まず、この販売活動自体を勤務時間外に行うことを余儀なくされた場合には、サービス残業の問題が生じます。会社の職務命令で勤務時間外にやらざるを得なかったとしたら立派な時間外労働です。会社としては、労働基準37条により時間外労働に対する賃金を支払わなければならず、これに違反すると、同法119条1号により罰則が定められています。
次に、販売ノルマを達成できなかった際に、商品の買取りを強制されたり、その分の給与天引きが行われたとすると、賃金の「通貨払いの原則」と「全額払いの原則」に反することになります。労働基準法24条1項では、「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない」として、賃金の「通貨払いの原則」と「全額払いの原則」を定めています。
「通貨払いの原則」とは、「賃金は、自社製品や商品などの現物支給ではなく、通貨で支払わなければならない」というものです。自社の商品を買い取らせるとなると、通貨で支払われた、あるいは支払われる予定の賃金の一部が商品と取り替えられるのと同じですから、「通貨払いの原則」の脱法行為となってしまいます。また、給与天引きがなされると、「全額払いの原則」にも反してしまうことにもなります。これらの原則に違反した場合も、同法120条1号により罰則があります。
刑法上の問題ともなり、強要罪に該当する可能性もそして、究極的には、刑法上の問題ともなり得ます。刑法223条1項は、「生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、又は暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者は、三年以下の懲役に処する」として強要罪を定めています。
自社製品の買取りは、労働基準法違反の問題が生じるもので、到底、雇用契約における従業員の義務ということはできません。それにもかかわらず、「指示に従わないと査定上マイナスとなったり、給料を減額されたりするかもしれない」というプレッシャーを従業員に与えて、本来的に義務のない買取りを強制すると、労働基準法違反という犯罪にとどまらず、強要罪にも該当する可能性が出てくるのです。
企業のコンプライアンス意識が余りなかった時代には、おそらくは横行していたであろう「自爆営業」。しかし、いまだに行っている企業が存在するのであれば、この時代にそぐわず、社会的な信用を落としてしまうことになるでしょう。

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