「マルチジャンルADV」というジャンルのとおり、推理アドベンチャーをはじめ、ステルスアクションホラーやマルチ視点ザッピングノベルなど、異なる5つのゲームシステムを楽しめるのが特徴です。
筆者は小高氏や、『infinity』シリーズなどで有名な本作のディレクター・シナリオ担当「中澤工」氏のファンなので、『終天教団』は発表時から気になっていたタイトルでした。今回はリリースに先駆けて先行プレイを行う機会をいただいたため、「マルチジャンル」の紹介や感想も含めてプレイレポートをお届けしていきたいと思います。
◆5つのルートと5つのシステム
まずは『終天教団』のあらすじをご紹介しましょう。終天教団という世界の滅亡を待ち望む新興宗教が興した小国「終天教国」が舞台で、主人公が記憶を失っている場面から物語は始まります。
自らを神の使い“天使”だと自称する2人組「ヒメル」と「ミコトル」によって、主人公は自身が何者かに殺害された教団の教祖であり、神の力で生き返った仮初めの蘇生状態であることを教えられます。
「シモベ」と「ドレイ」という言葉から名付けられた、「下辺零」として活動を開始。世界の命運と自らの真の復活をかけて、身体がもつタイムリミットの4日間を駆使して、自らを殺した犯人探しをしていきます。
容疑者は、教団幹部である「法務省幹部・犬神軋」「保健省幹部・丑寅幽玄」「科学省幹部・伊音テコ」「文部省幹部・黒四館仄」「警備省幹部・伏蝶まんじ」の5名。教国の建国記念日である1月1日、何者かに殺されバラバラにされた教祖の遺体は、第一発見者の犬神によって頭部と四肢を、教団幹部がそれぞれ持ち帰って保管することに。そのため見つかっていない胴体を所持している者が犯人の可能性が高いのです。
天使が語るには、下辺零の真の復活に必要な「神の試練」の要件は、自らを殺害した相手を特定して殺すこと。
■犬神軋ルート:推理アドベンチャー
法務省幹部「犬神軋」を犯人だと決めた場合のジャンルは、「推理アドベンチャー」です。第一発見者の犬神と接触した主人公は情報提供と引き換えに、とある依頼を受けることになります。
資産家の遺言開封の立会人として「九々里」家について行くことになるのですが、その遺産相続の権利を持つのは3人の息子たちと、メイド「水野従」を含めた計4名。部外者であるメイドにも相続権を与えられてしまったことで親族一同が荒れるなか、息子の一人が殺害される事件が発生。さらに唯一外に繋がる橋は落とされてしまい、クローズドサークルの館モノミステリーが展開します。
ゲームの流れとしては「捜査パート」で事件の証拠品や情報を集めつつ、「相続会議」で証拠から推理を導き出すというオーソドックスな推理アドベンチャー。特徴的なシステムは「スナッピング」で、指を鳴らすことで強調されたテキストを深掘りしていくことができます。ただし頻繁に鳴らしすぎると不審だということで、「信頼度」が低下してしまうので注意が必要です。
■丑寅幽玄ルート:極限脱出アドベンチャー
保健省幹部「丑寅幽玄」が院長を務める病院に話を聞きに行ったところ、下辺零たちは謎の集団に拉致されてしまい、21名の男女による"コロシアイ”のデスゲームが開幕。犯人として指名した丑寅が死んでしまうと神の試練に失敗してしまうため、合流を目指して進んでいきます。
「極限脱出」というジャンルの通り、3Dダンジョンを進んでパズルを解きながら、他の参加者との会話で自分や丑寅が死なないように選択肢を選ばなければいけません。
特徴は謎の主催者「福音のあ」によって、外部へ配信が流されていること。本ルートの主人公は配信を覗き見る能力を得ますが、気づかずにデスゲームの実況をしている彼女のコメントや反応を頼りにしながら攻略することになります。
■伊音テコルート:マルチ視点ザッピングノベル
科学省幹部「伊音テコ」ルートでは、彼に会うために訪れた研究所「龍宮」で、終天教団に反旗を翻す異教徒によるテロに巻き込まれてしまいます。
「ザッピング」は複数人の視点を切り替えながら進めていくアドベンチャーゲームの形式で、ある人物が起こした行動がまわりまわって他の視点に影響を与えていくのが特徴。今回は地下に閉じ込められた下辺零と、地上にいる伊音テコなどの物語をフローチャート上で交互に体験していき、片方で詰まったらもう片方に切り替えて…という進め方です。
ルートによってUIごと変化するのも売りの本作ですが、このルートでは他とは違い文章がウィンドウではなく、ビジュアルノベルのように画面いっぱい表示。当然テキスト量も増えることから、一番プレイ時間がかかり読み応えがありました。
■黒四館仄ルート:恋愛アドベンチャー(?)
文部省幹部「黒四館仄」を犯人とした展開では、彼女の「恋に狂ってみたい」という願望により毒を盛られた主人公が、要望を叶えて解毒剤を手に入れるために「恋愛アドベンチャー(?)」に挑戦することに。
「終天学園」を舞台に、「黒四館」の苗字を持つ3名「美衣」「菊花」「結愛」と交流を深めて、誰が本物の「黒四館仄」なのかを見つけます。ただジャンルに「?」がついているように一筋縄ではいきません。
本ルートの特徴はUIがポップに変化し、「昼フェーズ」と「夜フェーズ」に分かれたゲーム進行です。
ただ複数人の彼女候補がいるということは、告白した相手が本物ではなかった場合、また他の女性にアタックしなければなりません。全員のご機嫌をうかがいながら限られたターンでゲームを進めていくのは実にスリリングでした。
強烈なバッドエンドもありますが、それはここでは言えないような内容なので、読者が実際に体験してみてください。
■伏蝶まんじルート:ステルスアクションホラー
警備省幹部「伏蝶まんじ」を犯人だとした場合のゲームジャンルは、アドベンチャーゲーム集というべき本作の中では、やや異色の「ステルスアクションホラー」です。
伏蝶まんじに会うために事件が発生した雑居ビルを訪れた主人公は、殺人鬼「ネフィリム」と遭遇し建物に閉じ込められてしまいます。プレイヤーは実際に薄暗いマップの中を探索しながら、先に進むためのアイテムを収集し、鍵を開けたりドアを開けたりといったギミックを解いていきます。
ステージ内はネフィリムが徘徊しており、主人公を発見すると執拗に追いかけてきます。そのため、相手の追跡を止めるシャッターやロッカーを活用しながら、「ネフィリムの倒し方」を見つけるのが目標です。
アドベンチャーゲームファンの中には「アクションが苦手なので楽しめるか分からない」という人もいるかもしれませんが、ネフィリムの動き自体は遅く、あくまでギミック解除に重きが置かれている印象です。
捕まったらゲームオーバーにはなりますが、直前から再開できるため「何度プレイしてもクリアできない」というストレスはありませんでした。
◆マルチジャンルから伝わるADVへの愛
以上の5つのルートが組み合わさっているのが、『終天教団』です。
しかし、実際に遊んでみると各ルート5~10時間ずつの内容が用意されており、すべてをクリアしようと考えると膨大なボリュームで満足できました。
今回マルチジャンルの作品を初めて遊びましたが、一番気に入った点は“常に新鮮な気持ちでプレイできる”ことでした。
本作のようなボリュームたっぷりのゲームで何度も周回することになると、いつも頭をよぎるのが「飽き」の問題です。ですが『終天教団』はルートごとにシステムごと全く異なる体験ができますし、各ルートのボリュームもちょうどよく面白い要素をつまんでプレイしている感覚になります。
また犯人指名を一般的なルート終盤ではなく、ルート突入手段として用いているのも巧みだと感じました。“殺すことになる相手”についても物語を追うごとに深掘りされていき、「やはりこの人しかありえないのではないか」「本当にこの人が教祖を殺害したのかな」という気持ちで反復横跳びすることに。教祖でありながら記憶喪失で何も知らない主人公と同化し、ルートごとに明かされる多角的な情報で、「終天教団」や「神」とはなにかを知っていく過程はスリリングです。
各ルートのジャンル「推理アドベンチャー」「極限脱出アドベンチャー」といったトゥーキョーゲームスのメンバーやファンにとって、馴染み深いものが並ぶのも特徴的。内容も「クローズドサークル」「デスゲーム」などといった王道をなぞるような形で、本作の構成自体はマルチジャンルとユニークで唯一無二ですが、1本のゲームでアドベンチャーゲームの面白さを凝縮して伝えたいという愛がこもった一作でした。
そしてディレクターやシナリオを担当した中澤工氏によれば、本作どのルートから遊ぶかで物語が120通りの楽しみ方ができるとのこと。あなたはどのルートから犯人を追いますか?
『終天教団』は、ニンテンドースイッチ/PC(DMM GAME PLAYER/Steam)向けに2025年9月5日発売。
価格は、通常版が6,980円(税込)。「『終天教団』建国記念スノードーム」などが付属した豪華版が13,580円(税込)。ダウンロード限定のデジタルデラックス版が9,180円(税込)です。
詳しくは、公式サイトをご確認ください。