筋肉が分泌する「運動ホルモン」で疲労回復──歩くだけで始まる...の画像はこちら >>

──あなたは「休んでも疲れが取れない」「寝てもだるい」と感じたことはありませんか。年齢や体力の衰えのせいだと諦めていないでしょうか。
──実はその疲労感の正体は、「筋肉」から出る“ホルモン”不足にあるかもしれません。

近年の研究で明らかになったのは、筋肉はただ動くだけではなく「マイオカイン」というホルモン物質を分泌する分泌器官でもあるという新事実です。別名“運動ホルモン”。このホルモンは炎症を抑え、免疫を高め、代謝を改善し、全身を回復モードに導きます。つまりあなたが一歩踏み出すたび、筋肉が疲労回復薬のように働き、自分で自分を修復し始めるのです。

思い出してください。デスクに座り続けていると頭が重く、どれだけ休んでもスッキリしない経験はありませんか。そんなときに数分でも歩けば、呼吸が深まり、頭が冴え、気持ちが切り替わるのを感じたはずです。それこそが筋肉から分泌されたマイオカインの働きです。座り込み、横になっているだけでは分泌されません。あなたが動くことで初めて流れ始めるのです。

難しい運動はいりません。

通勤で少し歩く、エレベーターではなく階段を使う、昼休みに外へ出て数分だけ歩く。これだけで筋肉はマイオカインを放出し始めます。炎症が抑えられ、血流が整い、頭の中の霧が晴れるように感じるでしょう。夜になれば、歩行で増えたセロトニンが睡眠ホルモンであるメラトニンに変わり、深い眠りをつくります。翌朝の目覚めが変わるのは偶然ではありません。

あなたが座り続けている限り、この運動ホルモンは眠ったままです。だからこそ、疲れているときほど動くことが必要です。ほんの数分の歩行でも、体の中では修復作業が始まります。疲労は意志の弱さでも加齢のせいでもなく、出ていない運動ホルモンのサインに過ぎません。

つまり歩行は、移動手段ではなく運動ホルモンを呼び起こすスイッチなのです。疲れを回復させたいなら、ベッドに倒れ込むより外に出て歩いてみてください。あなたの筋肉は疲労回復の特効薬を持っています。

歩き出すことで、その薬は確実に全身に届いていくのです。

参考文献
Pedersen BK. Muscle as a secretory organ. Comprehensive Physiology. 2013 Jul;3(3):1337–1362. DOI: 10.1002/cphy.c120033

Cotman CW, Berchtold NC, Christie LA. Exercise builds brain health: key roles of growth factor cascades and inflammation. Trends in Neurosciences. 2007 Sep;30(9):464–472. DOI: 10.1016/j.tins.2007.06.011

(上野 由理/美脚専門家)

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