ホロライブ所属VTuber「獅白ぼたん」さんの今年の生誕祭のテーマは、彼女にとって大好きな音楽ジャンルにもなっている美少女ゲームソング。さらにマルチバースをコンセプトのひとつに据え、ストーリーパートと歌唱パートを交互に構成する3Dライブとして2025年9月8日、ぼたんさんのYouTubeチャンネルにてライブ配信されました。


イラストレーター「A-KA」氏が手がけたメインビジュアルも「美少女ゲーム好き」を爆発させたようなイラストになっており、たとえば恋愛モノの定番であるセーラー服をぼたんさんが着ていたり、各ウインドウはドット絵時代まで遡る、各年代のグラフィックの特徴をすくい上げたものとなっていたりします。「START」「LOAD」といったUIもそのままですね。

しかし、そもそもなぜぼたんさんは男性向けに作られた美少女ゲームを好きになり、それらテーマソング等の楽曲に夢中になったのでしょうか? 本稿では、3Dライブのお礼配信として翌9日に実施された振り返り配信で語られたぼたんさんの想い、そしてかつて様々な分野で大きな影響を与えた美少女ゲーム文化について振り返りたいと思います。

◆1曲目から「うおおおお! 懐かしい!!」の大反響
「美少女ゲーム」と「マルチバース」がコンセプトになった3Dライブということで、ストーリーパートはまるで美少女ゲームのような画面構成と雰囲気に。歌唱パートではぼたんさんが大好きという各美少女ゲームソングを、ソロ、あるいはゲストとともにコンビで歌う流れになっていました。

ステージではライブスタッフの提案もあり、PCスペックのギリギリを攻めるほど光の演出にこだわったという今回の3Dライブ。光の粒子が舞ったり羽が舞い落ちたりする等、美少女ゲームのオープニング映像に使われていそうな演出を多用するという高い技術力と演出で視聴者を魅了しました。

なおセットリストおよび歌唱担当は以下の通り。「Disintegration」は音楽制作プロダクション「I've」(アイブ)のアルバム収録曲、「がおってこ!」はこの配信で初披露となったぼたんさんの新オリジナル楽曲となります。そのほかはすべて美少女ゲームの楽曲でした。

01.LOVE.EXE(ラブドットエグゼ)___歌:獅白ぼたん(出典:バルドフォースエグゼ)

02.完全少女論___歌:AZKi &獅白ぼたん(出典:スワローテイル-あの日、青を超えて-)

03.コトダマ紬ぐ未来___歌:大神ミオ&獅白ぼたん(出典:アマツツミ)

04.breath of stella___歌:角巻わため&獅白ぼたん(出典:終のステラ)

05.Disintegration___歌:獅白ぼたん(出典:I'veのアルバム収録曲)

06.ILLEXECUTION___歌:ラオーラ・パンテーラ&獅白ぼたん(出典:ヘンタイ・プリズン)

07.とある竜の恋の歌___歌:アキ・ローゼンタール&獅白ぼたん(出典:竜†恋[Dra+KoI])

08.Into Gray___歌:響咲リオナ&獅白ぼたん(出典:白昼夢の青写真)

09.Asphodelus___歌:天音かなた&獅白ぼたん(出典:穢翼のユースティア)

10.がおってこ!___歌:獅白ぼたん(出典:獅白ぼたん新曲)

このセットリストに視聴者とともに反応したのは、ホロライブID所属のアーニャ・メルフィッサさんと、ホロライブEN所属のフワワ・アビスガード&モココ・アビスガード姉妹(以下、フワモコ)。

アーニャさんは「他の選曲もだけど、『breath of stella』をまさかホロで見れるなんて思わなかった!」と興奮気味。
フワモコのお2人も「まさかLOVE.EXEまで…?!?!」と驚きつつ、頭上で両腕を交差させる「E!\(^o^)/ X!(/\) E!\(^o^)/」の振り付けをXに投稿していました。

今回、ぼたんさんが選んだのは、美少女ゲームのジャンルの中でも年齢制限のあるものがほとんど。そのためアーニャさんだけでなく、ぼたんさんも「カバー社の許可が出るのかな?」と若干の心配があったそうです。

しかしフタを開けてみれば特に問題はなく、むしろ楽曲が古く、活動停止してしまったメーカーもあることから、そちらの許可がもらえるのか? そもそも問い合わせ先が分かるのか? という点で窓口になったマネージャーさんが苦労したとか。

その中から「この楽曲はこのホロライブメンバーに歌ってもらいたい!」という意図で組んだ今回のセットリスト。1曲目だけは最後まで悩んだそうで、当初は別の楽曲を歌う予定でしたが、やはりオープニングは勢いが欲しいということで最後の最後に「LOVE.EXE」に決めました。

実は「LOVE.EXE」は、声優であり音楽クリエイターの桃井はるこさんが作詞・作曲・歌唱を担当したもの。桃井さんのライブでも一番盛り上がる楽曲です。桃井さんのライブでは最後にこの「LOVE.EXE」を歌うことが多く、ライブ会場に集ったファンは最後の力を振り絞ってウルトラオレンジのペンライトを振り、踊り狂う様子がもはや“名物”となっています。

興味深いのは、ぼたんさんの生誕祭の翌日に横浜で開催されたアイドルイベント「超FREE BOMBER!!」です。こちらのイベントに桃井さんも出演しており、セットリストの最後で「LOVE.EXE」を披露してくれたのですが、その際はMC部分でぼたんさんの生誕祭について触れていました。

桃井さんは「これからゲームを起動するぞ!という意味で1曲目にしてくれたのかな。
聞き込んでくれて、解釈してくれて、本当に嬉しいです」という旨の発言をし、さらに「歌詞の『いくつもの名前といくつもの身体を つかい分けてうまく生きているけど』の部分は、今考えるとVTuberっぽいですよね。そんなことも思いました」と語ります。そして普段からよく歌枠などで自分の楽曲を歌ってくれているフワモコのお2人にも「ありがとう」を告げていました。

その部分はまさにぼたんさんも振り返り配信で触れており、曲タイトルの「LOVE.EXE」から「絶対これ1曲目じゃん」と思ったこと、「最初に歌えて本当に良かった」と楽しそうに語っていました。

※拡張子が「exe」のファイルをダブルクリックする等、実行することで美少女ゲームが起動します。

◆「聞いたことはないけど、なんかいい曲だよね」と思ってほしい
ぼたんさんが美少女ゲームに興味を持ったのは、ニコニコ動画で名曲を紹介するハッシュタグを辿ったのがきっかけでした。実際にプレイしたのはその後のこと。曲から入り、ストーリーにも泣かされ、年齢制限の表現もありましたが、そのストーリー性の高さの虜になったそうです。

そもそも美少女ゲームは「アダルトゲームなのに泣ける」として1990年代後半に「泣きゲー」ブームを巻き起こしたことがありました。

そこまで人を惹きつけるのは、おそらく年齢制限のある媒体だからこそ。表現の懐が深く、またクリエイターが好きなものを作れる土壌があったからでしょう。強い性描写がある作品でも哲学的なテーマを扱っていたことで話題になったことがありましたし、三国志の武将を美少女化した「恋姫†無双 ~ドキッ☆乙女だらけの三国志演義」がきっかけで女体化ブームが起きたこともありました。


美少女ゲームがきっかけで生まれた文化や変化といえば、電波ソングや深夜アニメも忘れられません。電波ソングはもともと秋葉原の大音量の宣伝に負けないよう、桃井はるこさんがインパクトを重視して「いちごGO!GO!」の楽曲を制作。それがネットを中心に話題になったことで広くファンを獲得するきっかけになりました。電波ソングに分類される楽曲はそれ以前からあったものの、ブームとして認知が拡大したのはやはり美少女ゲームの存在が大きかったと言えます。

また美少女ゲームは人気の広まりとともに深夜アニメの常連になったり、PSPなどの携帯ゲーム機を中心に一般バージョンが制作されたりして、2000年代美少女ブームの牽引役を担いました。秋葉原の宣伝広告は美少女ゲーム一色でしたし、人気の「Fate/stay night」シリーズも元はアダルトゲームだったのは有名な話です。

ぼたんさんは「楽曲から入ってゲームもやって、そのストーリーに普通に泣かされた」と感想を語っていましたが、同じホロライブに所属するVTuber「さくらみこ」さんもやはり美少女ゲームを愛するひとりとして、かつて「女の子たちがかわいいから」と好きな理由を語っていました。

年齢制限のある男性向けのジャンルであるため色眼鏡で見られる部分があり、仕方のないことではあるものの、やはり良いものは良いというのが正直なところ。一般作品では描けないような危ういストーリーも、理解不能なまでの哲学的なテーマも、奇抜なアイデアを活かした独特の世界観も、そして作家性を思う存分発揮して描いた感動のストーリーも、性別を越えるほどの魅力があってこその人気。

3Dライブで楽曲が使用された作品はすでに中古でしか手に入らないような作品もあり、また入手できてもCD-ROMドライブのような読み込みデバイスが別途必要だったりするためハードルは決して低くはないでしょうが、まずはぼたんさんが好きになった作品を探してみてはいかがでしょうか。

なお、ぼたんさんが良いと思ったポイントは「歌詞やサウンドが作品に寄り添っているものが多く、またそのドラマ性も重視しているところ」とのこと。

とくにニコニコ動画のハッシュタグで知ったというI'veの楽曲は、当時アルバムなどを買いあさってほぼすべての楽曲を聞いたとか。
好きすぎてセットリストの半分くらいI'veの楽曲で埋まりそうだったため自重しましたが、5曲目に披露した「Disintegration」などはI'veのアルバム収録曲から選んだという特にこだわりの強い一曲になりました。

美少女ゲームの、とくに年齢制限のある方は近年フルプライスでの展開が減少傾向にあり寂しい想いをしている人が多いはず。しかし3Dでリメイクされた「To Heart」や、「同級生」「下級生」といったリメイク作品が新たにリリースされていますし、イベントも今年5月に実施された萌えソング中心の「ススメ★萌でんぱ少年!!」や、美少女ゲームに特化したDJライブフェス「Featured BGM. Vol.0」も10月11日に開催されます。

また今冬発売予定の「ゆんゆん電波シンドローム」は、ぼたんさんも大好きというKOTOKOさんの楽曲を含む電波ソングでリズムゲームができるタイトルということで注目です。

「懐かしい」で終わらず、あの頃が感じられる各作品やイベントを今一度見直してみてはいかがでしょうか?

振り返り配信の中で「聞いたことはないけど、なんかいい曲だよね。そう思ってもらえる楽曲を選びました」と目を細めていたぼたんさん。

良いものを作っても見つけてもらわないと廃れてしまう。しかし見つけてもらおうとするあまり、それが目的となることもあって本末転倒になることが多い。かつてぼたんさんも見つけてもらうことが目的となってしまったことがあり、「何のために作ったり、やってるんだろう?」「私は(本来夢見たこととは)違うことをしているのかもしれない」と悩んだことがあったそうです。

しかしぼたんさんは、「自分のやりたいことをすれば自然と笑顔になれる。笑顔で活動できればファンもきっと嬉しいはず」と思い、周囲に振り回されず、自分のやりたいことをやるよう決めました。そのあたりは「年齢制限の中で自分の表現を貫く」という美少女ゲームと通じる部分がありそうです。


もちろん自分のやりたいことだけをやっていては偏ってしまうのでバランスも必要ではあります。しかし結果として、ラーメン企画や「ストリートファイター6」の大会「獅白杯」を実施することができました。いずれも好評の企画です。

今回の美少女ゲームのコンセプトライブは、おそらくそんな「良いものをもっと広めたい」という想いがあって企画したもの。そんなことを思わせてくれる良い3Dライブだったのではないでしょうか。

ちなみにライブ本編のほかにも、メンバー限定アンコールライブも別途配信しているので、よければぜひ。
編集部おすすめ