「最近は、記事が出ると、そのまま別のメディアがネットに上げて、拡散していくでしょう。実は、僕もネットで読んだんです。
11月下旬の午後3時。インタビュー場所であるホテルの一室に、約束の時間より少し前に現れた三浦友和さん(66)は、ジャケットもパンツも、そして眼鏡も黒一色。唯一、純白のスニーカーが目にまぶしく映った。
言うまでもないが、友和さんの妻・百恵さんは’70年代に絶大な人気を誇った歌手・山口百恵だ。人気絶頂の’80年10月、日本武道館のファイナルコンサートで、白いマイクをステージに置き、「幸せになります」と、芸能界を引退した。
それから38年。百恵さんは来年1月17日、60歳の還暦を迎える。長男の祐太朗さん(34)は歌手、次男の貴大さん(33)は俳優として、その活躍の場を広げている。
取材前日のこと。マネージャーから記者の携帯に電話が入った。
「三浦が1対1、2人だけでお話ししたいと申しております」
事務所社長からも連絡が入った。
「三浦も、世間で誤解されていることもあって、どうしても伝えたいことがあるようです」
芸能人の取材では、スタッフが4~5人以上、同席することが多く、1対1など、ほとんどない。
そのネット記事の出典になった本誌の記事は、百恵さんが、宇崎竜童・阿木燿子夫妻に、長男のことを頼んだというものだった。
「そんなことは実際、してないんですよ。だって、“バカ親”でしょう。親が仕事に口を出すなんて。“親バカ”ではありますよ。息子の映画は全部、見ているし、CDが出れば、すぐに買って聴いています。息子たちの記事の切り抜きだって一生懸命、集めたりします。だけど、バカ親じゃない。妻は傷つくんです。
友和さんの訂正は2つ。1つは、祐太朗さんのマネージャーの件。そして、宇崎&阿木夫妻が、祐太朗さんに提供した曲『菩提樹』についてだ。
「どちらも、『関係者』『知人』の声では、妻が頼み込んだということになっていますが、違います。祐太朗のマネージャーは、たしかにかつて妻の現場マネージャーだった内藤光広さんという方です。でも、内藤さんは何年も前から、祐太朗のCDを聴き、ライブを見てきて、彼のほうから『担当させてほしい』と、電話をくださった。阿木さんも、祐太朗のライブを見に行って、ご夫妻で何年もやってきた舞台『Ay曽根崎心中』に、『歌手として出てもらいたい』と、電話をくださったんです。
一気に言って、語気を強めた。
「これは夫として言いたい。とにかく、妻を傷つけるのだけはやめてほしいんです」
友和さんは20分以上、とうとうと語り続けた。息子たちを、そして誰よりも妻を思う友和さんの迫力に、記者は圧倒されていた。
「すっかり日が暮れましたね」
そう言うと、友和さんはスッと立ち、部屋の明かりをつけてくれた。
「突然、明るくなると、なんだか恥ずかしいですね」
照れくさそうに苦笑する。硬かった表情も和らいでいた。
友和さんが、妻を守ろうと熱くなるのは、結婚前から始まったマスコミの取材攻勢の激しさにある。
人気絶頂のなかで引退した百恵さんの私生活を追うテレビ、雑誌の取材合戦は何年も続いた。子育ての時期は、ワイドショーの突撃取材や隠し撮りの写真週刊誌がのしてくる時代と重なった。
友和さんの著書『被写体』によれば、祐太朗さんは2歳ごろまで、家から出たがらず、母親から離れない子になっていたそうだ。
「表に出られなかったですもん。外に出るのが不安だという親の雰囲気が、子どもに伝わっちゃうんです。あのころはマンション住まいでしたが、玄関前のビルにカメラの放列ですよ。妻を撮ろう、息子を撮ろうと、毎日ね」
長男が3歳、次男が2歳の年に国立に引っ越したが、取材攻勢はやまなかった。
ゴミ出しに出ると、カメラマンが飛び出してきて、驚いた百恵さんが足首を捻挫したこともある。’93年には、自宅に不審者が侵入。とうとう百恵さんは、友和さんにこう漏らしている。
「私はこれ以上、芸能界にいたことを後悔したくない」
友和さんは著書に書いている。
《自惚れに近い自信を持って言える。家族は守る》(『被写体』)
「ただ、子どもを守る、妻を守るというのは、皆さん、同じだと思います。逆から見れば、僕が妻に守ってもらったかもしれないし、子どもがいたから、頑張れたのかもしれない。大事なのは、家族間の思いやりですよ。35歳で家を建てましたが、バブルで土地も建設費も高いときにローンも組んだ。でも、俳優業には波があって、仕事のよくない時期がちょうど重なり、妻と家を売ろうかと話したことがあったんです」
マスコミ攻勢の渦中にいた百恵さんが、本を出すなり、CMに出れば、簡単に解決しそうな問題にも思えるが--。
「僕にも妻にも、そういう考えはまったくなかった。単純に家を売るしかないと思っていました」
そのとき百恵さんはこう言った。
「あのときは、本当に助かりました。妻はいつでも泰然自若。何があっても動じないんです」
1対1で向き合った友和さんは、シャイで誠実な人だった。シャイな彼が、妻のためあえて本誌に、真摯にインタビューに応えてくれた。“妻を傷つけないで”という言葉が、いつまでも記者の胸の奥に響いている。
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