主人公は、5機の異なるガンダムに搭乗する5人の少年「ヒイロ・ユイ」「デュオ・マックスウェル」「トロワ・バートン」「カトル・ラバーバ・ウィナー」「張五飛(チャン・ウーフェイ)」。地球から宇宙を支配しようとする地球圏統一連合に対抗するため、彼らは個別の命令系統に従って地球に降下し反乱活動をはじめます。
その名も「オペレーション・メテオ」。
しかし一見、コロニーvs地球の対立構造で進むと思われていた物語は、地球側の組織の変質や異なる組織の登場によってさらなる混沌を呼び、ヒイロたち5人はその荒波の中で翻弄されてしまうのでした。
キャラクターデザインの村瀬修功氏が描く美麗なキャラクターたちの魅力もあり、たちまち女性層の間で人気が爆発した本作。声優・高山みなみさんと作詞家の永野椎菜さんによる音楽ユニット「TWO-MIX」の主題歌も話題になり、番組放送終了後には続編OVA(ソフト販売専用のアニメ作品)『新機動戦記ガンダムW Endless Waltz』が制作されるなど大人気作品となりました。
しかし筆者としては、リアルタイムで視聴していたはずなのになぜかどのような物語だったのか、どんなシーンがあったのか具体的な記憶がありません。はたしてそれはなぜなのか?
改めてちゃんと視聴したことでわかったその理由と、だからこそ今面白いと感じられた部分。同じ要素ながら相反するその部分について語りたいと思います。
また『新機動戦記ガンダムW』に関連し、『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』(以下『ジークアクス』)で初代『機動戦士ガンダム』(以下『ファースト』)に触れた人へ向け、「そのほかファーストを視聴した後なら理解度が深まるだろうガンダム作品」についても紹介したいと思います。
◆イッキ見することで「分かりづらさ」が「おもしろい!」に
配信で再視聴してまず感じたおもしろさは「キャラクターの突然すぎる言動」と「予想を裏切る展開」の2点でした。
「キャラクターの突然すぎる言動」はほぼネタ要素なので割愛するとして、本筋はやはり「予想を裏切る展開」です。
本作はコロニー側と地球圏統一連合の対立からはじまるのですが、その裏では兵器開発を通じて地球圏統一連合を掌握しようとするロームフェラ財団の影があり、そのあたりの構造が物語を動かすことになります。最初の大きな事件は、ヒイロが地球圏統一連合の穏健派の重鎮たちを誤って殺してしまったこと。これによりコロニーとの和平の道が断たれ、さらにコロニーが人質に取られたことでヒイロたち5機のガンダムは戦うことができなくなってしまいます。加えてガンダムが奪われるのを阻止しようとしたヒイロが主役機であるウイングガンダムを自爆させてしまうことに……。
まだシリーズ序盤でこの勢い。まさに目が離せません。しかし問題はここからでした。
ロームフェラ財団の支援を受けながら地球圏統一連合の掌握に成功したエリート部隊「OZ(オズ)」は、そのままコロニー側を懐柔することで戦争を終結に導き、ヒイロたちは戦う意味を失ってしまいます。そんな中、ロームフェラ財団が開発した無人兵器がきっかけでOZの創設者「トレーズ・クシュリナーダ」が組織の代表から解任。ロームフェラ財団の支配者であるデルマイユ公がOZも支配することになります。その一方でトレーズ派の反発を招き、組織としては足元が揺らぐ形へ。
今視聴すると、政治情勢が刻一刻と変化していくこのあたりが大変面白く、半面、ちょっと目を離すとまるで展開が分からなくなる部分でもありました。「本放送当時の印象がない」のはまさにここが原因。週に一度の放送では追いつけない部分があって置いてきぼりになってしまいましたが、一気見すると次の展開が楽しみになるようになりました。
『新機動戦記ガンダムW』といえば、もともと『機動武闘伝Gガンダム』や『機動新世紀ガンダムX』とともに世に送り出された「オルタナティブシリーズ」の第2弾。それまでのガンダムシリーズは、『ファースト』『機動戦士Zガンダム』『機動戦士ガンダムZZ』『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア(劇場作品)』『機動戦士ガンダムF91(劇場作品)』『機動戦士Vガンダム』を展開し、アムロとシャアの物語を終わらせた後もなお宇宙世紀シリーズを重ねて来ました。
しかし宇宙世紀シリーズだけでは限界があることから、まったく世界観の異なるシリーズとして『機動武闘伝Gガンダム』を放送。そのバトンを引き継ぐ形で、宇宙世紀シリーズとも、『機動武闘伝Gガンダム』とも異なる独立した世界を『新機動戦記ガンダムW』で描いたのです。
各組織の政治ドラマに主眼を置いた宇宙世紀シリーズは他に思い当たりませんし、ここまで勢力が入り乱れたガンダムシリーズもおそらく『新機動戦記ガンダムW』が初。そのせいかガンダムパイロットも個人行動が多く、戦艦からカタパルトで射出されるようなシーンもありません。戦国時代における野武士の活躍というか、『七人の侍』に近いようなシチュエーションだと言えるでしょう。
シャアのような仮面の士官「ゼクス・マーキス」がいますし、戦争を別角度で描いているという点では王道ガンダムシリーズっぽくもある本作。
◆『ガンダムW』のほかにもファースト要素があるガンダム作品が!
『新機動戦記ガンダムW』はもともと、ファーストからVガンダムの流れを1本のシリーズでやることをコンセプトに企画が進められました。ゼクスと、ヒロインのリリーナ・ドーリアンがまさにその象徴。ふたりはファーストで言うところのシャアとセイラ・マスであり、ゼクスに至っては喋り方がシャアそっくりなところもありました。
また多くの勢力が入り乱れるというのも、おそらく地球連邦軍から分裂したエゥーゴとティターンズの構図をイメージしたものと思われますし、ネオジオンのような組織も登場しますから、ファーストから逆襲のシャアまでを知っておくとすんなりと頭に入ってくる展開や設定が多く存在します。
実際、筆者も当時は『ガンダムW』のコンセプトを知らずに混乱し、再視聴でそのあたりを知ってから理解した部分もあります。メタ的な部分ではあるものの、『ジークアクス』でファースト・Z・逆襲のシャアを視聴した人なら当時とは違う見え方、あるいは“とっつきやすさ”を感じられるのではないでしょうか。
そのほか『ジークアクス』でファーストを履修した皆さんには、1999年のTVシリーズ『ターンエーガンダム』、2002年のTVシリーズ『機動戦士ガンダムSEED』、2007年のTVシリーズ『機動戦士ガンダム00』、2011年のTVシリーズ『機動戦士ガンダムAGE』もおもしろく感じるかもしれません。
※いずれもほぼオルタナティブのような扱いになっており、ある意味独立した世界となっています。
『ターンエーガンダム』は宇宙世紀シリーズの作品が前文明の遺物として扱われるような世界。発掘されたザクII(ファースト)が「ボルジャーノン」、カプール(ZZ)が「カプル」などと呼ばれ運用される展開があります。
『機動戦士ガンダムSEED』はもはや説明不要の人気ガンダムシリーズ。ファーストを当時の目線で現代風リメイクしたようなストーリーとなっており、続編の『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』もZをイメージした展開で話題になりました。
『機動戦士ガンダム00』の頃になると宇宙世紀シリーズから完全に解き放たれ、独自の路線で個性あるシリーズになっていきますが、それでもファーストを彷彿とさせる要素がありました。それが、アムロが搭乗したRX-78 ガンダムを彷彿とさせる「Oガンダム(オーガンダム)」の登場、そして古谷徹氏そっくりの声質の声優「蒼月昇」氏の起用です。
『機動戦士ガンダムAGE』はファーストからZZまでの流れを「3世代ガンダム」として再構成したようなオリジナルシリーズで、その第1部がまさにファーストを彷彿とさせるものでした。
次に予定されているガンダム作品は、今秋公開の『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』3部作の第2弾『キルケーの魔女』。『新機動戦記ガンダムW』も30周年施策のひとつとして、9月5日から18日まで『新機動戦記ガンダムW Endless Waltz』を全国10館のドルビーシネマで再上映するのでお楽しみに。
『新機動戦記ガンダムW Endless Waltz』は舞台挨拶もありますよ!