東京, 2025年9月17日 - (JCN Newswire) -NTT株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:島田 明、以下「NTT」)と三菱重工業株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:伊藤 栄作、以下「三菱重工」)は、レーザ光を用いて1km先にワイヤレスでエネルギーを供給する光無線給電実験を実施しました。光パワー1kWのレーザ光を照射し、1km先で152Wの電力を得ることに成功しました。
本成果は、2025年8月5日に英国英文誌「Electronics Letters」に掲載されました。

図1.光無線給電システム模式図
1.背景
近年、スマートフォンやウェアラブルデバイス、ドローン、電気自動車など、ケーブルを使わずに電力を供給できる無線給電技術が関心を集めています。無線給電方式としてマイクロ波を用いるものとレーザ光を用いるものがあります。マイクロ波無線給電は既に実用化されており、利用が広がっています。一方、レーザ光を用いた光無線給電は実用化に至ってはいませんが、レーザ光の高い指向性を活かし、小型かつkmオーダの長距離無線給電が実現できるとして期待されています(図1)。将来的には、災害時や離島、山間部や海上など電力や通信が届かない状況・地域における送電や通信カバレッジ拡大に向けて、特定のエリアやドローンなどの移動体にピンポイントに給電するような次世代インフラの構築が構想されています。こうした高精度かつ長距離の給電には高い指向性を活かしたレーザ無線給電が必要となります。
2.既存技術の課題と本実験での成果
一般にレーザ無線給電技術は効率が低く、実用化に向けて効率向上が課題となっています。その要因の一つとして、特に大気中など、長距離レーザ光が伝搬すると、強度分布が不均一となり、光電変換素子(注2)でレーザ光を電力に変換する際の効率が低くなってしまうことが挙げられます。

図2.実験の様子
安全上の観点から、高出力レーザ光の誤照射や反射光の拡散を防ぐために、送光光学系および受光パネルはそれぞれブース内に設置

図3.実験系模式図

図4.受光パネルから取り出せた電力
3.技術のポイント
1. 長距離フラットビーム整形技術
光電変換効率を向上させるためには、光電変換素子に照射するビームの強度分布を均一にする必要があります。そこで今回、長距離伝搬後にビームの強度を均一化するビーム整形手法を提案しました。ビームの外周部分はアキシコンレンズ(注4)の効果によりリング状のビームとなり、中心部分は凹レンズの効果によりビームが広がるように位相を変調し、伝搬後にリングビームと拡散ビームが重なりあうことで強度が均一になります(図5)。今回の実験では1km先で所望の強度分布となるように設計を最適化し、回折光学素子を用いてビーム整形を実装し、1km先でのビームの強度分布の均一性を向上させました。

図5.ビーム整形イメージ
2. 出力電流平準化技術
大気中を伝搬したビームは、大気の揺らぎの影響を受けて強度分布が乱れます。上記のフラットビーム整形技術によって、ある程度ビームの強度分布を均一化できますが、大気の揺らぎが大きい場合、図6のように強度の高いスポットが生成されてしまいます。この問題に対処するために、受光パネル手前にビームホモジナイザを設置し、強度の高いスポットを拡散させて受光パネルに均一にビームが照射されるようにしました。さらに、受光パネルの各光電変換素子に平準化回路を接続することで、大気の揺らぎによる電流の変動を抑制し、出力の安定化を実現しました。これら二つの技術により、従来のビーム整形技術では困難だった数kmオーダの伝送におけるビーム均一化や、屋外環境における出力安定化が可能となり、離島や被災地などの遠隔拠点に対する安定した電力供給の実現が期待されます。

図6.大気伝搬後のビームパターンとホモジナイザによる拡散効果のイメージ
4.各社の役割
NTT:ビーム整形技術等の送光光学系の設計および実装
三菱重工:受光パネル、ホモジナイザ、平準化回路等の受光光学系の設計および実装
5.今後の展開
本技術は、大気の揺らぎがある環境においても、高効率に安定して長距離エネルギーを伝送することができます。今回の実験では、光電変換素子にシリコンを用いましたが、レーザ光の波長に合わせて設計した光電変換素子を用いることで、より高効率な給電が見込まれます。
三菱重工グループについて
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