訪問看護の現場で出会った、15歳のASD(自閉スペクトラム)の男の子は、人との関わりを避け、自室でスマホゲームに没頭する日々。母親は「スマホばかりで、人とも話さない」と心配し、「依存なのでは」と悩んでいました。


私自身も彼との関わり方に悩む中で出会ったのが、彼が毎日プレイしていた『Pokemon Trading Card Game Pocket(通称:ポケポケ)』というスマホゲームです。これは、ただの娯楽ではなく、彼にとって安心できる世界のように見えました。

この記事では、『ポケポケ』というゲームの特徴や、発達特性のある子どもにどのように受け入れられているのかを紹介していきます。

◆彼との出会いは言葉少ないが、カードには反応した
その男の子はASDの診断を受け、中学卒業以降学校に行けない状態が続いていました。ご家族の依頼で定期的に訪問をするようになりましたが、当初は表情も固く、あいさつに軽くうなずくだけ。ほとんど会話ができない日が続きました。

しかしある日、彼がじっと見つめていたスマホ画面を何気なく覗いたとき、そこに映っていたのが『ポケポケ』です。画面には色とりどりのカードが整然と並び、パック開封のアニメーションが流れていました。「それ…ポケカ?」と私が尋ねると、彼は少し驚いたようにこちらを見て、小さくうなずき「さっき、SR出た」そう言って、画面をそっと見せてくれたのです。それが、彼との初めての会話らしい会話でした。

◆『ポケポケ』の魅力!カードを集めるだけでも楽しい、スマホ向けポケモンカードゲーム
『ポケポケ』は、ポケモンカードの魅力をスマホで気軽に体験できるゲームです。

特徴的なのは、毎日2パック無料でカードを開封できること。
開封演出も本格的で、カードを1枚1枚めくるときの感覚はまさにリアルなポケカに触れているかのようです。集めたカードはコレクションとして保管・閲覧できるほか、デッキを組んで簡単な対戦も楽しめます。

・開封時の演出がリアルでクセになる
カードパックを指でタップすると、まず美しいアニメーションでパックが開き、1枚1枚のカードが丁寧に光をまといながら現れます。

たとえば、「イマーシブレア」と呼ばれるカードが出た時は、背後に全画面アート演出が流れ、カードのポケモンがまるで飛び出すかのように動きのある映像で登場。ピカチュウが草むらを駆け抜ける様子や、リザードンが火を吹き上げる姿など、まるでアニメのワンシーンのような短編映像が再生されることもあります。このカードの世界をのぞき込むような体験は、視覚・聴覚の刺激が心地よく、ASDの子が感覚的に安心できる要素にもなり得ます。

・集めたカードを眺める楽しさがある
引いたカードは自分だけのコレクションに保存され、アプリ内で並べ替えたり、細部をじっくり眺めたりできます。たとえば、「バシャーモ(フレアストライク)」の背景が燃え上がるような赤だったり、「ミミッキュ(ばけのかわ)」のARカードでは、暗い部屋の中にひっそり佇む様子が描かれていたり…。

こうした背景付きカードのビジュアル美は、アートブックをめくるような感覚に近く、戦う以外の楽しみ方として、見ることにも価値があるゲームとなっています。

このように、ただカードを集めるだけでなく「開けて・見て・飾る」体験が用意されているのが、『ポケポケ』の他にはない魅力です。特に、静かに集中したい子どもや感覚刺激に敏感な子にとっては、安心して遊べるお気に入りの世界になりやすいと感じています。彼の場合、バトルにはあまり興味を示しませんでした。
代わりに、カードを引くこと・並べて眺めること・カードの効果を自分なりに考えることを、とても大事にしていたように感じます。

「このシリーズは背景がかっこいい」「これは前に出た進化前のやつと合わせると強くなりそう」そんなふうに、誰に説明するでもなく、ただ自分のペースで世界を楽しんでいるように見えました。そこには、競争や他人との比較とは無縁の、自分だけの静かな熱中があるのではないでしょうか。

◆ASDの特性と『ポケポケ』の相性、「安心して集中できる世界」
彼のようにASDの特性を持つ子どもたちは、日常の中で予測できない出来事や人とのやり取りに、無意識のうちに大きな疲れを感じています。「次に何が起こるか分からない」「相手の意図が読み取れない」「気持ちをうまく言葉にできない」そんな不安が積み重なり、日常そのものがストレスになってしまうこともあります。

しかし、『ポケポケ』のようにルールや流れがはっきりしていて、自分のペースで進められるゲームは、安心できる世界をつくってくれます。カードを引くときのドキドキは、不安ではなく楽しみな刺激。勝ち負けに縛られず、自分だけで完結できる遊びだからこそ、心が落ち着くのです。彼はよく、自分で組んだデッキのスクリーンショットを撮っていました。「これ、今気に入ってるデッキ」と、スマホを少しだけ傾けて見せてくれたときの顔はとても穏やかで、そこに無理のない達成感があることが伝わってきました。

カードを並べたり、進化系を揃えたりすることも、彼にとっては「自分の世界を整える」安心の時間。誰かに評価されることもなく、SNSやチャットのような機能に煩わされることもない。
人とのやり取りに気を遣わなくていい空間だからこそ、心から安心できるのでしょう。

◆親にできることとは?「ゲームをやめさせる」よりも、「子どもの視点に立つ」
彼との関わりを通して、私は何度も「これは依存ではなく、自分の心や気持ちを整えるための行動なんだ」と実感しました。だからこそ、子どもがゲームに夢中になっているとき、それを否定するのではなく、少しだけ視点を変えてみることをお伝えしたいのです。「今日はどんなカードが出たの?」と聞いてみる。初めはルールを知らなくても大丈夫です。「なんかキラキラしてるね」「これかっこいいね」といった感想だけでも、子どもは嬉しく感じます。

ゲームは、依存ではなく心を落ち着けるためのよりどころになることもあります。ただ、長く遊んでいると親として不安になることもあるでしょう。そんなときこそ、声のかけ方や関わり方を少し工夫してみることが大切です。

たとえば、「今日はどんなカードが出た?」と聞いてみる。「その背景、きれいだね」と共感する。「そろそろ休憩しようか」と促す。
このように一度受け止めてから提案するだけでも、子どもの反応は驚くほど変わります。「自分の好きを否定されなかった」という経験は、自己肯定感の育ちにもつながっていきます。

彼が一度だけ、自分のスマホを私の目の前にそっと置き、「見てもいいよ」と言ったことがありました。「どこまで見てもらえるのか」「自分の好きなものがどう受け取られるのか」それを試していたのかもしれません。私は「すごいね、ちゃんと進化系も揃ってるんだ」とだけ伝えました。彼はそれ以上何も言わなかったけれど、きっとその時間は、彼にとって「受け入れられた」という感覚を残してくれたはずです。

◆ゲームは「なにもしない時間」じゃない。『ポケポケ』が教えてくれたこと
『ポケポケ』は、スマホで遊べるシンプルなゲームです。しかし、彼にとっては、ただのゲームではありませんでした。自分の手でカードを引いて、並べて、眺めて、世界を整える。そこには、日常ではなかなか得られない「小さな喜び」や「自分らしくいられる時間」がありました。ASDの子どもたちは、ふだんの生活の中で、多くの刺激や人との関わりに気を張りながら過ごしています。
だからこそ、他人と比べられたり、失敗を責められたりしない自分だけの安心できる世界があることは、とても大切なのです。

『ポケポケ』のように、「ひとりでじっくり遊べる」「カード開封やアニメーションで五感を刺激できる」「失敗がなく、他人と比べられない」「自分のペースで世界を整えられる」そんなゲームは、ただの娯楽ではなく、気持ちを落ち着かせる道具としての意味を持つこともあります。私たち大人にできるのは、「ゲームばかりしている」と表面的に判断するのではなく、「この子はなぜそれに夢中になっているのか」「どこに安心を感じているのか」に目を向けることだと思います。そして、子どもが夢中になるものを否定せず、壊さず、少しだけ関心を寄せてみること。それだけでも、子どもは「自分をわかってもらえた」と感じられることがあります。

ゲームをしている時間は、なにもしてない時間ではありません。特に『ポケポケ』のように、自分のペースで楽しめて、安心して熱中できるゲームは、子どもたちにとって心の居場所になることもあります。だからこそ、私たち大人がその楽しさや意味を理解し、ゲームを通じて子どもの世界にそっと寄り添うこと。それが、ゲームと上手につき合うための第一歩になるのではないでしょうか。
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