地方都市の公共交通事業者にとって、今や「観光客への対応」は絶対にやらなければならないことでもあります。少子高齢化時代を迎えた日本において、国内外の観光客は低迷する売上を底上げする最大にして唯一の要素。現実世界においても、日本各地の鉄道・バス事業者が観光客の取り込みに力を入れています。
今回は『はじまる観光計画』をプレイしながら、今現在の日本で起きている「独占禁止法特例法による交通再編」について解説していきたいと思います。
◆昔の観光開発は「熾烈な戦争」だった!
『はじまる観光計画』には、時代毎のシナリオが用意されています。
初心者向けシナリオ「はじまる観光計画」と「夢と希望の街」は、共に1990年代のお話。その一方で「通える古都を目指して」の時代設定は、1955年です。この都市は京都をモチーフにしていると思われますが、当時の京都は今ほど観光開発がされておらず、まさに「古都」の姿を保っていました。日本文学研究者のドナルド・キーン博士が京都大学大学院に留学していたのも、ちょうどこの頃です。
戦後10年ほど経ったあたりから平成を迎えるくらいの間の観光開発は、経済的な上昇気流に乗った人々の旅行需要を取り込むためのものでした。
有名なのが、「箱根山戦争」です。これは50年代、箱根の観光開発を巡る西武グループと小田急・東急グループの激突劇。
ただし、それらはもはや昔話。2020年代の今行われている観光開発は、一言で言えば「地域の公共交通を延命させるため」に行われています。
◆「独禁法特例法」が日本の公共交通を変える!
現在の日本各地で進められているのが、冒頭に書いた「独占禁止法特例法による交通再編」です。
たとえば、同じA市の中にB社、C社、D社という3つの路線バスが存在するとします。この3社は、上述の箱根山戦争のように熾烈な競争を繰り広げていました。しかしそれは、A市の人口が増加の一途を遂げていたからこそできた競争です。A市の少子高齢化が著しい今、競争よりも共同経営を実施してA市の路線バス網を効率化・スマート化したほうが得策です。具体的には、バス停の共用や運賃の統一基準化、同じ銘柄のキャッシュレス決済の導入などが挙げられるでしょう。
ところが、それは2020年以前の独占禁止法では「カルテル」と見なされる可能性がありました。
そこで制定されたのが、「地域における一般乗合旅客自動車運送事業及び銀行業に係る基盤的なサービスの提供の維持を図るための私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の特例に関する法律」。
熊本県では路線バス5社が全く同じ日に交通系ICカードの取り扱いを中止し、代わりにタッチ対応クレジットカードによる乗車システムを取り入れたということがありましたが、それは国交省から独占禁止法特例法の認可を受けた上での施策の一環です。
このプロジェクトは、関連各社の「こういう計画ができたらいいね」「よしやろう」という簡単な思いつきでできるものでは当然ありません。該当自治体と市区町村及び県の議会の承認を経て、ようやく具現化する一大プロジェクトです。
こんな具合の「公共交通機関と自治体のつながり」に関しては、『はじまる観光計画』でもしっかり再現されています。
◆自治体と連携しながら進める開発
『はじまる観光計画』では、地元住民の移動ニーズを反映しつつ地域外からやって来る観光客をいかに呼び込むか……というのが攻略の鍵になります。それには、自治体との密接な連携が欠かせません。このゲーム、いずれのシナリオでも「自治体から地域おこしを依頼される」というきっかけからスタートします。
そういう意味で、『はじまる観光計画』は「日本の行政の仕組み」をきめ細かく再現していると言えるのではないでしょうか。日本の場合、国土開発を主導するのはそれぞれの市区町村です。国が、ましてや総理大臣が鶴の一声でプロジェクトを始動させられる構造にはなっていません。
それは、日本という国の地形の複雑さも要因として多分にあります。
同じ市内でも、「人が集まる地区」というのは複数存在します。そこを鉄道で接続する……と書けば非常に簡単ですが、山で分断された両地区の交通網を整備するのはまさに難事業。『はじまる観光計画』でも、「地形の段差」がプレイヤーの目の前に立ちはだかります。
「ええい、海も山も乗り越えてやる!」という気持ちで適当なところに駅や線路を設置してしまうと、あとで後悔することに。初心者が無計画で線路を敷いた結果、そこを走る電車同士がごっつんこしたり、住宅街を分断するような路線になったり、挙句の果てには非合理的なルートがたたって会社が経営危機に陥ったり……という点もこのゲームのあるあるです。
ただ、今作では「観光資源」という概念が存在し、それがシリーズ未経験の人に対する「取っつきやすさ」「分かりやすさ」を発生させているようにも見受けられます。
観光資源が存在することで、それを目当てに市外からやってくる人をゲストとして取り込むことができます。観光客がもたらす収益は当地の公共交通機関を支える土台となり、結果として地元住民にも大きなリターンが発生する……という流れを『はじまる観光計画』で体験することができるのです。
『A列車で行こう はじまる観光計画 Nintendo Switch 2 Edition』は、ニンテンドースイッチ2向けに発売中。「日本の公共交通分野の整備事業」を学ぶ上でこの上ない作品と言えます。
【参照】国土交通省
https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/transport/sosei_transport_tk_000153.html


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