本記事でスポットを当てるのは、A&L Project株式会社に所属する映像技術者の依田勝義氏と、同社代表の國府島誠氏です。依田氏は、国内にわずか数人しか存在しないと言われる「eスポーツライブ配信リプレイヤー」のひとり。60分の1秒単位で名シーンを切り出し、実況・解説のタイミングに合わせて瞬時に映像を差し込むその技術は、まさに職人技です。一方、代表の國府島氏は、映像制作の現場を統括しながら、現在はeスポーツを通じた新たなコミュニティ形成を目指す「e活」プロジェクトを牽引しています。
プロバスケのリプレイ担当からキャリアをスタートさせ、独学で技術を磨き上げてきた依田氏。そして、華やかなプロシーンの裏側で、地域活性化や新たな出会いの場づくりを見据える國府島氏。映像制作の最前線で戦う二人に、一瞬のドラマを切り取るリプレイヤーの醍醐味から、草の根コミュニティ「e活」が描くeスポーツの未来像まで、詳しくお話を伺いました。
◆そもそも「リプレイヤー」とは
――まずは、リプレイヤーというお仕事は具体的に何をするのでしょうか?
依田勝義氏(以下、依田): 「ここでいいプレイが起きたからこの映像を使おう」と切り出していく仕事ですね。eスポーツの多くは敵を倒すのがひとつの目的なので、基本的には敵を倒したシーンを切り取っていきます。
実際には、キルが起きたところを摘み取って、1個のファイルにします。で、プレイリストに入れると、今のラウンドのキルがすぐ再生できる。そうすると、実況やMCの方が「さっきのキルシーンどうでした?」「こういう状況でしたね」という解説ができるんです。
――そもそも、我々が見る配信画面はどのような仕組みで作られるのでしょうか。
依田:基本的には、オペ卓(オペレーション卓)と呼ばれる裏方のブースで、10人ほどのスタッフが分業して一つの画面を作っています。テロップ担当、映像切り替え、ゲーム内カメラ(オブザーバー)、音響、そしてリプレイヤーなどがいます。
國府島誠氏(以下、國府島):仕組みとしては、まずゲーム画面がたくさんあり、それを「ゲームスイッチャー」に入力します。そこで選ばれた映像が「メインスイッチャー」に送られます。メインスイッチャーには、選手を撮るカメラ映像、テロップ、そして「リプレイ映像」など、全ての素材が集まります。それらを最終的に合成・選択して、視聴者の皆さんが見ている一つの配信画面として送り出しているんです。
◆僕らが見る「リプレイ」はどう作られているのか
――リプレイはどのように作成されるのでしょうか?
依田:基本的な手順としては、各選手の視点やカメラ映像など、複数の入力ソースをモニターで監視し、敵を倒したシーン(キルシーン)などの「良いプレイ」を探します。実際には、キルが発生した瞬間、そのシーンの開始点(イン点)と終了点(アウト点)を指定して映像を切り取ります。切り取った映像はプレイリストに登録します。
――すごいスピード感ですね。これは常に録画し続けているんですか?
依田:そうですね。
今、この画面では4画面ぐらい見てるんですけど、常に気になったところをパンパンパンって……。
――そこから良いカットを選ぶわけですよね。試合はどんどん進んでいきますが、どうやって判断しているんですか?
依田:リアルタイムで「ここいいな」「これ、キルされた」と思った場所に印(イン点・アウト点)をつけていきます。
――かなり感覚的というか、直感的ですね。
依田: そうですね、直感ですし、そもそもゲームを知らないとわからないじゃないですか。ルールを知っていても、このゲームが上手くないと「今ここで誰が倒されて、次ここで多分やられる」という予測もできないので、ゲームのスキルも必要です。
――ゲームによってはスキルを使うタイミングや場所も重要ですしね。
依田: そうですね。それを予測して作って、「ここでできました」って言って、残り20秒の間に「じゃあ再生いきます」で出す。で、5秒前、4、3、2、1で、またこっちの画面に戻って……この作業をひたすら、ずっとやるというお仕事です。
――ちなみに、このリプレイを作る機材は専用のものなんですか?
依田: 専用です。
――1試合のリプレイ操作は、基本的に何人体制で行うんですか?
依田: 現場にもよりますが、基本的には1人です。
――えっ、1人ですか?
依田: そうですそうです。だからもう、集中力と……本当にそういうのに特化した人間じゃないと。このリプレイができる人間も、全国に結構限られた人数しかいなくて。どうしても東京一極集中をしてる感じですよね。
國府島: 世界大会だと何人か入れて、5人全員分を分けてやってたりするんですけど、日本だと今現状、力技でやってるみたいなところですね。予算の問題もあって、リプレイだけに何人も入れられない。「リプレイそこまでお金かけられないよね」という風潮はまだあるのが現状です。
◆一瞬を切り取るプロフェッショナル、膨大な情報量を捌ききる
――未経験からどのようにリプレイ技術を習得されたのですか?
依田:最初はeスポーツではなく、バスケットボールの試合で「明日やって」と現場で無茶振りをされたのが始まりです(笑)。見所や見映えなどは学校で学んでいましたが、ルールも操作も手探りの中で、ファウルの音がしたらそのシーンを出す、いいプレイがあったらハイライト用に積み上げる、ということを必死に覚えました。
その後、eスポーツの案件、最初は格闘ゲームや、モバイルのタワーディフェンスゲームに関わるようになり、現場で経験を積んでいきました。
――フィジカルスポーツとeスポーツのリプレイで、違いはありますか?
依田:フィジカルスポーツは、選手の表情や必死さがカメラで捉えやすく、そこに「熱量」が生まれやすいです。一方でeスポーツは、基本がゲーム画面なので、選手の表情(ワイプ)がない大会だと、その熱量をどう伝えるかが課題です。
國府島: フィジカルスポーツだと、カメラマンが“良い顔”を撮ってくれるんですよね(笑)
依田:タイトルによっても全然違います。格闘ゲームはコンボが発生して終わるまでがワンセットなので比較的作りやすいですが、FPSなどは、チーム内のボイスチャット(VC)をリプレイに乗せることもあります。プレイだけでなく、会話の面白さや文脈を切り取る必要があり、柔軟性が求められます。
國府島: どんな球が来ても打ち返せる力が必要です。依田は配信のメインスイッチャーなどもできるので、いろんな現場での経験があるのが大事ですね。
――「何も起きていない場所を撮ることもある」と聞いたのですが、これはどういう意味でしょうか?
依田:「これから何かが起きそうな場所に構えておく」という意味ですね。
FPSで言えば、単に敵を倒す瞬間だけを繋ぐのではなく、「なぜそのキルが生まれたのか」というストーリーを見せたいんです。索敵スキルが入ったから位置がバレて倒せた、というような「起点」となるプレイをリプレイに入れる。そうすると、実況・解説の方も「このスキルが入ったから、このキルに繋がったんですね」と説明しやすくなり、視聴者にもドラマが伝わります。
國府島:野鳥撮影のシャッターチャンスを待つのに近い感覚ですね。「絶対にここに来る」と予測して待ち構えている感じです。
――実況や解説は意識することのひとつですか?
依田:「実況の熱にあわせる」ことはめちゃくちゃ意識しています。「さっきのシーン、すごかったですね」と実況が触れた瞬間に、その映像をスッと出せると気持ちいいですし、視聴者が見たいものを提供できたことになります。
國府島:ただ、現場は戦場です。ゲーム音、実況の声、ディレクターの指示、スイッチャーとの連携、これらをインカムと耳で同時に聞き分けながら、指先で映像を編集しているので、脳の処理は限界ギリギリです(笑)
――競技にフォーカスした大会と、ストリーマー大会などで違いはありますか?
依田:あります。プロの大会だとトッププレイヤーのシーンや、試合の流れがしっかりわかるリプレイを作ります。一方ストリーマー大会では、あまりキルができてなかったプレイヤーがやっとキルできそうな場面など「人」にフォーカスすることもあります。切り替えをゆっくりするなどの工夫もしていますね。
國府島:ある意味ストリーマー大会のほうが難しかったりします。視聴者としての視点で映すべき場所をしっかりディレクションしていく必要があります。
◆「リプレイだけ」では難しい、求められるのはオールマイティな人材
――今後、リプレイヤーという職種や人材育成についてはどうお考えですか?
國府島:現状、eスポーツのリプレイヤー専門職は人数が少なく、特定のコミュニティ内で回しているのが実情です。
依田:以前、あるオブザーバーの結婚式があったんですが、その日に仲間がみんな結婚式にいくので「アサインできる人がいない!」となるくらいには小さいコミュニティなんです。
國府島:ですので、今後は「スイッチャーもできるし、カメラもわかる、その上でリプレイもできる」という、映像制作全般に精通した人材を育てていく必要があると考えています。
――特定の分野だけではなく、eスポーツはあくまで案件のなかのひとつ、といった雰囲気ですか。
依田:案件としてはeスポーツとそれ以外は半々くらいですね。
國府島:eスポーツに限りませんが、「eスポーツのリプレイだけ作りたいです!」で来てしまうと面くらうかもしれません。メインスイッチャーができるのが一番良いですね。視聴者がどのような絵を求めているのかを総合的に判断できるようになるので、幅が広がります。昔はそれがカメラだったんですけどね。
依田:僕も最初にやったのはカメラでしたね。
國府島:やっぱ撮れ高って大事だからね。本当に上手いカメラマンは「これこれ!」となります。でも、カメラができる人はカメラの道に進む人が多いから、そこも難しいんですよ(笑)
◆大谷翔平を生むための環境を作り、第一歩「e活」とは
――最後に、現在取り組まれている「e活」についても教えてください。
依田:「e活」は、eスポーツカフェ同士の店舗対抗戦などを通じて、草の根のコミュニティを作ろうという活動です。
國府島:今はマッチングアプリやオンラインサービスなどを通じてオフラインで会う、という流れですが、かつてのゲームセンターのように「あそこに行けば仲間に会える」というリアルな居場所を作りたい。友達なんて多ければいいじゃないですか、さらにそこに出会いがあればもっと良い。コロナで学生時代をオンラインで過ごしていた世代にも、オフラインで直接会う機会を増やしたいんです。
依田:まずはその一歩として、eスポーツカフェから小さなコミュニティを作って広げていくことが目的です。
國府島:可能であれば、更に広げて、老人ホームにeスポーツ部屋を作って秋田県vs沖縄県、賞品はあきたこまちとシークヮーサー!みたいなこともしたいですね。eスポーツの盛り上がりがグロースしていくなかで、さまざまな文脈でeスポーツを作っていきたいですね。
――より深く、eスポーツの裾野を広げていこうというわけですね。
國府島:例えば、ママさんバレーや草野球のように、生活の一部としてeスポーツを楽しむ文化を根付かせたいんです。そうやって競技人口やファンの裾野が広がれば、そこから大谷翔平選手のようなスターが生まれる土壌になりますし、地域活性化にも繋がります。華やかなプロシーンだけでなく、こうした足元のコミュニティ作りを大切にしていきたいと考えています。
「e活」では、活動の第1弾として『ミメシス』オンラインコミュニティ大会を優勝賞金つきで開催予定。また、新たな事業展開として、イベントへのスポンサードや映像制作の技術提供を発表しています。
さらに今後は、「ゲーム大会を主催したい人への映像運用サポートおよび資金的支援」「コミュニティイベント情報を共有するDiscordの運営」「大会を通じた継続的なゲームコミュニティの形成」を軸に、「大会を開きたい人」と「参加したい人」が自然につながり、帰ったら仲間がいるような場所をつくることを目標に活動していくとのことです。


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