がれ、普及に足止めがかかるのも事実。しかし、罪のないユーザーを巻き込まず、転売目的による購入だけを防ぐような徹底した対策を講じるのは、いくら任天堂でも困難を極めます。「スイッチ2」の普及や完全新規への配慮などを考えれば、条件付けおよび規制による転売対策は厳しいと言わざるを得ません。

ただし、締め付けとはまったく逆の方向で、これ以上ないほど効果的な転売対策がひとつ存在します。それは、「転売」の価値をなくすこと。「転売」を無視できるほど販売環境が充実していれば、規制ではなく転売価値の消失という形で、「転売」自体がなくなります。


「転売」が成り立つのは、“その時の市場に適正価格の商品がない”というのが絶対の条件です。店舗で普通に売っていれば、わざわざ金額の高い転売先から買う人はいません。これを「スイッチ2」に当てはめて考えた場合、「スイッチ2」が大量に供給され、通常の販売ルートで需要が十分なレベルで満たされれば、転売を実質的に無効化できます。

もちろんこの話は、「言うは易く行うは難し」の典型で、実際にそれだけの台数を揃えるのは転売対策とは別種の困難さがつきまといます。しかし、任天堂側の発言を見ると、「スイッチ2」の生産体制には一定の期待が持てます。

第84期定時株主総会の質疑応答では、「スイッチ2」(この時は後継機について)の転売対策に関する質問に対し、「お客様の需要を満たせる数をしっかりと生産することが最重要だと考えており、昨年からこの考えは変わりません」と答えており、転売問題を考慮していること、生産体制が活路になることを認識しているのが分かります。

また、2025年3月期第3四半期決算説明会の質疑応答にて、「なるべく大きな需要を満たせるように、リスクをとって生産を進めているところです」と、生産体制の強化に前向きな姿勢を見せています。

具体的な数字は結果を見るまで分かりませんが、「スイッチ2」の初期出荷や継続的な流通で、相応の台数を出してくれる可能性が高まっています。これが「転売」への特効薬となるのか、任天堂の動きも含め、今後の展開にも注目が集まることでしょう。
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