50代の転職はなぜ難しいのか 年収ダウンの実態と、後悔しない...の画像はこちら >>

Bさん(47歳、金融業勤務)は、2年前に「このまま会社にいても先がない」と感じ、長年温めていた転職を実行しました。年収は前職とほぼ同水準を提示されていましたが、入社後に実際には月数万円分、年収換算で差があることに気づき、職場の雰囲気も想像と大きく異なっていました。
「転職して後悔した」と検索したのは、入社からちょうど半年後のことです。転職市場が活況を呈するなか、こうした経験をする人が少なくありません。

転職して後悔した人の多くは「転職それ自体」を後悔しているのではなく、「転職しかない」と考え、それを唯一の選択肢として選んだことを後悔しています。そして後悔しなかった人たちには、転職前から共通してやっていたことがあります。

データを見てみましょう。マイナビ「転職動向調査2026年版(2025年実績)」によると、2025年の正社員転職率は7.6%と調査開始以来の最高水準に達しました。40代・50代のミドル層の転職も2021年以降一貫して上昇を続けています。しかし年代別に転職後の年収変化を見ると、30代は平均32.4万円の増加である一方、50代だけが唯一4.5万円の減少となっています。転職市場の活況とは裏腹に、50代に限っては転職しても収入が下がる現実が続いているのです(株式会社マイナビ「転職動向調査2026年版」2026年3月発表)。

後悔の中身はどうでしょうか。識学が2022年に転職経験者1,000人に行った調査では、転職後に「後悔・失敗した」と回答した人が59.7%に上ります(株式会社識学「転職による幸福度調査」)。後悔の理由で最も多いのは「給与が思ったより低かった」、次いで「組織風土が合わなかった」でした。

転職前には「やりがいのある仕事」「成長できる環境」という言葉に期待していたのに、実態との乖離を感じた時点で後悔が始まるのです。

なぜこうした後悔が生まれるのでしょうか? 最大の理由のひとつが「転職すること」そのものが目的になってしまうことです。「今の職場を辞めたい」という気持ちが先行すると、転職先の研究が不十分なまま決断することになります。特に40代後半から50代になると、役職定年や昇進の頭打ちへの焦りが判断を急がせます。「転職しか選択肢がない」という思考パターンに入ったとき、人は冷静さを失いやすくなるのです。

後悔しなかった人の共通点としては、転職を実行する前に「自分が働く上で何を大切にしているか」を言語化しておいたことが挙げられます。給与の水準なのか、仕事の裁量なのか、職場の雰囲気なのか、成長の機会なのか。この軸が明確であれば、転職先の面接でも本質的な確認ができます。「なんとなく今の職場が嫌」という理由だけで動くのではなく、自分が何を求めているかが整理されていると、後悔のリスクが格段に下がるのです。

「転職か、現状維持か」の2択で悩んでいる方は、まず視野を広げることから始めてみてください。転職エージェントや社外のキャリアコンサルタントに相談して第三者の目を入れること、社内での異動や新プロジェクトへの参加を打診すること、資格取得や学び直しでスキルの幅を広げることなど、手を打てることはたくさんあります。Bさんもその後、まず自分のキャリアの棚卸しをしっかり行い、「あのときはとにかく転職したい一心で、選択肢をひとつしか持っていなかった。

焦ってしまった」と気づいたと話しています。

30代後半から50代の会社員にとって、転職は大きなリスクを伴う決断です。だからこそ、転職を“最初の一手”ではなく、“選択肢のひとつ”として捉え、その前に自分自身のことをよく知り、選択肢を整理しておくことが後悔ゼロへの道になります。動く前に準備する。この順番こそが、転職の後悔を防ぐ最大の鍵です。

(新井 一/起業コンサルタント)

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