『ファイナルファンタジー7』(以下FF)や『キングダム ハーツ』シリーズのシナリオを担当したステラヴィスタ代表の野島一成氏、同じく『FF7』のアートディレクターを務め、故郷の出雲でIZM designworksを設立後、東京と二拠点で活動をする直良有祐氏、そして「メタ認知のきっかけを提供する」をミッションに掲げ、世界史データベースの研究開発を行うCOTEN 代表取締役 CEOの深井龍之介氏。三者を結んだのは「出雲」という土地と「コテンラジオ」というコンテンツでした。


かつてスクウェア(現スクウェア・エニックス)で『FF』シリーズなどを共に手がけた野島氏と直良氏、そして直良氏の出雲高校の後輩である深井氏ーー。野島氏が深井氏のコテンラジオのファンだと知った直良氏の発案で実現した、島根県出雲市で行われた今回の鼎談。

野島氏の初めての出雲訪問に合わせ、三者は稲佐の浜で国引き神話に触れ、出雲大社で神々の物語を感じ、出雲歴史博物館で歴史の厚みを体感しました。そして、コテンラジオでも取り上げられたコミュニティナースの活動拠点「ユース出雲」で、創作と歴史、技術と人間の関係性について語り合いました。

ゲームの話はもちろん、日本特有の混淆文化がもたらす創造性、AIがもたらす未来までーー。異なるフィールドで活躍する三者が、神話が息づく出雲の地で紡いだ、創作の源泉を探る対話の記録です。ぜひご覧ください。

聞き手・文章・編集:山崎 浩司
(崎は“たつさき”)
撮影:曽根 健太
取材協力:IZM designworks

◆『FF』シリーズの同僚、高校の先輩後輩、そしてコテンラジオのファン 出雲が結んだ三者の縁

ーーこの鼎談が実現した経緯について、直良さんから説明をお願いできますか?

直良: 去年、野島さんとあるプロジェクトで久しぶりに一緒に仕事をして、「そういえばサシ飲みしたことないですよね」という話になって。飲みながら最近ハマっているものの話になった時、野島さんが「コテンラジオって知ってますか?パーソナリティの深井さんのファンなんです」というものだから「ほぅ、そうきましたか」と(笑)。「僕の知ってるコテンラジオで深井君なら、高校の後輩です」と答えたんです。

野島さんの人となりもそこまで知っているわけではないし、深井君とも人が集まっている場所でしか会ったことがない。でも二人に興味があったので、出雲に来てもらって話してもらえれば、いい時間になるんじゃないかと思ったんです。
本当に緩い気持ちでお願いしました。

ーー直良さんが紡いだご縁でこの場が実現したんですね。野島さんは、その話を聞いたときどう思われましたか?

野島: 最初は「後輩といっても同じ高校で、歳が離れているとあまり先輩後輩の関係ってないだろうし、無理やり会わせるのかな」と思って。それはすごく申し訳ないなと。その時はかなり酔っていたので(笑)。

直良: かなり飲みましたよね、あの時(笑)。

野島: その話はそれで終わると思ったんですが、後日「今、深井君と会っている」と直良さんから連絡が来たときも、多分酔っているんだろうなと思って(笑)。お互い、若い頃しか知らないし不名誉なエピソードばかりなので、今日はちゃんといい話ができるのかな…と思ってこの場にいます。

ーーリラックスしてお話いただければと…!深井さんはこの話を聞いていかがでしたか?

深井: 本当に嬉しかったですね。僕は『FF』がど真ん中の世代なんです。リアルタイムで発売されたのを買って、『FF4』から『FF10』までをプレイしていました。『FF6』から『FF7』にかけて3Dになったじゃないですか。
あれがすごい衝撃で、ストーリーも特に『FF7』が好きなんです。人生で一番初めにプレイしたゲームも『FF4 イージータイプ』です。自分の思春期に衝撃を受けた作品に携わられた方々、そしてシナリオを書かれていた野島さんが自分のコンテンツを聞いてくれているというのは不思議な気持ちですね。

野島:その感覚は僕にもありましたよ。『FF7』が世界中で遊ばれるようになって、いろんな著名人がそれについて語っているのをネットで見て、「ここまで届いているんだ」と感じました。『FF7』が発売された後ぐらいにインターネットが普及してきたので、その反応で喜んだり傷ついたり。

直良: 一喜一憂してましたよね。

深井: 世界的なゲームの制作者とお会いできるなんて、感慨深いものがあります。『FF7 REBIRTH』のリメイクも買ってプレイしていたので、ちょうど思い出していた頃でした。

直良: 野島さんはいつ頃からコテンラジオを聞き始めたんですか?

野島: コテンラジオがポッドキャストの賞を取ったという話を聞いてからですね。去年の暮れにようやくリアルタイム配信に追いつきました。去年までうちにモルモットがいて、毎晩ケージの掃除をしていたんですが、それに30分から1時間ほどかかるんですよ。
その時はいつもコテンラジオをかけていました。ケージの掃除中は妻がモルモットを抱っこして一緒に聞いていて、かなりハマっていました。

ーー野島さんはCOTEN CREW(コテンラジオのサポート会員)にもなられているんですよね?

野島: はい、一番小さい額ですが。直良さんと深井さんの関係を聞いた時に、「金額を増やした方がいいのかな」と思ったんですが、知ってしまってから増やすのはカッコ悪いなと(笑)。

深井: 支援してくださるだけでも、本当にありがたいです!

ーー野島さんの印象に残っているコテンラジオのエピソードはありますか?

野島:色々あるんですが…番外編が結構好きで。その中でもウクライナの回ですね。あの時の対談は強く印象に残っています。「なぜそういう行動をとるのか」「その行動力の源は何なのか」という点が非常に興味深かったです。

深井:SAMI Japanの牧野さんとボリスさんが出演された回ですね、僕も感慨深かったです。彼らは今も出雲にいますよ。

野島: それから、ハチドリ電力の回も印象的でした。

深井: 田口さんの回ですね。
彼もめっちゃすごい人です。一般的なビジネスパーソンとはまた違うタイプの…歴史の人物で言うと、斎藤道山のような人ですね。いわゆるエリートコースを歩んできたわけではないけれど、卓越した能力を持っている、みたいな。

野島: あとは、人の長所や能力を握手するだけで見出す方が出演する回も興味深かったです。何者なんだこの人は…という。

深井: たかちんのことですね。佐野貴さん。 彼の能力も特殊な才能と言っていいでしょうね。

野島: 田川系の話も面白いです。単なるヤンキー漫画のような表層的な話ではなく、もっと深いなにかがありました。

ーー田川の「ヤンキー」と「トガリ」、「あぁ?」と「ぺぇっ!」が印象的な回ですよね。ホモ・サピエンスを感じる回でした。


深井: そうですね(笑)。独特の野蛮的な魅力がある回です。本当に様々な人物が織りなす群像劇でしたね。あれは素晴らしい内容だったと思っています。

◆音楽で繋がる三者の創作世界ー『FF』の楽曲から人生を変えた曲まで

直良: コテンラジオって、そもそも学生の時からビジョンみたいなものがあったの?

深井: いや、全然なかったんです。僕は歴史が好きで、話すのは得意なんですよ。僕たちの扱う「人文知」が人生をどう豊かにするかを体感で知ってもらえないから、何かで発信しないと、というのが先だったんです。そこで人材採用やビジネスを作ろうとしても困難しかないのは分かっていたので、まず広める活動をしなければと思って。

「じゃあラジオで撮ってみましょうよ」ってMCの樋口さんが提案してくれて、半信半疑で始めたんです。ちょうどその頃、ポッドキャストが日本でもう一度流行り始めるタイミングで、本当にたまたまの産物です。

直良: 全部たまたまで、戦略はなかったんですね。聞いていると、時代に愛されている感じがしますね。


深井: そうですね、ラッキーでした。

直良:『FF7』でPlayStationというハードに移行した時の売れ方も、そうそうないじゃないですか。臭い言い方かもしれませんが、時代に愛されるとはこういうことなんだなという感触で。その時は何をやってもうまくいくという、なかなかない経験をさせてもらえたなと。

深井: そんな感覚だったんですね。海外でも売れて、戦略的に作っている感じがしました。

野島:それまでは海外でRPGが売れないと言われていたんですよね。でも、『FF7』で世界でも戦えるとわかって、そこから『FF8』の開発が始まり、僕なんかガチガチに緊張していました。

直良: あれから世界を意識するようになりましたよね。

深井: 『FF8』はやっぱり毛色が違いますよね。魔女という概念や寮生活している設定もヨーロッパっぽい。

野島: いろいろ意識して取り組んだんですが大変で。その反動は全部『FF10』で発揮しました。「直良さん!自分たちの好きなこと、やりたいことをやろう!」と。ただ、スケジュールだけはちゃんとしましょうという(笑)。

深井: なるほど(笑)。『FF8』はグラフィックがさらに向上したこともありましたが、一番びっくりしたのはフェイ・ウォンの主題歌「Eyes On Me」です。あの曲、本当にいいですよね。マジで好きなんですよ。彼女の曲の中でも代表作ですが、サブスクにないんですよね…。

野島:僕がもともとフェイ・ウォンのファンだったので彼女に主題歌をお願いしたいと思ったんです。香港まで見に行ったりしていたくらいで。ツテが全然ない中で、担当の人が頑張ってくれました。

深井: へぇ~そんなエピソードが。あの曲はどなたが作曲したんですか?

野島: 植松伸夫さんですね。

深井: やっぱり植松さんはすごいですね。本当にいい曲ですもんね。

野島: 植松さんはプログレッシブロックがお好きですよ。YesとかKing Crimsonとかは当然で、もっとマニアックな名前をたくさん出してきます。

直良: 話し出すと止まらないですよね。『FF8』の打ち上げの時に、植松さんの家にみんなで流れ込んだら見たことのない楽器があったり。「これ、実は映画のこの曲のインスパイアなんだよ」と聞かせてもらって、「ああ、なんか分かる気がする」とか。

深井: 僕は洋ゲーもプレイするんですが、日本のゲーム音楽は頭一つ抜きん出てレベルが高いなと思っていて。『FF7』のBGMもすごく良かったですし、あんなに耳に残る曲を作れるって、天才なんでしょうね。任天堂のマリオの曲も全部覚えているじゃないですか。音楽で記憶に残るというのはすごいなと思って。

直良:世界中にその音は今でも残っていますよね。例えば、アメリカでバスケットボールの試合を見に行った時に、フリースローで一点入ったらマリオのコインの「チャリーン」という音が鳴ったりしています。あの音だけで「ボーナスポイントが1つ追加された」という意味が通じるんですよね。ゲーム音楽の影響力ってすごいです。

ーー皆さんは過去にバンド活動もやられていたから、音楽という共通点もありますよね。

直良:そうですね。それで二人に聞いてみたいと思っていたんですけど、「これは人生を変えたな」って曲はありますか?

深井:自分はMarilyn Mansonの「The Love song」、Radioheadの「Present Tense」、A Perfect Circleの「Orestes」ですね。特にMarilyn Mansonは高校生だった多感な時期に出会って、やり場のない怒りや孤独を抱えていた時に「僕と同じ気持ちの人がいるんだ!」と感じさせてくれた。国境と時空を越えて響いてきて、本当に心から救われました。

野島:なんと難しい質問でしょう(笑)。まずはKISSの「Detroit Rock City」。13歳だった僕の目を覚ましてくれた。次は、我が愛するハードロックはこのままパンクに駆逐されるのかというところで出てきたIron Maidenの「Plowrer」。ヘビーメタルの夜明けです。そして、うーん、Kornの「Right Now」。どういう音楽を聴いてこんな音楽ができたんだろうという興味からメンバーのインタビューを読んで、彼らの好きな音楽を知って、聴いて、なるほど、と。そこを入口に、自分が聴いてこなかったロックの歴史を再確認しましたね。大袈裟ですけど。で……この手の話は止まらないので、このへんで。

直良:自分はスクウェア入社前、音楽をやろうと最初の会社を飛び出したりしてました(笑)。最初はDavid Bowieや「The Velvet Underground」のコピーとかから始めてたんですけど、ガツンとやられちゃいました。Bowieだと「Space Oddity」、Velvetsだと「Sister Ray」ですね。「Sister Ray」は『FF7』の中で名前を拝借してます。それから後は深井くんと同じRadioheadの「The Bends」ですね。

ーー日本の曲が一つも出てこない(笑)。ゲームメディアの編集者やライターにも洋楽好きが多いんです。両者ともある意味クリエイターですから、ゲーム、クエリター、洋楽…なにか通ずるところがあるのかもしれませんね。

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◆ストリートからアカデミックへ ーゲーム制作における専門性の歴史
野島: 今のゲーム音楽を作っている人は、アカデミックな教育を受けた人が多いんですよね。幼少の頃から音楽をやっていて音大に行ったり。昔みたいなストリート出身の人はもういないのかなという印象を受けます。

深井: 昔はストリート的な人が多かったんですか?

野島: 僕が業界に入った時は、趣味でパソコンで音楽を作っていたような人たちが採用されていました。でも、その後すぐに「ちゃんと作曲ができます」とか「アレンジできます」という専門性を持った人たちが出てきて、作業が分かれていきました。入力する人と作曲する人というように役割が明確になったんです。

深井: それでクオリティが上がったんですか?

野島: 格段に上がりました。

直良:イラストの方も似たような変化がありました。CGになって解像度がどんどん上がっていき、3Dになると必要な人材も増えてきました。それまでは、性別すら分からないぐらいの解像度の小さなポリゴンキャラだったのが、急にリッチになってきて、世界観とかいろんなものが表現できるようになったんです。

授業中の落書きとか、母の喫茶店でジャンプを見ながらペーパーナプキンに落書きしたのがルーツだった自分からしたら、美大を出た専門家が入ってくるようになって。「これはやばい、ちゃんとやらなきゃいけないんだ」という意識の変化もありました。

深井: どんどん高学歴化していったんですね。 ちゃんと訓練を受けた人たち、教育された人たちが主流になっていったと。

野島: そうなんですよ。産業が大きくなってくると必然的にそうなります。新しく仕事をご一緒する会社に行くと、ちゃんとした作法で名刺を渡されるんです。こっちはもう開発上がりでビジネスマナーなんて知らないのに…(笑)。

直良: そう、僕たちは社会人失格レベルで「他の仕事向いてないなあ。もうここしかない」ぐらいの感じでしがみついていた。今は専門性が高くなっているし、作るデータの量は何十倍にもなっているので、それだけの人材を確保しなければ作りづらいのも理解できますけどね。

深井: ゲーム開発は大規模化してきたけど、この後AIがさらに発達すれば、また小型化していく可能性がありますよね。チーム規模がどんどん縮小していく。すでにインディーゲームでは小規模開発が実現してますが。

直良: AIの新たな応用形として、ゲームエンジン自体も近い将来登場してくるでしょうね。

深井: 本当に楽しみです。特にAIが本格的に導入されると、ゲーム内キャラクターとの自然な会話が実現する可能性があります。プレイヤーがキャラクターと本物のような対話ができるようになるかもしれませんよね。

◆「世界」を作るということー問いを立て、書き、追求する三者三様のアプローチ
直良: 普段、AIをどのぐらい使っています?

深井: 仕事で歴史の調査をしているのでかなり使っています。ChatGPTやDeepResearchなどのAIツールだけで判断することはないですが、調査の糸口を見つけたり全体像を把握したりするのには積極的に活用しています。社内でもAIを使って開発していますね。僕達はポットキャストの会社だって思われているんですけど、IT企業なんですよ。

直良: 野島さんはいかがですか?

野島: 使ってますね。ただ、クライアントから依頼されて書いている案件では使用してないです。機密情報が外部に漏れる可能性があるのは避けたいですからね。使うのはむしろ、アイデアを練っている段階で、相談役として活用しています。

直良: 壁打ち相手みたいな感じですか?

野島: 僕のやり方としては、とにかく書いてみることから始めます。何か書いてみると「これはできるかもしれない」という感覚が生まれてくる。やる気が出るのを待っていると、いつまでたっても始められないですからね。最初に書いたもののアウトプットはあまり良くないんで、それを見て自分で修正していくんです。

深井 : 「書く」というのは、どういう形でアウトプットされるんですか?脚本のような感じですか?

野島: 設定なども全部入ったものですね。こういう会話をさせたいというアイデアがあれば、それも書きます。「プロットをください」と言われたら、それらを整理して渡すといった感じです。そんな創作プロセスですね。

直良: プロセスで言うと、例えば自分は絵の仕事だと、ラフスケッチやコンセプトワークから入ることが多いんですが、深井君はコテンラジオを制作する時に、どういうアプローチで始めるのか気になります。

深井: 僕のアプローチは特殊だと思います。「史実」という自分の想像とは関係ないファクトがあって、でも、そのファクトとファクトの間にはつながらない部分、ミッシングリンクがあるんです。そのファクト間のミッシングを、なるべくフラットな視点で追求して、自分自身がちゃんと腹落ちするまで勉強し続けるというのが僕のスタイルなんです。

僕はベンチャー企業やスタートアップにいて、本当に極端な人たちを何人も見てきたからこそ「事実は小説より奇なり」だなと強く感じています。

その感覚を持って、例えば織田信長の行動や言動がどういうふうに説明できるのかを考えるんです。僕が腹に落ちる説明ができたら、聴いている人も面白いと感じるというのが、コテンラジオで初めて分かったことですね。だから「面白くしよう」とか「リスナーを喜ばせよう」とは全然思っていなくて、僕の場合は自分が腹落ちするかどうかが基準なんです。

直良: それって、すごく能動的なプロセスのはずなのに、結果として出てくるものは冷たく横たわる事実だったりして、多動的な側面もありますよね。

深井: おっしゃる通りです。例えば今、項羽と劉邦という漢帝国を作った話の勉強をしているんですが、歴史の偉人はとかくヒロイックに描かれがちなんです。あれほどすごい帝国を作った人たちは何か特別なものを持っていたんじゃないかという出発点から始まっていることが多い。

一方で、僕はいろんな起業家を見てきましがトップクラスの企業家を見ても、確かにすごいんだけど、僕たちと同じ人間なんですよね。

その観点から項羽と劉邦を勉強していて、チームで出てきたインサイトは「みんなしょうもない」ということなんです。登場人物全員が不完全で、ちゃんとした時代に生まれていたら全く通用しなかった人たちが、優秀な人たちが死んだ後に、レベルの低いことをやって1位になったような状況。マネジメントも稚拙、戦争も下手くそ、戦略もない。普通の感覚からすると感動がなく冷たい現実に見えるかもしれませんが、それが僕の興奮ポイントなんですよね。

野島: その視点って、信長、秀吉と家康、ヒトラーの回でもそうでしたよね。コテンラジオで話されている内容はその視点が面白いと思います。僕はいわゆるビジネスパーソンではないですが、コテンラジオはビジネス視点で語られることが多いじゃないですか。それが僕にとってはすごく新鮮な歴史の見方なんです。

深井: あまり1人の人間を特別な存在として、その人の属人的な意志や能力によって歴史が変わるという考え方をしないタイプなんです。これは社会科学の中では社会システム論という立場に近いんですが、僕は完全にそのタイプで、環境によって人間の人格や行動がほぼ決まっていると見なしています。だから環境を徹底的に見に行く。その人たちのいた時代背景が、その人たちを動かしているという考え方をしているんです。

野島: そこがたまらないんですよ~!この仕事をしていてコテンラジオのその視点の話は、すごく新鮮で面白かったです。

僕もゲームの作り方として、まずその世界を作りたいと思っているんです。もちろんいろんな人から意見やアイデアをもらうんですが、その中でやはり楽しいのは、その時代背景を考えること。信仰や政治はこんな感じとか、そこに生活する人々を考えるのがすごく楽しい。どの立場の人を主人公に置こうかという視点を変えることで、世界の見え方が変わってくるじゃないですか。それが僕のモチベーションになるんですよね。

RPGの場合、最後にはラスボスがいて、それまで育てた力を全部ぶつける相手が必要です。そういう構造は決まっているので、差別化するのは社会背景なんです。「こういう社会の中のこういう立場の人が頑張る」というストーリーを作るのが楽しいですね。

直良: 世界観周りの仕事について、僕もいろんな企業と一緒に世界観のコンセプトワークをすることが多いです。そこからビジュアルのコンセプトなどを作っていく。昔は感覚だけでやっていて人に頼りすぎていた部分もあったんですが、最近はこれを分解して説明できるようになってきて、作業が進められるようになりました。

そもそも「世界観とは何か」という話をする時、昔は単純に物理法則のような「地球上では酸素があるから火が燃えて灰になる」、「宇宙では酸素がないので火は起きない」といった「理」が世界観だったんです。でも創作物における世界観は近年どんどん変化してきて、「自分が世界に何をして、世界が自分に何を返すか」というサイクルの方が重視されるようになってきました。コンテンツに紐づいたその考え方が、毎回面白いというか、発明のような感じがあります。もちろん、場合によっては車輪の再発明ということも多いですけど。

野島: 車輪の再発明だと気づいた時も楽しいですよね。「これ、プラトンと同じこと考えちゃったか?」みたいな(笑)。

深井: それはすごく分かります。プラトンの方が圧倒的にクオリティの高いことを考えていて、それに自分が打ちのめされるのがすごく好きですね。自分が考えたことを、もっとちゃんと考えた人がいると気づいた時、めちゃくちゃ興奮します。

直良: いい意味の変態さんだ(笑)。そこにしびれちゃうんだ。

深井: しびれますね。一番楽しい瞬間です。あと、問いを設定するんです。項羽と劉邦の例が分かりやすいのですが、項羽は74戦73勝1敗で、最後の一敗で全てを失って死ぬ。一方、劉邦は五分五分くらいの勝敗なのに、漢帝国の覇者になれる。73勝した項羽が最後の1敗ですべてを失ったのに、勝ったり負けたりした劉邦はなぜ生き残れるのか?という問いが生まれて、この問いを追求するのが自分の勉強の定義になっています。

それが少し分かった時の興奮がやめられない感じなんですよね。それが分かるまでは99%は苦痛で、分かった時の1%の快感のためにやっています。

直良: いや、それはしんどいと思います。僕の場合、一番分かりやすいのは、シナリオに沿ったイベントシーンがあって、キャラクターたちが動いて、音楽がついて、セリフがある。自分の絵が他の要素と合わさって画面が立ち上がって来た瞬間に鳥肌が立ちます。その鳥肌が立つかどうかで、なんとなく今回うまくいくかどうかが分かる。鳥肌が立ったら、その後の頑張れる材料になるんです。

深井君の場合は最後にその快感が待っているけれど、僕たちの場合は最初の方にその快感に近いものがあります。

深井: 僕の場合は後半に来るので全く逆ですね。あらゆる本を読んで、あーでもない、こーでもないという話をして...

直良: そもそも最初に問いの設定をするわけじゃないですか。自分の中で生み出して、それがコンセプトワークみたいなものですよね。

深井: そうですね、近いと思います。

直良: それが間違っていたら「こっちじゃなかった」ということもありますか?

深井: いや、最初に現れる問いというのは、僕の中では究極の問いだと思っています。どんな形であれ、答えのクオリティは問いの質によって決まらないと思うんです。「これ以上の答えは出ないだろう」というものが出たら、それが例えば冷たい、元も子もないものだったとしても、それが楽しい。その無常感もすごく好きです。なにかがありそうなのに、めちゃくちゃ元も子もなかった真実を伝えたいという思いはあります。

野島: そう考えると、自分は仕事中にずっと問いばかり立てているかもしれない。

直良: というと?

野島: 例えば、ゲームのパーティーに女の子が2人いて、彼女たちがめっぽう強いとします。そうすると「この社会においてそれは珍しいのか、それともそういう子がたくさんいるのか」という疑問が生まれる。そういったことは社会設定で決まってくるわけです。そうやって次から次へと問いが生まれてくるんです。

直良: なるほど。個々のキャラクターを描いているようで、実は常に群像の中でキャラクターを調整したり、深掘りしたりしている感じなんですね?

野島: まさにそう。エンターテインメントですから、ゲーム世界の中にいるキャラクターたちと現実世界の僕たちの喜怒哀楽を揃えないと盛り上がらないんです。でも、過酷な世界に生きる人たちだったら、当然メンタリティーも違うはずですから。

深井: 確かにそうですね。

野島: それが本当に知りたいんです。子供の頃、『ゴッドファーザー』を見て、ボスファミリーはいいけれど、末端の人たちはすぐ殺されますよね。「どういうマインドでそこにいるんだろう」と。コテンラジオを聴いているのも、その時代の人がなぜあの槍衾に突っ込んでいけるのかとか、そういうことが気になるからなんです。

深井: まさに同じ問いを僕も持っています。自分が腹落ちするまで追求して調べる感じですね。

野島: 問いはあるけれど、僕は自分で考えるだけで詳しく調べないから、コテンラジオに期待しているんです(笑)。どこかで腹落ちする答えを求めて。

後編に続く
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