インターネットが発達した少し未来の物語、大胆なアレンジながらも見たものを引き付けるイラスト、兄弟愛を描いた泣けるストーリー、ゲームボーイアドバンスの音源を最大に生かしたサウンド、アクションゲームとカードゲームを融合させた唯一無二のシステム――本日2016年3月21日で15周年を迎える『ロックマン エグゼ』は、これらの要素が絶妙に合わさった名作シリーズです。

インサイドではこの15周年を記念し、『ロックマン エグゼ』を手がけていたメンバーによる座談会を企画。
名人としてシナリオを手がけた江口正和氏、デザイナーの加治勇人氏、石原雄二氏、中島暁子氏、メインプログラマーの松田幸悦氏という豪華メンバーに集まって頂き、時間の許す限り当時の話を伺ってきました。

内容はナンバリング作品にフォーカスし、事前に実施した読者アンケートの結果を元に構成。シリーズの誕生秘話はもちろんのこと、各分野のこだわりや、大会でのチート?事件、衝撃の「プリズムコンボ」、そして今後の『ロッマンエグゼ』など、当時の思い出が蘇り、時にクスっと、時にジーンと来る、1万字越えの大ボリュームでお届けします。

◆プロフィール

■松田幸悦
・役職:プログラマー
・担当:システム、バトル全般
・好きなキャラクター:トードマン、ゴスペル
・好きなバトルチップ:エリアスチール、バリアブルソード

■江口正和
・役職:プランナー/名人
・担当:シナリオ、マップ、テキスト全般
・好きなキャラクター:光はる香(ママ)、名人のナビ全部
・好きなバトルチップ:カワリミ

■石原雄二
・役職:デザイナー
・担当:主に電脳キャラクターのデザイン
・好きなキャラクター:プログラムくん
・好きなバトルチップ:エリアスチール

■加治勇人
・役職:デザイナー
・担当:エグゼ1のキャラクターデザイン・インゲームキャラのドット絵を少々
・好きなキャラクター:熱斗と炎山
・好きなバトルチップ:ロングソード

■中島暁子
・役職:デザイナー
・担当:主にNPC、ウィルス等。4.5ではUIも。
・好きなキャラクター:ロックマン、アクアマン、フォルテ、熱斗、やいと、ディンゴ
・好きなバトルチップ:ロール

◆ホラーゲームから始まった『ロックマンエクゼ』

――名人さん、それあの白衣じゃないですか!

江口:「さん」はいらない!

――ありがとうございます!ということで座談会を始めさせていただきたいんですが、シリーズ完結から10年が経過しますが、このメンバーで集まられることはありますか。


江口:めちゃくちゃ久しぶりですね。『エグゼ6』の打ち上げ以来だと思います。それにしても……みんな年取りましたよ(笑)。

石原:あのころは、まだ松田君の髪が肩甲骨くらいまであったね(笑)

松田:そうそう金髪でした(笑)。あの頃の開発風景は今でも鮮明に覚えていまして、なんと言ってもゲームボーイアドバンスのローンチタイトルでしたからね。当日の開発環境とか新鮮でしたよ。


――そういえばローンチタイトルでしたね。それでいて『エグゼ』は初代から、既にある程度完成されていたという印象があります。

江口:でもチームで最初に作っていたのはホラーゲームだったんですよ。

――え?どういうことですか。

江口:そもそものスタートは「ゲームボーイアドバンスで何か作ろう」というものでして、指にはめて心拍数を図る――今で言うウェアラブルデバイスと本体を連動させるゲームを作っていたんですよ。テーマは「ドキドキしながら楽しむホラーゲーム」でした。


松田:僕も勉強のため、エキスポランドのお化け屋敷に行ってました。

加治:よく覚えてるね(笑)

江口:それが気づいたら『エグゼ』になっていまして……なぜか(笑)。なんででしたっけ?

加治:たしかね、あの機械が難しいってなったんですよ。

松田:あと当時はカードゲームが流行っていまして、そういったトレンドも採り入れつつ、カプコンの得意なことをしましょうと。

――本当に気がつけば『エグゼ』になっていたんですね。

江口:もちろんちゃんとした手順は踏んで、の話なのですが、現場としてはそんな感じでした(笑)。


――当時のコンピューターやインターネットの出来事を見ていますと、Windows 95が出たり、2000年問題が起こらなかったりしましたが、なぜ世界観が「電脳ネットワーク」になったのでしょうか。

江口:先ほども話に出ましたが、当時はカードゲームがトレンドでしたので、まずは「カプコンだからこそできるカードゲーム」というテーマがありました。また本プロジェクトはキッズ向けだと最初から決まっていましたので、そこから「ロックマン」IPを使用することが決まり、ロックマンのアクションとカードゲームを融合させたシステムを生み出すことになったんです。それが「データアクション」です。

つまり、カードをデータに置き換えたモノが「バトルチップ」であり、それを使って戦うキャラクターがロックマン。その上で世界観を――と考えた時、もっとも相応しいのは「ネットワーク社会」だろうと。
ですから、最初からシステムと世界観はセットになっていたんです。

――システムを構築する上で気をつけた点などありますか。

江口:『エグゼ』って、アクションゲームだけど「ジャンプ」がないんですよ。画期的ですよね(笑)

石原:「アクションが得意じゃない子でも戦略次第では勝てるようにしよう」という話は当時よくしていました。

――最近ではスマート家電やスマートハウスなんかが出てきて、あらゆるものがインターネットに繋がっている。さらにスマホに話しかけたら返答してくれ、良くも悪くも『エグゼ』で起こったこと、できた事がどんどん現実になっていますが、作り手から見てどうでしょうか。


江口:やっと時代が追いついたなと(笑)

一同:笑

江口:もともとですね、キッズ向けとして「背伸び感」というのを大切にしているんです。例えば携帯電話。当時だと大人は持っていましたが、子供は触らせてもらえませんでしたよね。ですので、そこには「憧れ」があるんですよ。それに「背伸び感」をプラスしてPETという要素を入れました。

シナリオでも「背伸び感」を大切にしていまして、「本当にありそうな少し先の未来」というものをテーマに描きました。空想的過ぎると自分の体験としてあまり残らないので、子供たちが「もしネットワーク社会になったらこうなるんだ!」という想像できることを第一に考えていましたね。

松田:確かに「背伸び感」というのはとても大事にしていました。

◆『ロックマン エグゼ』の開発はとにかくヤバかった!?

――『エグゼ』は色々と素晴らしい作品だと思うんですが、なんといっても毎年シリーズの新作が出ていたのが本当に凄いと思います。そもそもゲームボーイアドバンスの開発環境への移行はスムーズだったのでしょうか。

石原:ゲームボーイアドバンスはいいゲーム機ですよ。まずスーパーファミコン並みのグラフィックが携帯ゲーム機で出せるんです。あとは本体が子供向けに設計されていたのもよく、開発もやりやすかったですね。うちではアーケードで2Dゲームを多く作っていたので、そのノウハウを活かすことも出来ました。

江口:ただローンチだったので、スケジュールが大変で……絶対に延期できないじゃないですか。3月発売だったんですが、前年の12月31日の夜遅くに実家に帰り、正月2日の朝には出社するという。なんとか元旦は死守しましたけどね(笑)。

というか『エグゼ2』は『エグゼ1』出た年に出ましたからね!

――そういうスケジュールだと開発は平行で行われていたんですか?

江口:いや『エグゼ1』終わって、すぐ『エグゼ2』ですよ。

石原:スケジュールといえば、『エグゼ4.5』もかなりタイトでしたよね。

江口:あれはヤバイよ!

松田:あれは、かなりきつかったよ!本当に……。

江口:(『エグゼ4.5』のパッケージを指しながら)こいつ半年だからね。

石原:いやもう今だから言えますけど、本当にスケジュールが酷かったですよ。あと『エグゼ5』も。

――しかも『エグゼ3』は後から『ブラック』が出ましたよね。

江口:2バージョンブームが到来したんです。

◆開発者は何を想い、『ロックマン エクゼ』の物語を紡いだのか

――先ほども少し出ましたが、ストーリーはどの様なテーマが描かれたのでしょうか。

江口:沢山あるんですが、まず前提として「ロックマンという正義のヒーローの物語であること」というのがありました。例えば『エグゼ1』でいうと、「ワイリー」という絶対的な悪を、同じクラスに居そうな少年が立ち向かうという構図とその体験の爽快感ですね。

またシリーズを通してだと、家族愛・兄弟愛を大切にしている作品でもありまして、身近に居る頼れる大人をしっかりと描きたいという思いはありました。あとはネットリテラシーですね。当時はネチケットと呼ばれていましたけど(笑)。

江口:掲示板は荒らしちゃだめとか。

松田:ネットには怖いお兄さんが沢山いるよとかね(笑)

――読者アンケートでは、『エグゼ3』がストーリー的にもっとも好きなナンバリング作品に選ばれていますが、まずはそのコンセプトからお伺いさせてください。

江口:基本は「WWW」との戦いにけりをつけ、「フォルテ」の話をいったん区切ろうというのがありました。

システム的には『エグゼ2』で「スタイルチェンジ」が入ってバトルシステムが洗練されたので、『エグゼ3』でより磨きをかけるというか、より俺のロックマンというのを強くするために「ナビカスタマイザー」を導入しました。

僕的には「これでエグゼは完結するんだ」という気持ちで取り組んでいました。ですので『エグゼ4』以降は違うアプローチになりましたね。

――因みに「泣いた」「感動した」というコメントが沢山ありました。

江口:この前ストーリーを見返したんですが、泣けますね(笑)。当時若かったんで、子供たちに伝えたい熱い思いをすべてぶちこんだ気持ちでしたね。

加治:スタッフたちも感動していまして、「名人いいシナリオかくわ!」って言われていましたよ。

江口:当時何かの雑誌で泣けるゲームランキングがありまして「お?」と思ってみたら『マザー2』と並んで同率1位でしたからね。

――ストーリーの話から少し離れますが、プログラム君のボリュームが凄いですよね。

江口:『エグゼ3』までは、ほとんど僕が書いていたんですが、あれは僕のライフワークでした(笑)。なんというか、プログラム君は他人に譲りたくないというか……『エグゼ』の世界ってプログラム君が色々と動かしているんですよ。例えば車の電脳空間だとアクセル担当のプログラム君とブレーキ担当のプログラム君がお互いの役割を持って活動していまして、「世界は誰かの仕事で動いている」みたいな所を描いているんです。

なので「何気ない電化製品の中にもプログラム君が居る」と思って頂けたらモノを大切にするかなと。でそんなことを考えていたら、そういった体験が結構ありまして。

『エグゼ2』の時は凄く忙しくて朝から朝まで頑張っていて、半年間モニターを消さずにつけっぱなしみたいなことがあったんですよ。そしたら後半調子が悪くなってきまして、「そろそろヤバいな」と。でも忙しいんで交換とかせずに作業していたんですが、マスターを納品して「完成しました!」ってなった瞬間にモニターが「バツン」って切れたんですよ!その瞬間「ギリギリまで頑張ってくれたんやな」って泣きましたね。だから本当にプログラム君はいるんです。

――みんな顔は同じだけど、一体一体違うプログラム君なんですね。

江口:もう顔見たらどこのプログラム君か分かりますよ。そもそもプログラム君って、より電脳空間を面白くするために用意したキャラクターなんですよ。ユーザーさんがせっかく車の中の電脳空間に入ってくれたのに、そこに何もなかったら申し訳ないじゃないですか。

石原:デバックの時はそんなプログラム君のテキストを確認するのが楽しみでしたね。

江口:僕は背景担当からの挑戦状だと思っていまして、毎回マップの隅々まで作りこんだり、しょーもないモンおいたりするんですよ。まるで「この背景でどんなメッセージを考え付くんだい?」と言っているみたいに(笑)。だから僕もそのネタを活用しつつ、ユーザーさんが楽しんでくれる小話メッセージを沢山作りました。

松田:海外版が大変やったけどね……文字が入らへんとか(笑)

――因みに1作に何体ぐらいいるんですか。

江口:……え?

加治:全部覚えているんですよね?

松田:名人!名人!

江口:そうでするね……100体から先は覚えていないです。

一同:笑

江口:でもざっくり計算すると1作品に7,80体ぐらいですね。

◆大胆アレンジの真意

――『エグゼ』といえばデザインも魅力的ですが、クラシカルな『ロックマン』のデザインはどのようにアレンジされたのでしょうか。

加治:「ロックマンを知らない人でも入りやすいデザイン」というのが基本ですね。

石原:当時の子供たちにカッコいいと思ってもらいつつ、従来のロックマンファンには変化を楽しんで頂けるようにしました。結果的には、「電脳世界」にマッチした普通のロボットとは違う不思議な雰囲気になりましたね。

――やっぱりデザイン画を描く時はドットに落とし込むことを考えて描かれるんですか?

中島:そうですね、色数だったり、描き込みなどの情報量は気をつけていましたね。使えるのが16色なので、肌の色を服に使ったり……と。

――あのオフィシャルイラストの素晴らしい線はどうやって出しているんでしょうか?

中島:あれは手描きですね。

石原:担当のイラストレーターが、PC上でフリーハンドで描書いていました。綺麗でしかも早いんですよ。

――それは凄い……では何か思い入れのあるキャラクターはいますか?

中島:プリンセスプライドやケロさんは可愛い服を着せようという気合が入っていました。

加治:彼女、服のこだわりが凄いんですよ。

中島:でも今見直すと、趣味に走りすぎて偏っていますね。

江口:ジャスミンとか超よかったよ。

中島:彼女のデザインはラフの段階で一発OKで決まりました。

石原:あと表情とシチュエーションの絵もたくさん描いてくれて、想像しやすかったですね

中島:実在しない人を描くのって凄く難しいんですが、とりあえず「実際の友達だったらどのような表情を見せるのかなと」というのを想像して描きましたね。なのでそういう友達感というか、親近感を感じてもらえたら嬉しいです。

石原:僕エレキマン好きなんですよね。ただ最初は開発チームのみんなに、ブルースに似てるからデザイン変更してくれいわれまして……なんとか説得しましたけど、今見てもそんなことはないですよね(笑)。

江口:エレキマンといえば、あの「発電所」のマップは僕が担当したんですが、あれがめちゃくちゃ不評で……会う人会う人に「あのステージはつらかった」と言われるんですよ。で、エレキマン倒した直後にブルースですよね?あれは本当にすまんかったと謝りたいです。

――たしかにあの印象で「1は難しい」という印象があります。

江口:僕もそう思います(笑)

――これは読者からの質問ですが、ブルースの素顔の設定画はあるんでしょうか。

石原:うーん、ないですね。ご想像にお任せしますが、少なくともイケメンなのは確かです 。

――「自分のパートナーにしたいキャラクター」をアンケートで聞いたんですが、やはり「フォルテ」は人気でした。その理由が凄く面白くて、「孤独を分かち合いたい」とか(笑)。

江口:「フォルテ」は人気キャラクターでしたし、かなり大切にしていました。『エグゼ1』では隠しボスで、『エグゼ2』ではストーリーに絡む。そして謎を残しつつ『エグゼ3』ですよね。なので裏主人公というか、ファンの皆さんの期待を背負ったキャラクターでしたね。

――しかもめちゃくちゃ強かったですからね。

江口:今やったら絶対勝てないですよ(笑)。しかもドンドンエスカレートして行って……最初はダダダダでしたが、最後なったら色んな物出てきてもうね(笑)

松田:でもリザルトS取らないとコンプリートできないという。

◆なぜ『ロックマン エグゼ』は『6』で完結したのか

――最初から『エグゼ6』で完結するという構想はあったのでしょうか。

江口:実は開発中に決定したんです。

――あ、だからグラフィックが一新されたんですか?

石原:あれは、『エグゼ6』から新たにリーダーとなったスタッフの頑張りです。PET画面なども気合いを入れて作り替えて、新鮮味を出そうとしていたんですが、程なくして完結が決まって。結果として一作だけのものになってしまいました。

――完結の決定を受けて、ストーリーは変更されたのでしょうか。

石原:引越しエピソードは完結が決定してから決まったんでしたっけ?

江口:それは最初から決まっていて、環境を変えたかったんですよね。なので本当は新たな環境で活躍して、また戻ってきてみんなに再会するという収まりでしたね。

因みに、企画的には新しいタイトル作る時に次のこと考えるんですけど、『エグゼ6』に関しては「もうこれ以上はないかもなぁ」と思っていました。

――ではどういった経緯で完結することになったのでしょうか。

江口:『エグゼ』シリーズはゲームボーイアドバンスと共に歩んできたので、『エグゼ6』を作る前から「ハードが変わったら新しいロックマンを作ろう」という話がありまして、DSの発表で方針が決まりましたね。

――因みに『エグゼ6』は読者アンケートの「もっともシステムが良いナンバリング作品」で1位でした。私自身、まさに完結に相応しいシステムだったと思います。

江口:『エグゼ6』は凄かったですね。僕は大会とかで解説してたんですけど、『エグゼ6』になるともう解説が追いつかないし、まったく想定しなかったモノが出てくるんですよね。「それやる!?」みたいな。

◆博士から名人へ、彼はどのように名人となったのか

――因みにチーム内でも名人と呼ばれていたんですか。

一同:そうです(笑)

中島:今でも名人って呼んでいますね。

江口:たしかに江口くんと呼ばれることはないですね。

――いつから名人になられたんですか。

江口:ゲームに登場したのは『エグゼ2』からなんですが、プロモーションの一環として活動しだしたのは『エグゼ1』からですね。でね、これには酷いエピソードがあるんですよ

――……といいますと。

江口:当時は月刊コロコロコミックさんと一緒にイベントをやっていたんですが、発売年のGW中に開催されるイベントに「誰か名人を出してくれと」と宣伝から要望がありまして。

で、当時の上司が色んなスタッフに「名人やらへんか」と聞いて周っていたんですよ。でもGWのど真ん中なので、みんな行きたくないわけです。そしたら、どんどん「GWに鈴鹿いかへんか」という声が後ろから近づいてきまして……嫌な予感がしてチラッと後ろを見たら、みんなこっち見ているんですよ!そしたら案の定、僕のところまで周ってきて「GWに鈴鹿行かしたるわ!」と。当時は入社2年目だったので「あ、はい行きます」としか返答できず、僕は名人になりました。

――たしか最初の方は名人ではなく博士でしたよね。

江口:その頃はキャラ設定がふわふわしていまして、江口博士だったんです。そもそもは「詳しい」役という設定だったんですが、「「詳しい」だけじゃ弱い、「強く」もなくちゃいけない」となりまして、「何でも知っていてめちゃくちゃ強い」という理由で名人になりました(笑)

――因みにその白衣はどうされたんですか。

江口:聞いてくれます?この白衣ね、今となってはボロボロですが、これ作ってもらうのに5,6年掛かっていますからね。

――え?

江口:最初はただの白衣だったんですよ。しかも袖のところにゴム入ってまして……渡してくれたスタッフに「これどうしたんですか?」って聞いたら「カプコン東京支店が入ってるビルの病院から借りてきました」と(笑)。しかも毎回借りてはクリーニングを繰り返していまして、流石によくないだろうと。そして2,3年目にしてついに普通の白衣を買ってもらうことができたんです。

――まだ普通の白衣……。

江口:しばらくはその白衣を着て活動していたんですが、『エグゼ6』の時にこのオーダーメイド白衣になりました。

加治:『エグゼ6』ってもう終わりじゃないですか(笑)

江口:そうなんですよ(笑)

中島:今見るとかなり使い込んでいますね(笑)

江口:これ一着しかないですからね(笑)。着る度にオレンジの粉がつくんだよなぁ……。で、本当はこの白衣に革の指だし手袋がつくんですが、一緒にステージに出ていた「ソウルバトラー タケシ」というキャラクターがいまして、僕が都合でイベントに出演できない時は彼一人に任せていたんですよ。

そしたら、なぜか僕の革手袋を持ってくんですよ!しかも汗かきなんでビッショビショするんです。その都度クリーニングしてくれたらまだいいんですが、ただ袋に入れて放置するんで、めっちゃくちゃ臭くなって……「こんなんじゃファンと握手できん!」となって今は処分してしまって手許にないんです。

――そんな名人は『エグゼ2』からゲームに出ていますが、台詞はご自身で考えられているんですか。

江口:そうですね。なかなか恥ずかしいですよ(笑)。

――スタッフキャラといえば、本日はコーエツ兄さんのモデルになった松田さんにもお越しいただいていますが……。

松田:あれ後付けでしょ?

石原:実は掲示板に書かれている名前って、だいたいが当時のスタッフの名前をもじったものなんですよ。その中のコーエツっていうのが後の「コーエツお兄さん」でして。

――それにしてもキャラクターが立ってますよね。

江口:使いやすかったんです(笑)。掲示板に登場するキャラクターの設定と台詞を考えるときに、各キャラクターの発言に統一性をもたせたかったので、「このキャラクターはこういう分野の発言を」というのを決めたんです。コーエツはその中でも「ゲーム内アドバイス」の担当でして、メインプログラマーのコーエツさんが色々教えてくれるという設定でずっとやっていたら、いつの間にか「コーエツ兄さん」が誕生しました。

松田:名前が先だったんでビジュアル的には全然似てないんですよ(笑)。

――実際にプレイしてどう感じましたか。

松田:いや恥ずかしいですね。

江口:僕を前にして言います!?

松田:そもそも体格がぜんぜん違うんですよね(笑)。

――たしかに凄く大きな人だと思っていました。因みに他のスタッフから「俺を出してくれ!」という要望はありましたか。

江口:いやそんなに……。

加治:むしろ勝手に出していましたよね。

江口:開発スタッフのみんなは奥手というか、あんまり前に出たがらないんですけど、名前いっぱい考えないといけないんですよ。で考えるのが面倒になって身近な人たちの名前を使っています。

加治:ちなみに名人って本当に強いんですか?

江口:それ聞いちゃいます?

石原:どうやってバトルを避けるかってのを考えてた印象が。

江口:名人は「伝説の69連勝を成し遂げた」という設定があるんですが、バトルのチューニングスタッフのリーダーがめちゃくちゃ強くてですね……。あるイベントで子供たちとフリー対戦するコーナーがあったんですが、そこで彼100連勝以上しちゃったんですよね。そんなことされたらもう形無しじゃないですか。そしたら、それを見た子供たちから「名人とあの人どっちが強いの?」っ聞いてくるんですが、「いや……僕の方が強いよ……でもね、名人は研究があるから今日バトルできないんだ」って頑張って回避していました。

でも実際は弱くないんですよ。名人は皆に「こうすれば強くなれるよ」というのを伝える存在なので、負けられないんですよ。だから周りが戦わせてくれないんです、ほんと。でも初期のころは「シャドウマンV3を先に撃ったほうが勝ち」というルールでして、大人の連打でズッラーーと並んだ行列を千切っては投げ、千切っては投げ……と(笑)。

◆イベントがもたらした盛り上がりと衝撃コンボ

――イベントについてもう少し詳しくお伺いしたいんですが、『エグゼ』シリーズでは頻繁に大会などが開催されていましたよね。

江口:大会がないと目指すべき場所が定かではないので、地方を含めたイベントや雑誌での情報発信などは継続的にやっていきました。

――そういえば、読者から「握手を求めたらほっぺを撫でてもらった」というコメントがありましたよ。

江口:覚えてくれているなんてうれしいなぁ。いろんなプレイヤーさんと交流していたんですが、九州に行ったときにですね、福岡でイベントがあったんですよ。そこでステージの後にファンのこと喋っていたら、一人の男の子が来て「名人はよく喋るとね、お喋りな男はかっこよくなか!!」っていわれちゃいまして(笑)。いやぁ楽しかったですね、

――当時は相当な人気ですからね。

江口:僭越ながらサイン会とかやっていたんですが、整理券なんかもすぐはけたんです。でも皆アドバンスの電池ケースのフタとか持ってくるんで、書くの大変でしたよ(笑)。

石原:たしか僕が「電池ケースのフタの裏がいい」って言ったんですよね。

江口:そうそう、最初は表とかだったんですが、表立ったら剥げて擦れるじゃないですか。だからね、裏に書くようにしました(笑)。

――イベント運営で当時気をつけていたことはありますか。

江口:当時は手探りでして、限定チップ配布もそうですが、イベント系の運営は初めてのことだったので大混乱でしたね。最初はフォルテの配布だったんですが、人が多すぎて「ちょっとあんた!どこに並んだらええんや!」って親御さんに怒られまして……。

ただそこからどんどん改善していきまして、ちょっとずつ、いいイベントにしていきました。

――その甲斐あって大会も盛り上がったんでしょうね。そういえば凄いコンボがたくさんありましたよね。プリズムコンボとか。

江口:……あ、はい

――あれってバグじゃないんですよね。

江口:正式な……挙動ですよ?

――でもゴスペルが一瞬で蒸発しますよね?

江口:それでも挙動は正しいんです。ね?だよね??

松田:理論的には正しいんですが、使われ方は想定外でしたね(笑)。

江口:大会を解説する側としては衝撃でしたよ。そもそもあれは、当てにくいチップを当てやすくするコンボなんですよ。プリズムを中心に拡散させますんで。でもですよ、まさか攻撃反映が持続するチップと組み合わせるとあんなことになるとは……。

――あ、ではあの組み合わせはプレイヤーが見つけたんですね。

江口:そうですね。始めてみた時はゾッとしました。でも偉いもんで、そういうのが見つけると皆対策するんですよ。プリズムコンボでしたらセンターに立つとかね。まぁでも皆さん研究熱心で凄かったですよ。エリアスチール→エリアスチール→エリアスチール→ポイズンアヌビスのコンボも我々の想定外でした。

でもあれが見つかった影響でエリアスチールの効果範囲に制限が入ったんですよ。

石原:あと、そのコンボや召還の連打戦があったからカットインが出来たんだでしたっけ。

江口:あれよかったよねぇ~。

松田:作るの大変やったけど……。当時「カットインを連続するとドットがずれるんですけど」って言われまして(笑)。まぁでも、そうやって進化していったんです。

――でもそういった研究し甲斐のあるシステムが本作の魅力だと思います。

松田:まぁデータ改造事件とかもありましたけどね。

江口:おっと、それ言っちゃう(笑)。

――当時結構ありましたよね。

江口:当時は改造データとの戦いでもありましたね。実はね、イベント大会の決勝戦で未配信のゴスペルが出てきてしまったことがあったんですよ。

これはもうどうしようもないんですが、ステージを見てるファンが「名人!あれはなんなんですか!!名人!!!」って解説している横でずっと叫んでくるんですよ、「いまゴスペルでましたよね!!!」って(笑)。もうね……でっかいモニターに出ちゃったんでごまかせなかったです。

――その時はどうされたんですか。

江口:みんなで夢を見た――みたいな話をして、極力触れないようにしました(笑)

松田:でも以降は大会で参加して貰う前に使用ROMのチェックをするようになりましたね。あと、人数が多いといちいちチェックできないんで、対戦するときに「準備ができたよ」メッセージが出るんですが、改造していたら「準備ができたよ、」って表示メッセージが変わる仕掛けを用意していました。

◆今だから言える話を直撃

――既に完結から10年以上経っているので、今だから言える話もあると思うんですが、何かパッと思いつくものはありますか。たとえばトラブルとか。

松田:え、トラブルですか?

江口:あぁ!タイムリーな話題じゃないですか。

松田:実はユーザーさんからカスタマーセンター宛に「不具合でゲームが動かない」とカセットが送られてきまして……一昨日まで作業していました。

――あれ、今年2016年ですよ。もしかしてVC版の話ですか?

松田:いえ、オリジナル版です。アドバンスのカセットが送られてきまして、ちょっとセーブデータをいじっていました。

江口:そういえば松田さんずっとアドバンスの開発キットもっていますよね。

松田:返そうと思うんですけど、3年に一回ぐらい修理案件が送られてくるんで座席においているんです(笑)

――そういえば不具合ありましたね、あれ直るんですか。

松田:セーブデータをいじれば治りますね。たとえ発売から10年経っていても、無下に断れないんです。

――まだ遊んでくれているんですね。

加治:今でもコーエツ兄さんが治してくれているのか……。

石原:あと「デューオソウル」と「フォルテソウル」を出す構想があったと思うんですが、容量と期間の問題で泣く泣くボツになりました。確かロムの中に、入る予定だった枠だけは残っていると思います。

松田:本当に容量ギリギリ、デバッグに必要なデータすら入らなかったですからね。

江口:色んなもの削りましたからね…漢字とか。

――常に容量との戦いだったんですね。

石原:本格的にキツくなったのは『エグゼ4』からで、あまりに足りないのでフィールドキャラクターのサイズを小さくせざるを得なくなりました。全ドットをイチから作り直しです。

江口:本当はどんなキャラでも8方向に動けるつくりなんですが、容量の問題で、あるキャラクターはパターンは4方向だけとか、電脳世界に出てくるキャラは歩かずにスーーって移動したりとか(笑)。

石原:プラグイン画面も最初は結構な凄い枚数を使って表現していたんですが、回を追うごとにどんどん減っていきました。

加治:実はエグゼって、当時の他のソフトと比べて少し値段が安かったんですよ。なぜかというと容量の少ないROMを使っているからで、シリーズを重ねても容量だけはかわっていません。全てはお小遣いの少ない子供たちのためにです…!!

――では本当はもっとやりたいことが?

江口:どうなんでしょうね?上を見たらキリがないので、与えられた条件で最高のものを作る事も大切かなと。でもどの道、開発期間的な問題で難しかったかもしれませんね。

――読者からは「セレナード」に関する質問も多く寄せられているんですが、結局「セレナード」のオペレーターは誰なんでしょうか。

江口:皆さんのご想像にお任せします……という回答にさせてください。でも皆さんが思っている人物で合っていると思いますよ。

――もしかしたらこれも答えられない質問かもしれませんが、『エグゼ3』のエンディングで「まもるくん」が登場していますよね、それはどういったシーンなのでしょうか。

江口:あれはまもるくんが手術を受ける時に熱斗と約束した「退院したらネットバトルしようぜ」という約束を果たすシーンなんですよ。なので、あのPETは熱斗のPETなんですよ。

ただエンディングの時系列ってふんわりしていますが、そのペットの中にはロックマンは居ないので、そこでの会話はご想像ください。

石原:因みにエンディングは名人じゃなくてプログラマーが演出しているんです。

江口:おっと……バレてもうた。……そうなんですよ!だいたい面白い演出はプログラマーの方がいい感じにしてくれました(笑)。

松田:実は演出部分はあまり指定がなく、みんなで話しながら作っていましたね。

江口:昔は少人数だったので。

石原:『エグゼ3』でUIがガラっと変わったんですが、あれもプログラマーが主導して「やろう」と。

――どんどん名人の功績が……。

江口:いやいや皆の勝利ですよ!(笑)。まぁまじめな話ですが、1年で一本作りあげるのはチーム力ですね。

――では、もし今『ロックマン エグゼ』の新作を作るとしたら、どのような作品になりますか?

江口:これね、結構難しいんですけど、『流星のロックマン』を作るときに「エグゼの次の世代が憧れられるもの」というのがテーマでして、「電脳世界」の次にワクワクできるのは「電波世界」だろうと。

なので、もし今また『エグゼ』を作るとなると、「いま子供たちがあこがれるもの」を基準にしますね。基本的にはPETにナビがいるというのはそのままだと思うんですけど、何か違うアプローチといいますか、舞台は今風にします。実は具体的なアイデアもあるんですが……これはもしもの事があった時のために伏せておきます(笑)。

――これは難しい質問かもしれませんが、皆さんにとって『ロックマン エグゼ』とはどのような作品でしょうか。

江口:原点ですね。今年で入社18年目ですが、シナリオを書いたのは『エグゼ』が最初なんですよ。今の僕の仕事スタイルの基本になったのがエグゼなので、僕のゲームクリエイターとしての原点的な作品です!

加治:ファミコンの『ロックマン』とか『X』も作っていたんですが、『エグゼ』は結構自由にやらせてもらえまして、これまではロボットばかり描いていたんですが、『エグゼ』では大人や女の子を描いたり出来たので、非常にいい経験ができた作品でした。

石原:いろんなものが丁度いい気持ちよさというか、デザインにしても、ストーリーにしても、システムにしても、音楽にしても、気楽さと熱さのバランスが丁度いいんですよね。その全てが気持ちよく楽しい作品でした。

松田:いろんなチャレンジをさせてもらえまして、1ユーザーとしてもプレイして楽しみまして、特に『エグゼ3』なんかはフルコンプしたので、完成されている作品ですね。

中島:新人として初めて入ったチームで、短い期間の中で完成させ、お客さんの反応もすぐに返ってきて、ゲーム開発とはなんたるかを学べました。当時の自分にとって良い思い出の多い作品です。今でもファンの方に愛されていて、エグゼに関われて良かったなあ~と感じています!

――最後にネットバトラーの皆さんに名人としてのコメントをお願いします。

江口名人:ネットバトラーの皆さん、長い間エグゼを応援してくれてありがとうございます。皆様の応援あっての『エグゼ』ですし、『6』から10年経っても色あせない『エグゼ』という作品をいつの日かチャンスがあれば、また何かしらの形で届けていきたく思っているので、これからも忘れることなく応援よろしくお願いします。僕の中ではある程度構想があります!

松田:え、急に!?

江口:その通りになるかはわからないですがね。

松田:じゃその時は白衣新しくしないとですね!

江口:そう!まだまだ名人やりたいんで!よろしくお願いします。

――お忙しい中集まっていただきありがとうございました。皆さんのおかげで、我々は光熱斗とロックマンという存在を通して素晴らしい体験をすることができました。『ロックマン エグゼ』15周年おめでとうございます。

◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆

終始笑いが絶えなかった今回の座談会。今なおファンに愛され続けている作品を手がけたスタッフがこの様に集結し、当時の話を聞くのは非常に感慨深いものがありました。ナンバリング作品に関しては、全てWii U向けのバーチャルコンソールでプレイすることができますので、改めてプレイするとまた違った感覚で楽しめそうですね。