この『エルデンリング』の要素を一部引き継ぎながらも、時間制限のあるフィールド探索と、オンラインを介した3人協力プレイを基本とした『エルデンリング ナイトレイン』が、2025年5月30日に発売されました。
■ソロプレイの改善がわずか3日後!
プレイ感や手触りは『エルデンリング』と異なるものの、『エルデンリング ナイトレイン』も難易度が高めで、3人で力を合わせても強敵に膝を屈することが多々あります。
また本作は、3人による協力プレイのほか、ひとりで遊ぶソロプレイにも対応しています。しかし、ソロだと戦いは更に厳しくなり、挑んだ者の多くが道中やボスで散っていきました。
『エルデンリング ナイトレイン』でソロプレイはやめておこう、といった諦め気分もSNSの一部に広まりますが、その意見が盛り上がりを見せる前に、フロム・ソフトウェアはソロプレイのバランス調整を発表。そして予告通りの調整を行い、入手ルーンや一部の遺物入手の際にレアリティが高くなる確率を上方修正しました。
しかも、アップデートを予告したのは発売日当日で、実施したのは3日後の6月2日。驚くほどのフットワークの軽さで、ソロプレイの改善に取り組みました。
協力プレイを打ち出した『エルデンリング ナイトレイン』で、フロム・ソフトウェアはなぜこれほど迅速に、ソロプレイの難易度を緩和したのでしょうか。
■難易度ゲームを手がけるフロム・ソフトウェアの“優しさ”とは
発売直後はもちろんのこと、ソロプレイに対する要望は発売前から数多く持ち上がっていました。これまでの“死にゲー”はソロプレイを基本としており、そのスタイルに慣れ親しんだユーザーも多いため、そうした要望が上がるのも無理のない話でしょう。
どんな意見でも無制限に、とまではいきませんが、ユーザーの要望を受け止めて調整するのは珍しい話ではありません。そうした声に応えるのは作品としての完成度を上げるためでもありますし、売れ行きに響く悪影響を排除する目的もあるものと思われます。
しかし、ここまで短期間で予告・対応するケースは、かなり稀有といえます。方針の決定だけならまだしも、緩和するアップデートをわずか3日後に実施するスピード感は、舌を舌を巻くなかりです。
この実行に英断があったのは間違いありませんが、同時にフロム・ソフトウェアの“優しさ”も含まれているのかもしれません。
■『SEKIRO』が垣間見せる、敢えての“隙”
フロム・ソフトウェアのゲームは、“死にゲー”に限らず、高めの難易度でバランスを取っているものが多数あります。その難易度に抗って立ち向かい、時には心が折れて立ち止まるものの、挑戦を繰り返して乗り越える達成感は格別の味わいです。
“難しい”と頻繁に言われるゲームを作るフロム・ソフトウェアに向けて、“優しい”といった表現を当てはめることに違和感を覚える人もいるはず。しかし同社の作風には、明確に“優しさ”を感じさせる一面があります。
例えば、“死にゲー”の中でも特に手ごわいと話題になるゲームのひとつに『SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE』があります。本作は全般的に厳しい戦いが続きますが、その中でも指折りの強敵として立ちはだかる「葦名弦一郎」に、多くのプレイヤーが膝を屈しました。
しかし何度も戦ううちに、意外と対処が分かりやすく、本作独自のシステムに慣れれば慣れるほど、弦一郎はあしらいやすくなっていきます。
また、『SEKIRO』のラスボス(ネタバレ回避のため名前は伏せます)は非常に手ごわく、その強さは弦一郎の比ではありません。本作独自のシステムである「弾き」からの「体幹崩し」を狙わなければ、とても勝機を見出せそうにありません。
ですが、とある連撃の後には明確な硬直(といっても、攻撃をぎりぎり避けてダッシュで近づき、通常攻撃を数発を入れられるかどうかの短い隙)があり、そのわずかな隙だけを突き続ければ、「弾き」をしなくとも勝利を手にすることができます。
この戦い方だと非常に時間がかかるため、攻略法としてはまったくお勧めしませんが、「弾き」が苦手なプレイヤーでも『SEKIRO』のクリアは可能です。
絶対に「弾き」を使わないと勝てないよう、ラスボスの強さを調整することも出来たはずですが、フロム・ソフトウェアはその隙を残す選択肢を選んでいます。そして、弦一郎を絶妙な強さに設定することで、適したタイミングで『SEKIRO』のシステムを理解できるよう誘導している節も見受けられます。
■手ごわいけど逃げ道もある『エルデンリング』
世界的なヒット作となった『エルデンリング』にも、心が折れそうな体験がしっかりと用意されています。特に、ボスのひとり「マレニア」の強さは驚異的で、最難関とも囁かれました。
「マレニア」のようなボスが立ちはだかる『エルデンリング』ですが、この作品はオープンフィールドなので、そのボスに勝てなくとも行き詰まることは滅多にありません。一旦切り替えて他の場所を探索すれば、そこで新たな武器屋アイテムが手に入りますし、自然とレベルも上がります。
寄り道が豊富なので、「そこで戦力を高めてから強敵と再戦する」というのも、『エルデンリング』らしい遊び方のひとつです。
「マレニア」に立ち向かうか、それともスルーするか。『エルデンリング』には、どちらも選べる選択肢の自由があります。『SEKIRO』の「弾き」を必須としない調整と同じように、難しさだけにこだわるのではないフロム・ソフトウェアの配慮が窺えます。
同社の高難易度ゲームは、決して「易しい」とは言えません。しかし、「高難易度」のみに固執せず、上級者以外のプレイヤーでも楽しめるような「ゆとり」や「隙」があるのも確か。こうした調整に、そこはかとない“優しさ”を感じるのです。
『エルデンリング ナイトレイン』のソロプレイ緩和が、これほど迅速に行われたのも、上級者だけに視点を合わせるのではなく、中級者や初心者に向ける意識を忘れることなく、敏感に動く態勢を持ち続けているためかもしれません。
プレイヤー層を広く見つめるフロム・ソフトウェアの“優しい”視線は、『エルデンリング ナイトレイン』でも健在なのでしょう。