◆参加者
佐々木悠 Japanリージョンゲーム事業本部 企画部 部長(プロデューサー)
新井英資 Japanリージョンゲーム事業本部 技術・編成部 開発基盤グループ(エンジニア)
小林潤 Japanリージョンゲーム事業本部 技術・編成部 開発基盤グループ(クリエイター)
<b>―――最初に簡単な自己紹介をお願いします。</b>
佐々木: プロデューサーの佐々木悠です。新卒で入社後、しばらくゲーム以外の事業を担当していました。その後現在の部署に異動となり、IPものの大型タイトルや『三国志ロワイヤル』、そして『FFRK』の立ち上げを担当しました。
新井: 同じく新卒で入って入社4年目となる、エンジニアの新井英資です。約1年前にプロジェクトが発足したのですが、ソーシャルゲームの開発経験があるエンジニアが自分だけだったので、自動的にリードエンジニアになりました。様々な部署と連携を取りながら、システム全体の立ち上げを総合的にサポートしました。学生時代からアプリを開発していて、その経験が活きているなと感じてます。
小林: 小林潤です。エフェクトの制作から、パイプラインの整備やツール開発まで、色々な業務を担当しました。20年以上コンシューマーゲーム業界を転々として、3年前にスクウェア・エニックスからDeNAに転職してきました。
<b>―――簡単にゲームの紹介もいただければ。</b>
佐々木: ゲームの舞台は、歴代「FF」作品の物語の「記憶」を「絵画」に封印して大切に保管してきたとある王国です。突如何らかの影響で失われてしまった絵画の記憶を取り戻すため、王国の歴史省に務める主人公の少年「デシ」が、絵画に封印された歴代「FF」の世界を旅してまわります。各ワールドが歴代作品の世界になっていて、そこでパーティを組んでダンジョンを攻略しながら、失われた記憶を取り戻していくというのが主な流れです。ビジュアルスタイルは2Dのドット絵がベースで、そこに3Dエフェクトが被さるという形です。
<b>―――遊んでいていろいろと懐かしさを感じました。</b>
佐々木: コンセプトに掲げたのが「FFの追体験」です。ターゲットユーザーも、子どもの頃にスーパーファミコンで『V』や『VI』を遊んだ世代としています。ただし、(スクウェア・エニックスから発売されている)リメイク版と差別化するために、短時間で手軽に「FF」を追体験できるように工夫しました。そこから「記憶世界」というキーワードが生まれ、ダンジョンを攻略していくという形に落ち着きました。
<b>―――スクウェア・エニックスとのコラボは、どのように始まったのですか?</b>
佐々木: もともと『ファイナルファンタジー ブリゲイド ブレイク ザ シール』で共同開発の実績がありました。
<b>―――歴代作品がベースになっているのは驚きました。</b>
佐々木: 運営型のゲームなので、どれか1作だけを題材にするのは難しいんです。そのため最初から「オールスターで」という話はしていました。
<b>―――過去作品からのドット絵の流用はどの程度できたのでしょうか?</b>
佐々木: 大半が『FFRK』のために新たに描き起こされています。ファミコンとスーパーファミコンではドット絵の細やかさが違いますし、『VII』以降はポリゴンになっていますからね。何度かテストをした末、『V』『VI』のテイストをベースにすることに決定しました。
<b>―――御社とスクウェア・エニックスの作業の切り分けはどうなっていますか?</b
>
佐々木: キャラクターのドット絵は、スクウェア・エニックスさんで描き起こされており、ボスキャラクターやダンジョンの資料なども提供いただいています。しかしこれらは一枚絵に過ぎないので、それをパーツごとに分解して動きをつけたり、エフェクトをつけたりするのは弊社の仕事です。ゲームのプログラミングも弊社が担当していますが、出来上がったものはスクウェア・エニックスさんに監修していただいています。
<b>―――「FF」シリーズは各作品に熱烈なファンがついていますし、大変ですね。</b>
佐々木: 「追体験」の焦点をどこに置くのかが重要でした。ドット絵のテイストもさることながら、アクティブタイムバトルなどの特徴的な仕様を、いかにスマホに最適化させるかが大変でしたね。ボスキャラクターはそれぞれ形態や攻撃方法が変わりますが、それぞれの特徴を確認するだけでも大変な作業でした。攻略本も一通り揃っていますが、当然ながら本に載っているのは静止画なので、担当者がひたすらプレイして確認していましたね。
<b>―――開発チームの皆さんもユーザーの頃に遊んでいた世代だったりしますか?</b>
佐々木:「FF」シリーズの中で、自分が初めて遊んだのは『IV』です。それだけに『IV』には思い入れがありますね。ただし、どの作品に思い入れがあるかは人によってバラバラなので、ゲーム化に際してはまんべんなくしています。また事前の調査で分かったのですが、ユーザーに一番人気があるのが『VII』でした。そのため、チュートリアルも『VII』ベースで作っています。
<b>―――苦労された点はどういったところですか?</b>
小林: バトルの演出周りですね。
<b>―――エンジニアリングでこだわったところは?</b>
新井: 最適化です。リリース直前の約1ヶ月でそれまでの3倍以上のパフォーマンスが出るように作り込みました。また、ボスキャラクターの攻撃では個別にAIを作り込んで、原作に即したバラエティ豊かな攻撃が再現できるようにもしています。
佐々木: クロースドβテストでは「熱い」「重い」「プレイ出来ない」という反応が大半で、中には「充電速度よりバッテリーの消費速度の方が早い」なんて声もありました。それらの問題を解消すべく、約1ヶ月間パフォーマンスのチューニングを行いました。新井が社内の人間をどんどん巻き込んでいって、日々パフォーマンスが上がっていきました。
<b>―――パッと見た感じではネイティブアプリのように見えますが・・・</b>
新井: ありがとうございます。実際は『D.O.T.』と同じように自社製ゲームエンジンの「Kickmotor」を使用して、ハイブリッドアプリ(ネイティブとWebViewの組み合わせ)として開発しています。
<b>―――WebViewが共存しているとは気付きませんでした。</b>
新井: そう言っていただけると嬉しいです。最適化の話に戻りますが、WebView側では無駄な更新描画がされていたり、描画レイヤの階層が複雑化していたので、この辺りの処理を最適化することでブラウザの処理負荷を削減しました。ネイティブ側では、OpenGL上での無駄な描画処理が多かったのでそこを削減したり、キャラのゲージなどを一気に描画できるようにするなどして最適化を進めました。「WebViewを使っていてもネイティブに見劣りしない」と言うのが目標でしたからね。
小林:『D.O.T.』以外に『三国志ロワイヤル』でも使われましたが、ランタイムにかなり手を入れているので、もはや別モノといっていいくらいになっていますね。
新井:「Kickmotor」のおかげで完全にイベントドリブンの運用が可能になりました。先日初めてアプリのアップデートをしたのですが、リリースからこれまでにイベントは5回くらい開催しました。アプリの更新無しに、新キャラクターや新アビリティを追加でリリースすることが出来ています。
<b>―――ビジュアル面でのこだわりについてもお聞かせください。</b>
小林: Cocos2DXに対応したエフェクトデータを作成するためのツールを内製で作成しました。必殺技や召喚獣などのエフェクトに注目してもらえると嬉しいです。Cocos2DXのゲームで、ここまでエフェクトがド派手なゲームは他にないと自負しています。
<b>―――音楽もFFらしさが存分に出ていますね。</b>
<img src="http://www.inside-games.jp/imgs/zoom/533947.jpg" width=300>佐々木: BGMは原作準拠で、そのダンジョンで流れていた音楽を必ず使うようにしています。タイトル毎にボスのテーマやバトル曲などが異なるため、膨大な数になっています。そのためゲーム中に裏で逐次ダウンロードを行っています。最初にムービーが流れるシーンでは、一番データをダウンロードしていますね。それ以外にワールドに移動した時などに、ちょこちょこと読み込んでいます。
新井: あとは、新しく入手したアビリティ周りのデータだけを差分で読み込むようにしたりしています。最近は最初にまとめてダウンロードさせるゲームも多いですが、ユーザー視点で考えると、すぐにプレイしたいと思うので。
佐々木: ちょっと話がそれますが、長いチュートリアルは嫌われるとよく言われています。しかし、『FFRK』では「もっとストーリーを楽しみたい」という声が多かったんです。そのため、最初にストーリーをムービーやテキストで楽しんでいただいた上で、ゲームを開始しています。その一方で、オーディオデータのダウンロードも同時に行っているというわけです。
小林: もともとそういったキャッシュの仕組みが「Kickmotor」にあったので、フルに活用しています。
<b>―――バトルがオートにできるのも嬉しい仕様ですが、賛否両論もあったのでは?</b>
佐々木: クロースドβテストの時にはこの機能はなかったのですが、ユーザーからも「オートバトルが欲しい」という声をいただきました。これについては、チーム内でも意見が割れましたね。最終的には、リメイク版の「FF」シリーズでもオートバトルが実装されている点が決め手となり、パフォーマンスチューニングの期間に開発を進めました。リリース後は、ユーザーからも大好評をいただいています。
小林: ボスバトルやピンチの時だけ自分で操作して、あとはオートバトルで楽しむなど、スマホらしい遊び方をされているようです。
<b>―――リリースされてみてどうですか?</b>
新井:リリース後まもなくTVCMやキャンペーンが始まり、一気にユーザが増加したのでサーバ負荷は心配でした。逐次コンテンツのダウンロードが入るので、キャッシュサーバーを上手く使ったり、データベースの設計を工夫したり、いろいろ事前対策は行いましたが、何が起きるかわかりませんからね。おかげさまで、今のところは大きな問題もなく運営できています。
佐々木:ユーザー数も順調に増加しており、当初の想定よりもかなり早く300万ダウンロードを達成できました。予想外のタイミングで想定以上の負荷がかかったりもしましたが、昔からインフラ周りは弊社の得意分野ですので、インフラチームと協力して「絶対に落とさない」という覚悟で進めています。
<b>―――今後の展開について教えてください。</b>
佐々木: 「FF」というIPを考えれば、300万ダウンロードという数字は通過点にすぎないと思っています。今『FFRK』を遊んでいただいているユーザーの方にもっと楽しんでもらえる内容にするのはもちろんですが、まだ遊んでいただけていない方にも、どんどんリーチできるものにしていきたいです。「出して終わり」のゲームではないので、引き続き運営を続けていきます。
<b>―――『FFRK』の開発に参加して楽しかった点はなんでしたか?</b>
佐々木:「FF」は長い歴史があり、作品ごとに根強いファンがいるゲームです。それをどうやってスマホならでは、弊社ならではの付加価値をつけられるかというのを考えていくことが楽しかったですね。そのままリメイクするわけではなく、いかに新しい価値や新しい体験を提供して、より多くの人に遊んでもらえるものにするか、作っている側としても新鮮な経験でした。
新井: エンジニアの立場からすると、自分が作ったものが多くの人に遊ばれることが喜びです。そこでアプリが快適にストレスなく遊ばれているのは嬉しいですね。また今回はチームメンバーにも恵まれました。向上心の高いメンバーばかりで、一緒に仕事ができてよかったです。
小林: コンシューマ向けの大作ゲームと違って開発メンバーが少ないため、即断即決で物事が進むのはやっぱりいいですね。また、自分は昔から「何かを変える」瞬間が好きでした。もともと『FFRK』はそこまでアニメーションを使用するようなものではありませんでしたが、自分でデータ設計から変えてアニメーションを増やし、ド派手なエフェクトも加えました。それでスクウェア・エニックスさんにプレゼンして、OKをいただいたときは嬉しかったですね。アニメーションチームの若手が一生懸命データを量産していて、みんな作業にも慣れてきたので、これからさらにクオリティが上がっていくと思います。期待してください。
<b>―――ありがとうございました。</b>