国内外でその名が知られている『ファイナルファンタジー』(以下、FF)シリーズは、RPGを中心に様々なジャンルのゲームが登場しました。その中には、戦略・戦術が問われるシミュレーションRPGもあり、1997年に発売された『ファイナルファンタジータクティクス』(以下、FFT)が、その代表的な作品と言えます。


『FF』でお馴染みの魔法やジョブなどを取り入れ、手応えのあるシミュレーションバトルと重厚で過酷な人間ドラマを組み合わせた『FFT』は、多くのゲームファンを魅了し、同ジャンルの歴史に残る作品となりました。

さらに、PSP版の『ファイナルファンタジータクティクス 獅子戦争』が2007年に発売されたほか、後にiOS/Android版もリリース。華々しい展開が続きますが、ゲームの展開としてはここからしばらく音沙汰がなくなり、沈黙期間に入ります。

そして、この沈黙を破るのが、2025年9月30日に登場するリマスター版『ファイナルファンタジータクティクス - イヴァリース クロニクルズ』(以下、FFT イヴァリース クロニクルズ)です。

平成初期にリリースされた『FFT』が、果たしてどのような形で蘇るのか。この令和の時代に、『FFT』のプレイ体験はどう感じられるのか。発売に先駆けて遊んだ体験を元に、『FFT イヴァリース クロニクルズ』のプレイレポートをお届けします。

なお、今回プレイしたのはSteam版になります。また、オリジナル版を再現したクラシックモードではなく、追加要素を加えたエンハンスドモードに関するプレイレポートです。

■当時面白かったゲーム性は、令和7年にも通用するのか?
『FF』シリーズは作品によってゲームシステムが変わることが多いものの、様々な職業を使い分ける「ジョブ」や、特別な効果が得られる「アビリティ」といった要素を思い浮かべる人もいるはず。

『FFT』は、様々なジョブを渡り歩きながら多彩なアビリティを習得し、自分好みの組み合わせや編成を見つける模索が楽しいゲームでした。もちろんこうした基本的な要素は、『FFT イヴァリース クロニクルズ』のエンハンスドモードにも受け継がれています。


しかし、目的とするジョブへのチェンジや、特定のアビリティを取得するには、少なからず時間がかかります。育成に時間がかかるのは、一般的なシミュレーションRPGも同様なので、これ自体が問題なわけではありません。

ただし昨今は、いかに短い時間で済ませるか、もしくは同じ時間でもより濃い体験ができるのかといった“タイムパフォーマンス重視”の風潮もあります。限度こそありますが、時間のかかるコンテンツや遊び方は敬遠されやすいのも事実でしょう。

当時は、時間がかかっても育成は楽しい要素でした。しかし、『FFT イヴァリース クロニクルズ』でも、あの時のような育成の楽しさを感じられるのか。便利な時代に慣れてしまった身としては、一抹の不安がありました。

■不安を吹き飛ばした、変わらぬ魅力と進化したシステム
こうした不安に関する結論を先に述べると、『FFT イヴァリース クロニクルズ』の育成は懸念の必要がないほど楽しいひとときでした。なにぶん昔のことなので、オリジナル版を遊んだ時との正確な比較こそできませんが、本作のプレイ中はずっと“ゲームらしい楽しさ”を味わっていたように思います。

“ゲームらしい楽しさ”とは、主人公のラムザや仲間たちをどういう風に育てるか、そのためにはどのジョブにつき、どんなアビリティを覚えさせるか。そうした育成計画をはじめ、レベルアップに必要な経験値稼ぎ、徐々に獲得するアビリティで変化する戦い方など、シミュレーションRPGで味わいたい要素の数々です。

こうしたプレイの最中に、「もどかしさ」や「苛立ち」がまったくなかったと言えば、それは嘘になります。
例えば、新しいジョブへチェンジするには他のジョブのレベルを上げなければならず、「今回のバトルでも成長しきれなかったか」と条件を満たせずもどかしく感じたこともありました。

また、設定で難易度を調整できるものの、『FFT イヴァリース クロニクルズ』はスタンダードでも結構な歯ごたえがあり、ちょっとしたミスで一気に形勢が不利になることもしばしば。自分の判断が甘かったとはいえ、想定外の被害に思わず苛立ったことも否定はしません。

しかし、成長しきれずに戦闘が終わった後は「次こそレベルアップだ」と意気込んでいましたし、ミスしてもその挽回を模索したり、バトルに敗北してもどうリベンジしようかと計画を練ることで頭がいっぱいでした。

「そんなのは、ただの個人的な性分では」と言われれば、確かにそうかもしれません。しかし、そうした気持ちになりやすい流れを、『FFT イヴァリース クロニクルズ』のゲームシステムが生み出してくれたように思います。

■「つまみ食い」で繰り返す小さな達成感が、プレイ意欲を大いに高める
ジョブチェンジを一般的なゲームに当てはめれば、いわゆる「転職」に近い要素です。そして多くのゲームで、転職にはかなりの手間がかかりがち。しかし『FFT イヴァリース クロニクルズ』の場合、序盤のチャプター1を普通に遊んでいるだけでも、いくつものジョブにチェンジできるペースでゲームが進行します。

もちろん、各ジョブを極めよう(=全アビリティの取得)と思ったら相応の時間がかかります。しかし、本作のゲームを順当に進めるという意味では、ジョブを極める行為は過剰な育成で、時間的にもかなりの遠回りです。

オリジナル版も同様ですが、『FFT イヴァリース クロニクルズ』はジョブを極める手もあるものの、それぞれの美味しいアビリティだけつまみ食いし、次々とジョブを乗り換えていいゲームシステムになっています。


取得したアビリティは、装備枠の制限こそありますが、別のジョブに乗り換えても使用できます。攻撃魔法を得意とする「黒魔道士」と回復のエキスパート「白魔道士」を兼ねるという至極便利なキャラクターも、つまみ食いをすれば序盤時点で達成可能です。

つまみ食いなので使える魔法の数は限られますが、序盤は最大MPも低いため、上級の魔法を覚えても消費MPが足りないか、1発撃っておしまいになります。それなら、基本的な魔法しか持たずとも、攻撃・HP回復・蘇生の魔法をひとりで行えるキャラがいた方が、戦闘はグッと楽になることでしょう。

「つまみ食い=中途半端」というイメージを持たれがちですが、『FFT イヴァリース クロニクルズ』では立派な戦略のひとつ。また、「育成に時間がかかる」というのはある程度の完成形までを含めた話で、直近のジョブチェンジや狙ったアビリティの取得に限れば、それほど大きな手間はありません。

育成におけるひとつひとつの目標は達成しやすく、そのたびに達成感があり、戦闘における恩恵もすぐ実感できます。そうなると、「今度はあれが欲しい」と次の欲が生まれ、さらに達成し、恩恵を受ける。この小さな満足感のサイクルが早く回るため、「もどかしさ」を感じてもそれはネガティブにはならず、むしろプレイ意欲へと繋がってくれます。

また、このサイクルで得たジョブやアビリティが増えるほど敗北は遠ざかり、勝利の喜びが占める割合が増えていきます。あの時感じた「苛立ち」も、勝利の快感をより味わうための良質なスパイスに一変しました。

タイパは時間の絶対値も重要なポイントですが、大事なのは時間が過ぎた後に「充実していた」と実感できるかどうか。
1時間も使ってしまったと思うか、気づけば1時間があっという間だったと感じるか。この点、『FFT イヴァリース クロニクルズ』のプレイ体験は圧倒的に後者で、それを促す仕組みがゲームサイクルとして促されていたように実感しました。

長々と説明を交えましたが、「令和のゲーム環境に慣れた身でも、『FFT イヴァリース クロニクルズ』のプレイは楽しかった」というシンプルなまとめを、その答えとさせてください。

なお、エンハンスドモードではバランス調整が行われており、ジョブポイントの入手量や一部アビリティの使い勝手が変わっているとのこと。この調整による変化も、良質なサイクルを生み出す一助となったのかもしれません。

■「エンハンスドモード」の便利さから離れられない!
プレイ体験の全体的な実感は先ほど述べた通りですが、エンハンスドモードならではの要素が刺激的だったのも、プレイ体験の充実に繋がった要因のひとつでした。

まず、特に没入感の促進に貢献したのが「フルボイス化」による演出です。ネタバレ防止のため詳しくは語りませんが、『FFT イヴァリース クロニクルズ』の物語は重厚かつ人間らしさに溢れており、欲望や野心、そして身分差による傲慢さや怒りなどを正面から描いています。

登場人物の台詞には力があり、強い意志を感じさせるものが多いため、声優陣による卓越した演技がことさら光ります。声が言葉を膨らませ、言葉が声に力を与える。この相乗効果は、物語が進むほどにパワフルさを増してプレイヤーに襲いかかります。

しかもフルボイス化の影響は、物語上のやり取りだけではなく、呪文の詠唱といった戦闘中の演出にも関わってきます。
毎回ではなく時折発生する形ながら、戦う彼らの息吹を如実に感じられるため、こちらも嬉しい演出といえます。タイパが気になる人は、ボタンひとつでスキップできるのでご安心を。

様々なジョブを経由して多彩なアビリティを身に着け、その組み合わせを模索するのが『FFT イヴァリース クロニクルズ』における楽しさのひとつ。そのジョブチェンジに関わる条件は「ジョブツリー」で視覚化されているので、一目で確認可能です。

本作は育成が楽しいゲームですし、モンスターを仲間に加えることもできるため、数多くのユニットを育てたくなるかもしれません。そうしたプレイスタイルも、「最大50ユニットまで所属可能」「ジョブ・アビリティ・装備の組み合わせを、キャラごとに3つまで登録するマイセット機能」といった充実したシステムが、楽しみをサポートしてくれます。

メインストーリーの進行以外でもバトルが発生しますが、敵と戦いたくない時は選択肢ひとつで回避できます。逆に、キャラを育成したい時は、プレイヤーの任意でバトルを発生させられるので、無為にうろつく必要はありません。自分のペースを作りやすいのも、嬉しいポイントと言えるでしょう。

メニュー画面からセーブが選べるほか、オートセーブにも対応しています。戦闘に突入する寸前や、戦闘中の特定のタイミングで自動的にセーブされるため、任意でセーブせずにゲームをやめてしまっても大きく戻されることはありません。

また、ストーリーの進行中はもちろん、戦闘中も「早送り」が可能です。
敵のターンを早く終わらせたい時などは、早送り機能を使うことでテンポよく楽しめます。このほかにも、行動順や魔法の発動タイミングなどを常に可視化する「コンバットタイムライン」といった要素が、プレイ環境の向上に貢献しています。

深みのある物語をより豊かに表現する新要素もあれば、ゲーム性の軸となる育成を大いに助けてくれる機能もたっぷり詰まった『FFT イヴァリース クロニクルズ』。オリジナル版の良さを受け継ぎながら、エンハンスドモードではその長所を重点的に伸ばす調整が行われています。

かつて『FFT』を遊び、そして令和のゲーム環境に慣れてしまった一個人の例に過ぎませんが、『FFT イヴァリース クロニクルズ』は今遊んでも遜色のないプレイ感と遊び甲斐に満ちた作品でした。

便利機能の数々やシナリオのリライトおよび一部加筆に惹かれて、エンハンスドモードに没頭してしまいましたが、オリジナル版を極力再現したクラシックモードが楽しめる点も、往年のファン心をくすぐります。

「『FFT』の世界に、気軽にアクセスしたい」「かつての名作を、今の環境で遊んでみたい」と思う人は、検討する余地が十分ある作品に仕上がっていると感じました。育成や物語の魅力は時代が変わっても色褪せず、そしてプレイ環境は全般的に向上と、実に贅沢な一作です。

(C) SQUARE ENIX
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