9月12日の夜、X(旧Twitter)のトレンドに「バーチャルボーイ」といったワードが登場するや否や、たちまち順位を上げてトップに躍り出ました。単語の意味が分からない人にとっては、謎めいたワードの浮上にさぞ驚いたことでしょう。


突然話題となった「バーチャルボーイ」とは何なのか。また、なぜこのタイミングで盛り上がったのか。その背景と実態に迫ります。

■「バーチャルボーイ」トレンド入りの理由は、「Nintendo Direct」にあり
「バーチャルボーイ」とは、任天堂が1995年に発売したゲーム機の名称です。多くの方がご存じの通り、任天堂はファミリーコンピュータからニンテンドースイッチ2まで、様々なゲーム機を開発・発売し、時代ごとに印象深いゲームシーンを生み出してきました。

この「バーチャルボーイ」も、そうしたゲーム機のひとつです。しかし、今から30年も前に発売された「バーチャルボーイ」が、なぜ話題の的となったのか。それは、9月12日に配信された番組「Nintendo Direct 2025.9.12」に理由があります。

「Nintendo Direct 2025.9.12」では、スイッチ2やスイッチで遊べる多種多彩なゲームソフトの情報が、60分にもわたって綴られました。この番組の中で、「Nintendo Switch Online + 追加パック」の専用サービスとして、「バーチャルボーイ」のゲームが遊べる「バーチャルボーイ Nintendo Classics」が発表されたのです。

「バーチャルボーイ Nintendo Classics」の配信は、2026年2月17日にスタートします。
専用サービス(有料)への加入こそ必須ですが、15タイトルものバーチャルボーイソフトが順次配信される予定です。


しかし、今回「バーチャルボーイ」が話題となったのは、ゲームソフトのサービス提供だけが理由ではありません。このサービスを楽しむための施策が、多くのゲームファンを驚かせたのです。

■話題になった「バーチャルボーイ」って、一体なに?
「バーチャルボーイ Nintendo Classics」は、スイッチ2とスイッチの2ハードに対応していますが、いずれかのゲーム機のみでは遊べません。実は、別売りの専用機器を導入する必要があります。

その機器とは、当時発売された「バーチャルボーイ」を細部まで忠実に再現した「バーチャルボーイ for Nintendo Switch 2/Nintendo Switch」(9,980円 税込)です。その見た目は、ほとんど「バーチャルボーイ」と変わらず、そのまま現代に蘇ったかのような外観です。

「バーチャルボーイ」は一般的なゲーム機とは大きく異なり、ヘッドマウントディスプレイに近い形状の本体と、それを支える2脚の台座で構成されています。

通常のヘッドマウントディスプレイのように自身の頭部にセットするのではなく、台座に支えられた本体に頭を近づけて密着して遊ぶというスタイルです。大雑把な紹介となりますが、双眼鏡を覗き込むような姿勢で遊ぶ、と言えば想像しやすいかもしれません。

ゲームで遊ぶ姿勢としてはかなり特異で、実に個性的だった「バーチャルボーイ」。そのスタイルをこの令和に再現し、機器のデザインまで再現した任天堂のこだわりぶりにこそ、多くのゲームファンが驚かされたのです。

なお、「バーチャルボーイ Nintendo Classics」を遊ぶための機器は必要ですが、台座がなく直接手で持つ紙製の「バーチャルボーイ (ペーパーモデル) for Nintendo Switch 2/Nintendo Switch」(2,980円 税込)もあります。
ユーザーの好みに合わせて選択できるのも嬉しい点です。

ただし、「バーチャルボーイ for Nintendo Switch 2/Nintendo Switch」は、見た目の再現度は限りなく高いものの単体だけではゲームを遊べず、ゲーム画面を映すディスプレイ部分も機器側にはありません。スイッチ2もしくはスイッチを機器にセットし、その画面をのぞき込むような形で遊びます。

■時代の先を行き過ぎた「バーチャルボーイ」の苦戦
性能面まで含めた復刻ではないものの、配信されるソフトを遊ぶ環境を再現するため、「バーチャルボーイ for Nintendo Switch 2/Nintendo Switch」を商品化した任天堂の徹底ぶりには、感服するばかりです。

そして、驚きをもうひとつ後押ししたのは、「バーチャルボーイ」の存在そのものにもあります。「バーチャルボーイ」の最大の特徴は、右目と左目の視差を利用した立体表現を可能にした点にあり、奥行きから迫りくるボールや、立体感のあるキャラクター描写などに秀でていました。

「バーチャルボーイ」が発売された1995年当時は、「セガサターン」や「PlayStation」といったゲーム機が発売されたばかり。ポリゴンによる3D表現が加速し始めた頃に、任天堂は体験としての立体視に踏み出していました。

ただし、その挑戦は良好な道のりではありませんでした。他社のゲーム機、特に「PlayStation」は多くのゲームファンから好意的に受け止められ、順調に販売台数を伸ばしていました。

『リッジレーサー』に『ジャンピングフラッシュ! アロハ男爵ファンキー大作戦の巻』、『エースコンバット』、『アクアノートの休日』』、『アークザラッド』など、見た目も刺激的でゲームとしても魅力的なラインナップが続々と登場し、確かな支持を集めていきます。

こうした名作がリリースされた後に登場した「バーチャルボーイ」は、立体視という独自の強みはあったものの、その魅力が分かるのは体験したプレイヤーのみ。
また、グラフィックも赤と黒のモノトーンに限られており、ゲーム画像だけを見ると地味な印象が拭えません。

一般的な家庭用ゲーム機とはコンセプトも目指した体験も異なるのですが、「ゲーム機」というくくりで比較された場合、性能的にもゲームソフトのラインナップ的にも苦しい立場にありました。

「PlayStation」に「セガサターン」、そして任天堂自身も1996年に「NINTENDO64」を投入し、“次世代機争い”が活発だった時代。その渦中に、体験を重視した特化型の「バーチャルボーイ」が広く成果を上げるのは難しく、発売当初から伸び悩み、最終的には定価を大きく下回る“投げ売り”に近い状態で販売する店舗もあったほどです。

注目こそ集めたものの普及には届かず、販売台数の少なさから“任天堂の黒歴史”と揶揄する人もいた「バーチャルボーイ」。性能などの厳しい条件の中でも立体視体験を実現した挑戦的なゲーム機は、しかし市場の期待に応えることなく静かに幕を閉じました。

■それでも愛され続けている「バーチャルボーイ」
ただし、「バーチャルボーイ」の試みそのものが失敗だとは言えません。任天堂が立体視を試みた歩みは古く、ファミコン時代にも「ファミコン3Dシステム」で迫力ある体験に挑戦しています。

「バーチャルボーイ」の歴史も含めた立体視への挑戦は、2011年に発売された「ニンテンドー3DS」に繋がっており、特別な機器を必要としない裸眼による3D立体視機能を実現。この体験に驚き、忘れられない思い出になったユーザーも多いことでしょう。

また、「Nintendo Direct 2025.9.12」で発表された「バーチャルボーイ for Nintendo Switch 2/Nintendo Switch」が大きく話題になったのは、ゲームファンの中で「バーチャルボーイ」の存在感がしっかりと根付いていたため。購入する人は少なかったものの、ある種のカリスマ性を持っており、今回の盛り上がりはその証左とも言えるでしょう。


少なくないゲームファンの記憶に刻まれ、今回改めて注目を集めた「バーチャルボーイ」。時代を先取りし過ぎた立体体験が、この令和に楽しめるようになります。

懐かしく新しかった「バーチャルボーイ」の魅力を、これからはスイッチ2やスイッチの画面越しに堪能しましょう。「バーチャルボーイ Nintendo Classics」の幕開けは、2026年2月17日です。
編集部おすすめ