
タクシーから降りてきたのは、白髪の初老男性と憔悴した女性、そして2人の息子とおぼしき青年だった。
「ご家族の方ですか?」そう問いかける報道陣に応じることもなく、無言で足早に門をくぐっていく。彼らが向かった先は京都府警察学校。そこには『京都アニメーション放火事件』の犠牲者たちの遺体が安置されていたのだ。
7月18日、京都市伏見区の「京都アニメーション」第一スタジオで、いつものように作業に没頭していたスタッフたちを突然襲ったのは、紅蓮の炎と大量の黒煙だった。消防関係者は言う。
「多くの現場を見てきましたが、さすがにこれほど凄惨な事件に立ち会ったことはありません。炎は横に移動するよりも、垂直に縦方向へ移動するほうが早いと言われています。ガソリンの引火によって爆発が起きた後、黒煙はらせん階段を通じて、一瞬にして2階3階に達したものと思われます」
7月23日時点で命を落としたのは34人、そして負傷者は34人。亡くなった34人のうち女性は21人、負傷者では17人。犠牲者のなかにはたくさんの女性たちがいたのだ。アニメ制作関係者は言う。
「“京アニ”として親しまれている、京都アニメーションは『涼宮ハルヒの憂鬱』『けいおん!』などの人気作品を次々と世に送り出してきました。そのいちばんの特徴は作品のクオリティの高さです。例えばギターのフレームなどを細かいところまで完璧に描写する高い作画力で、世界中のアニメファンたちを魅了してきたのです。一般的にアニメ制作会社は、作業の一部を外注することも多いのですが、京アニは徹底的に質にこだわるため、すべての作業を自前で行うことが多いのです。そのため京アニに入社するのは非常に難しいと言われています」