その人気ぶりは疑うまでもありません。
8年以上にわたって任天堂のゲーム市場を支え続けたスイッチは、これまでどんな功績を残し、いかなる課題があったのか。現世代を支えた名機の歩みを、この“最後の1ヶ月”を機に振り返ってみましょう。
■発表当時は賛否両論だったスイッチ
ゲーム史上でも指折りのヒットを記録したスイッチですが、その幕開けは決して順風満帆ではなく、いくつもの懸念や不安が漂っていました。
まずは、前世代機である「Wii U」の不調という問題が立ちはだかります。任天堂の転換期となったヒット機「Wii」の後釜として登場したWii Uは、その勢いを受け継ぐゲーム機として期待されていましたが、累計販売台数は1,356万台と低迷。人気の出たソフトはあったものの、Wii U自体は盛り上がりを欠く結果になりました。
この不調を覆す期待と重圧がスイッチにかかっていたものの、販売開始前に詳細が発表された際、ユーザーの反応は大きく分かれる形となります。特に意見が分かれた点は、据置機ながら携帯モードを併せ持ち、場所を選ばずに遊べるという機能についてでした。
当時、携帯してゲームを遊ぶ環境はスマートフォンが全盛で、「ニンテンドー3DS」や「PlayStation PS Vita」はその勢いに押され、直系の後継機がないまま終焉を迎えています。
そのため「携帯で遊ぶゲーム専用機の需要はもうない」「携帯ゲームはスマホで十分」といった意見が多く、携帯性に力を割いたスイッチを疑問視する声が後を絶たなかったのです。
■独占タイトルの強みで確かな支持を獲得
こうした様子見の声もある中、2017年3月3日に発売されたニンテンドースイッチは、ローンチタイトルのひとつ『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』の人気が爆発し、まずは順調なスタートダッシュを切りました。
さらに、『マリオカート8 デラックス』が4月28日に、『スプラトゥーン2』も7月21日に発売されるなど、任天堂の主力タイトルが相次いで登場。いずれの作品もロングランヒットとなり、いずれも累計で1,000万本を優に超えるヒット作となり、スイッチを大いに盛り上げます。
特に『マリオカート8 デラックス』は、Wii U版のパワーアップバージョンという立ち位置だったものの、Wii Uではプレイしなかった潜在的なユーザーを大量に取り込み、現時点で6,820万本という驚異的な販売実績を積み上げています
その後も、『あつまれ どうぶつの森』、『大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL』、『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット』、『スーパー マリオパーティ』など、数千万本クラスのヒット作が相次ぎ、スイッチの人気を不動のものとしました。
■携帯性が潜在的なユーザー層を掘り起こす
発売前から懸念されていた携帯性も、実際には有用な機能として好評を博しました。一般的なスマホは多機能ゆえにゲーム性能は特化しておらず、カジュアルなゲームは十分楽しめるものの、ハイスペックなゲームとなると役者不足の面が否めません。
また、スマホによるゲームプレイはタッチ操作が主体となるため、操作感はどうしても乏しくなり、プレイの一体感が得にくかったり、繊細な操作がやりにくい場面もありました。スマホ向けのコントローラーもありますが、一緒に持ち歩く場合、スマホの利点である携帯性が低下するデメリットが発生します。
その点スイッチは、本体自体のサイズはスマホより大きいものの、Jpy-Con部分まで含めてデザインされており、大きめのバッグなら厚くなくとも問題なく収まります。加えて、サイズのおかげで画面が広く、スマホよりも迫力を感じやすいのも利点のひとつでした。
「携帯してゲームを遊びたい」という欲求がスマホで満たされていたのも事実ですが、「スマホ以上のゲーム体験を気軽に味わいたい」という、当時は表面化されていなかった要望があり、スイッチの存在はそれに応える答える形となりました。その先見性の高さは、見事というほかありません。
■リッチなゲームを“携帯して遊ぶ”スタイルの復活
スマホの普及により「場所を選ばずにゲームを遊ぶ」といったスタイルがカジュアル層にも浸透し、一方でより高いゲーム体験を求める欲求も生まれました。
携帯して遊ばない人も、腰を据えて大画面で遊ぶTVモードで従来通り楽しめるため、何ら問題はありません。据え置きと携帯の両立で幅広いユーザー層に訴えかけ、今日に至る成功への道を歩み始めることとなります。
また、携帯モードによって発掘された新たな需要は、スイッチの成功だけにとどまらず、ゲーム業界に少なからぬ影響も与えました。
まず、PCゲームを持ち運んで遊べる「ポータブルゲーミングPC」の登場が相次ぎ、今では選択の幅もかなり広がっています。加えて、PS5本体とWi-Fi経由で接続し、ハイレベルなゲームを携帯ゲーム機さながらの感覚で遊べる「PlayStation Portal リモートプレーヤー」も発売されました。
スマホの台頭で絶たれたと思われた「ポータブルゲーム機によるプレイ」をスイッチが改めて切り開き、後続がその道を広げていく。この流れを作り出したスイッチの功績は、疑うまでもないでしょう。
■人気と結果が直結し、1億5千万台を突破
スイッチは、『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』や『マリオカート8 デラックス』といった魅力的な独占タイトルを続々と展開し、携帯モードによる潜在的なユーザーの掘り起こしにも成功しました。
その結果、任天堂の歴代据え置きゲーム機として最も普及した1億5,212万台という記録を打ち立てます。しかも、今後の伸び次第では、携帯ゲーム機である「ニンテンドーDS」が打ち立てた1億5,402万台という記録すら上回る可能性が出てきました。
Wii Uで離れてしまったゲームファンを、「手元のゲームパッドでもプレイできる」というWii Uの構想をさらに進化させたスイッチが取り戻し、パワフルな任天堂が再び存在感を露わとします。
■スイッチが抱え続けた浅からぬ問題も
市場的にも、またユーザーからの評価でも、これ以上ないほどの活躍を見せたスイッチですが、完全無欠というわけでもありません。低価格路線により、「一家に一台」ではなく「一人一台」の普及も可能とした一方で、ゲーム機としての処理性能は同世代のライバル機に差をつけられてしまいます。
低価格のゲーム機は、買いやすいというメリットがあるのと同時に、その分性能が下がるというデメリットが生まれます。この両要素は基本的に相関関係にあり、性能が上がれば価格も上がり、価格が下がれば性能も下がらざるを得ません。
その影響は、描画や動きの美しさ、ロード時間の長短といったプレイの快適度だけに留まりません。ハイスペックな能力を求める大手メーカーの大作ゲームを動かすには少々荷が重く、後年になるほどスイッチでは遊べない人気ソフトが増えていきました。
また独占タイトルにおいても、性能面のネックが浮き彫りになります。例えば『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット』では、画面がカクつくといったフレームレートの問題やエラー落ちなど、いくつもの不具合が発生し、スイッチの限界を感じた人も少なからずいました。
こうした不具合は「性能が上がれば即解決」というほど単純ではないものの、マシンパワーがあれば対処はしやすくなり、快適なプレイに直結するのもまた事実です。
任天堂の公式サイトで公開中の「開発者に訊きました:Nintendo Switch 2」を見ると、「これまでにない新しい遊びを提案するためには、Switchの処理速度がもう少しあるといいのにな、と思うことがでてきました」といった発言が見受けられます。開発側もスイッチのパワー不足に悩まされていた、分かりやすい一例と言えます。
スイッチは、ゲーム専用機による携帯性の需要を再発掘し、独占タイトルで多くのユーザーを魅了しました。その結果、ゲーム人口や携帯ゲーム機の市場を拡大させ、ゲーム史に残るほどの功績を残しています。
一方で性能面の不足は否定できず、この問題は後期になるほど特に痛感させられました。携帯モード専用の「Nintendo Switch Lite」や一部性能を向上させた「有機ELモデル」が後に出たものの、パワー不足を解消するような方向性ではなく、問題は据え置かれたままです。
スイッチの後継となるスイッチ2は、偉大な前任を超えることができるのか。また、前任が抱えていた性能問題の不満を、どこまで解消してくれるのか。その活躍を、これからスイッチが見守ることでしょう。