「実は“教授”こと坂本龍一さんが昨年末から音楽界で史上初の試みを始めていて、業界内で話題になっているんです」(音楽関係者)

『ラストエンペラー』で’88年、日本人初のアカデミー賞作曲賞を受賞した坂本龍一(69)。

絶えず時代の先端を走り続ける坂本だが、今年1月、公式HPで、昨年直腸がんが見つかり手術を受けたことを発表した。

《大いに落胆しましたが、すばらしい先生方との出会いもあり、無事手術を終えて現在は治療に励んでいます。長距離の移動がともなう仕事は困難になりますが、治療を受けながら出来る範囲で仕事を続けていくつもりです》

《これからは「がんと生きる」ことになります。もう少しだけ音楽を作りたいと思っていますので、みなさまに見守っていただけたら幸です》

「坂本さんは’14年にも中咽頭がんを患い、寛解しています。今回の手術は都内で行われました。当面は治療を優先して仕事を調整していくとのことです」(前出・音楽関係者)

そんな坂本が現在取り組んでいる音楽界史上初の試みとは――。

坂本は昨年12月12日、生演奏とCGをリアルタイムで合成したピアノコンサートをオンラインで配信している。

「全14作品の演奏曲は、’80年代から’20年までの教授のキャリアを網羅した、いわば“ベスト盤”というようなものでした。YMO時代の楽曲もありました。実はこのコンサートを含め、坂本さんの演奏を立体的にモーション・キャプチャして後世に残すプロジェクトが進んでいるのです。もともとは以前からオファーされていた計画なのですが、コロナ禍で何度か延期になっていて、ようやく昨年12月に3日間、坂本さんのデータ収集が行われたのです」(前出・音楽関係者)

■フィギュア羽生も卒論で使った“モーション・キャプチャ”

モーション・キャプチャとは、指先まで体中に数十本のセンサーをつけ、動きを3Dで記録して分析する技術のこと。手の指から足の動きまですべてをデータ化するため、全方位から撮影したという。

「羽生結弦選手の大学の卒業論文が『フィギュアスケートにおけるモーション・キャプチャ技術の活用と将来展望』でした。

彼は“今後のフィギュア界の公正な採点に生かしてほしい”と、自らを実験台に、その技術を使ったのです」(スポーツライター)

実は坂本の今回の新プロジェクトの目玉は、モーション・キャプチャ技術だけではなかった。

「VR(ヴァーチャル・リアリティ)からさらに一歩進んだMR(複合現実)技術を使っているというのです。MRは一言でいえば、現実世界の中に3DCGを実寸大で表示できる最先端の技術です」(前出・音楽関係者)

『GQ』のサイト「教授動静第28回」(’20年12月2日付)で、坂本は今回のプロジェクトの意義について、こう語っている。

《MRのコンテンツというのはまだほとんどないに等しいんだけど、(略)この技術のいいところは、いまモーション・キャプチャーでぼくの演奏を収録しておけば、ぼくが死んだ後でも現実のMIDIピアノを演奏させる、仮想的なコンサートが開けること。

実際のコンサート会場のステージにMIDIピアノを置いて、ヴァーチャルなぼくがそれを弾くということができる。100年後でもみんながゴーグルの中で演奏するぼくが立体的に見える》

■教授が70前にしてMRライブに挑戦した理由

坂本の意図を、音楽制作情報ウェブサイト「DTMステーション」を運営する藤本健氏がわかりやすく解説してくれた。

「MIDIピアノは、ホテルのラウンジなどにある、弾き手がいないのに鍵盤が勝手に動いているピアノのことです。これは外部から演奏させることができるだけでなく、弾いた演奏データを記録できるんです。つまり教授がそれを演奏すれば、後で弾いたとおりの演奏が生演奏として再現できるのです」

坂本は’90年代からMIDIピアノをライブで使っているという。

「今回は、そこにモーション・キャプチャを合わせ技で使ったということです。羽生選手が使ったように、スケートのジャンプも記録できますし、ピアノの演奏であれば、指の動きも記録できます。MIDIピアノと合体すれば、演奏だけでなく記録された指の動きや体の動きと合わせて映像で立体的に再現できます。

MIDIピアノに3D映像を重ねれば、教授が実際にピアノを演奏しているような状態になります。

コンサート会場で観客がゴーグルをしてステージを見れば、音はその会場での生演奏と同じで、教授がそこで演奏している本物のライブと同じように見えるのです。MRでは、本当のライブそのものを再現できるのです」(藤本氏)

MRに取り組んでいるほかのミュージシャンはいるのだろうか。

「教授以外には今のところ海外でも聞いたことがないです。後世に残す、後々の財産になると考えたのかもしれませんね」(藤本氏)

坂本は以前から、自らの演奏データを後世に残したいと考えていたようだ。’86年、彼は82歳で来日した名ピアニスト、ホロヴィッツのコンサートに足を運んでいる。

「世界的な名ピアニストとはいえ、相当ミスタッチがあったようで、“記録を残すなら元気なうちに”と強く思ったそうです。だから、昨年末に決行したのだと思います」(前出・音楽関係者)

好奇心旺盛な坂本は闘病中ながら、常に前向きだという。

「コロナ禍ですが、有観客ライブ以外の仕事のオファーは絶えません。体調と相談しながら、吟味しているといいます。坂本さんには世界中のファンだけでなく、愛する奥さまとお子さんたちがいらっしゃいます。まだ、完成までかなり時間はかかるようですが、今回の計画で“永遠の命”が実現するとしたらファンにとってもご家族にとってもうれしいことでしょう」(前出・音楽関係者)

坂本の挑戦は70代も続く――。

「女性自身」2021年6月1日号 掲載

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