1995年のTVシリーズ放送以来、アニメーションの枠を超えて社会現象を巻き起こし、2021年の「シン・エヴァンゲリオン劇場版」で大きな節目を迎えた「エヴァンゲリオン」。しかし、作品としての展開は終わっておらず、「エヴァンゲリオン」完全新作シリーズの制作始動が発表されました。
世界中のファンが「次はどのような物語になるのか」と固唾を呑んで見守る中、とりわけ注目を集めているのが制作スタッフの陣容です。なかでもシリーズ構成・脚本として名前が挙がっているヨコオタロウ氏に、ゲームファンが熱い視線を送っています。
ヨコオ氏といえば、ゲームクリエイターとして世界的に数々の実績を残してきた人物です。今回の参画はゲームファンにとってもただ事ではなく、衝撃と期待を持って受け止められています。本記事では、大抜擢されたヨコオタロウ氏の歩みと、彼が手がけてきた伝説的なゲーム作品を振り返り、その作家性に迫ります。
■『ドラッグ オン ドラグーン』:狂気と絶望の連鎖、そして伝説の「新宿」へ
2003年9月11日、PlayStation 2向けアクションRPGとして発売された『ドラッグ オン ドラグーン』は、ヨコオ氏の原点とも言える作品です。
本作のゲーム性は、地上で無数の敵をなぎ倒していく「地上戦」と、強大なドラゴンに騎乗して戦う「空中戦」を使い分けるダイナミックなものでした。しかし、それ以上にプレイヤーを驚愕させたのは、その物語の展開と結末の数々です。
本作はマルチエンディング方式を採用していますが、最初に多くのプレイヤーがたどり着く「Aエンド」は、決して手放しで喜べるものではありません。主人公と「契約」を結んだパートナーとも言うべき存在の竜が、世界を守るために自らの身を投げ出して封印となる……という結末です。
過酷な戦いを共にしてきた竜は、プレイヤーにとってもかけがえのない相手でした。そのため多くの人が「もっといい結末、彼らが報われる未来をつかみ取ろう」と、別のエンディングを目指して周回プレイを開始します。しかし、その先に待っていたのは、さらなる絶望の深淵でした。
「Bエンド」では、主人公の妹を媒介として生まれた異形の赤子のような生物が爆発的に蔓延し、空一面を覆い尽くすという、生理的な恐怖と絶望が入り混じる結末を迎えます。そして「Cエンド」では、あろうことかパートナーである竜が本能に支配され、主人公と殺し合うという悲劇が描かれました。
さらに物語は「Dエンド」「Eエンド」と続いていきますが、いかなるルートを辿ろうとも、一般的にイメージする「諸手を挙げてのハッピーエンド」には辿り着きません。マルチエンディングと聞くと、当初は不幸な結末でも、条件を満たせば救いが提示されるものだと想像しがちですが、『ドラッグ オン ドラグーン』はページをめくるたびに、「異なる味付けの悲劇」が提示される念の入りようでした。
なかでも、通称「新宿エンド」と呼ばれるEエンドはゲーマーたちの語り草となっています。この結末では、ラスボス的な存在を追いかけた主人公と竜が、時空を超えて現代世界の新宿に辿り着き、ビル群の上で最後の戦いを繰り広げます。そして見事に勝利を収めるものの、その直後、現代世界の戦闘機から「正体不明の飛行物体」として攻撃を受け、二人はあっけなく撃墜されてしまいます。
この衝撃的な展開は、当時のユーザーに「忘れられないトラウマ」を植え付けると同時に、熱狂的なファンを生むこととなりました。この反響を受けて『ドラッグ オン ドラグーン』はシリーズ展開を遂げ、ヨコオ氏は1作目に続き3作目もディレクターとして関わったほか、2作目には映像編集として携わることになりました。
■『ニーア ゲシュタルト/レプリカント』:救いとの天秤にかけられたセーブデータ
2010年4月22日、ヨコオ氏がディレクターとして次に世に送り出したのが、アクションRPG『ニーア ゲシュタルト/レプリカント』です。
本作は、プラットフォームによって主人公の設定が異なるという珍しい試みがなされました。PlayStation 3版の『ニーア レプリカント』では青年が主人公、Xbox 360版の『ニーア ゲシュタルト』では壮年の男性が主人公となり、妹あるいは娘である「ヨナ」を守るために戦う物語が展開されます。
物語の舞台は、文明が崩壊した後の遠い未来。「黒文病」という謎の不治の病に罹っているヨナを支えるため、主人公は日々奔走します。生活は決して楽ではありませんが、物語の中で出会う「白の書」や、孤独な戦士「カイネ」、呪われた少年「エミール」といった仲間たちとの出会いを通じて、ささやかな日常を紡いでいきます。
しかし、平穏な暮らしを脅かす「マモノ」の勢力は増大する一方であり、ついにはヨナが「魔王」に攫われてしまいました。その後、仲間たちの必死の協力や尊い犠牲のもと、主人公は魔王の打倒に成功します。しかし、この作品にもヨコオ氏らしい過酷なマルチエンディングが用意されていました。その中には「暴走したカイネを自らの手で殺める」という、『DOD』のCエンドを彷彿とさせる悲痛な結末もあります。
その中でも、プレイヤーの心に最も深く刻まれたのが「Dエンド」です。このルートでは、死にゆくカイネを蘇らせるための希望が提示されます。
「存在そのもの」とは、単に作中のキャラクターが命を落とすだけではすみません。主人公が生きてきた歩み、これまでの思い出、すべてが対象となります。つまり、主人公が命を落とすだけではなく、ヨナやカイネを含めた、出会ったすべての人々の記憶からも「最初からいなかったこと」として消し去られてしまうのです。
そしてヨコオ氏は、この喪失をプレイヤー自身の体験として突きつけました。カイネを救うためには、「プレイヤーのセーブデータ」を物理的に削除しなければならなかったのです。
苦労してレベルを上げ、武器を揃え、物語を歩んできた証であるセーブデータ。その削除を選んだ者だけがたどり着けるDエンドには、当然主人公の姿はありません。カイネやヨナも、なぜ自分たちが助かったのか、誰を失ったのかを思い出せません。唯一、その存在を覚えているのは、画面の前にいるプレイヤーだけなのです。
かつてないほど切なく、孤独なエンディングを迎える本作は、主人公が消えたことで、プレイヤーにとって「一生忘れられない作品」となりました。
余談になりますが、バージョンアップした『ニーア レプリカント ver.1.22474487139...』が2021年に発売され、こちらではDエンドのさらなる先の物語も描かれています。
■『ニーア オートマタ』:希望の代償は「他者のための犠牲」
2017年2月23日に発売された『ニーア オートマタ』は、ヨコオ氏が手がけた作品の中で最も世界的に知られ、かつこれまでの作風の集大成とも言える作品です。
物語の舞台は、異星人が送り込んだ「機械生命体」によって地球が奪われ、人類が月に逃げ延びた遥か未来。地球を奪還するため、人類が作り出したアンドロイド兵士たちが地球に降り立ち、果てしない戦争を繰り広げます。そしてプレイヤーは、アンドロイド兵士のひとり「二号B型(通称:2B)」となり、戦場にその身を投じます。
本作でもマルチエンディングが採用されており、周回プレイによって主人公を入れ替わらせつつ、多角的な視点から物語が紐解かれていきます。「人類vs異星人」という構図でありながら、実際に戦うのは「作られた命」であるアンドロイドと機械生命体。この代理戦争の虚しさや、科学の業を感じさせるテイストは、ヨコオ作品らしい風味と言えるでしょう。
ゲームを進めるにつれ、機械生命体側の真意や、この戦争の裏に隠された驚愕の真実が明らかになるにつれ、今回も「勧善懲悪」では語れない複雑で残酷な物語が浮き彫りになっていきます。
そして、いくつもの切ないエンディングを経て、最終ルートの先に待っているのは、前作でも提示された「セーブデータの削除」です。しかし、本作におけるその意味合いは、過去作とは一味違う切り口となっていました。
最後のエンドにたどり着く直前、プレイヤーの前には極めて難易度の高いシューティングゲームが立ちはだかります。
しかし、本作に用意された展開は、ここからが真骨頂。困難なステージを乗り越えた後、プレイヤーが問いかけられます。「自分のセーブデータを消去して、他の誰かを助けるために捧げるか?」と。
実は、さきほど自分が受けた「救援」は、「セーブデータを失ってでも誰かを助けたい」と願った先人たちの犠牲によって届いたものでした。自分のデータが消えても、世界のどこかにいる、まだ最後のエンドに辿り着けていない誰かの助けになれるなら。そんな想いが込められた「救援」だったのです。
かつて受けた恩を、見知らぬ誰かに返すために、自分の大切な歩みを消すのか。「救いと引き換えの代償」だった『ニーア ゲシュタルト/レプリカント』に対し、「誰かのための献身」というテーマへと進化したこの選択は、プレイヤーにとって衝撃的なプレイ体験となりました。
厳しい世界を描き、希望には必ず痛みや代償が伴うと投げかけ続ける。そうしたヨコオ氏の手法が、『ニーア オートマタ』に集約されています。
ヨコオ氏の代表作である『ニーア オートマタ』は、発売から約9年が経過した2026年2月に、全世界累計販売本数1,000万本という大記録を達成。国内だけに留まらず、世界が認める作品に成長しました。
ヨコオ氏がこれまで手がけてきた作品の数々は、常にプレイヤーの心に深い傷を残し、同時に「生きることの痛みと美しさ」を刻んできました。だからこそ、『エヴァンゲリオン』という作品と関わることでどんな物語が生まれるのか、期待は高まるばかりです。


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