「『同性婚を認めない』という結果ありきにしか見えません。国の主張は論理的に破綻しています」

こう語るのは、映画監督の東海林毅氏(47)だ。

現在、5つの都市で同性婚をめぐる裁判が行われている。’19年2月に札幌や東京、名古屋や大阪で一斉に原告側が提訴した後、福岡でも裁判がスタート。3年もの年月をかけて原告側は「同性同士の結婚が認められないのは婚姻の自由を保障した憲法24条などに反する」とし、性別に関係なく結婚できるよう国に求めている。

いっぽう国側は「結婚は伝統的に子どもを産み育てるためのものなので、同性同士は想定されていない」としてきた。また2月9日の東京地裁での口頭弁論で、国側は次のように主張した。

・婚姻の目的は“自然生殖可能性”のある関係性の保護
・同性カップルは婚姻している異性カップルと同等の社会的承認を得ていない

すると国の主張に対して、ネットには《「婚姻の目的は自然生殖」の理論によれば、高齢夫婦は強制的に離婚させないといけないはずですよね?》《「社会的承認」を先にもってきていては差別やマイノリティーの問題は解決しない》《さすがに国がこれ言ってるのはやばい気がするな…》と、驚く声が。

また『東京新聞』によると、「こうした国の主張こそが差別や偏見を助長する」と原告側はコメントしたという。

そして、5月に開催される同性婚をテーマにした映画祭『レインボーマリッジ・フィルムフェスティバル』の実行委員長を務める東海林氏も国側の主張を疑問視しており、こう反論する。

「異性カップルは子供を産まなくても結婚が認められるのに、同性婚の話になると『生殖可能性がないから婚姻は認められない』っておかしいですよね。そもそも婚姻の話に生殖の話を持ち出すことに違和感を覚えます。

また『社会的承認を得ていない』と言いますが、’15年から始まったパートナーシップ制度は現在150以上の自治体で施行されていて、もうすぐ日本の人口の半分をカバーすることになります。それでも『社会的承認を得ていない』というなら、『どうすれば社会的承認を得たことになるのか』を明確にすべきです」

■同性愛が「作品として消費されているだけ」という危惧

いっぽう「パートナーシップ制度があるので同性婚は必要ないのでは?」との声も聞こえてくる。

しかし東海林氏は「パートナーシップ制度が広まるのは喜ばしいこと。でも、法律上の婚姻とは歴然とした差があるんです」という。

「自治体によって制度の内容が異なります。移住先にパートナーシップ制度がない場合もあり、非常に不安定なものなんです。また契約や医療、相続などが関係する場合には、“公正証書の取得”が必要になる場合もあります。パートーシップ制度はあくまでも通過点であり、ゴールではありません」

東海林氏は’95年、『第4回 東京国際レズビアン&ゲイ映画祭』で審査員特別賞を受賞。そして近年、ゲイ老人の性と苦悩を描いた『老ナルキソス』や日本で初めてトランスジェンダー女性の俳優オーディションを経て制作された『片袖の魚』といった作品が世界中で上映されている。

そんな彼は、国側が「同性婚は自然生殖する可能性がない。社会的に承認もされていない」と主張した際、Twitterに《これまでに同性愛者やトランスジェンダー、性的マイノリティの表象を作品で扱ってきた監督、脚本家、プロデューサー、演じてきた俳優たちも一緒に声をあげてくれないだろうか?って期待は捨てずに持ってるよ》とつづっていた。

「『どうして誰も声をあげないんだろう』とずっとモヤモヤしていました。1人のバイセクシャル男性として、そして1人の映画監督として……。

映画だけでなく、現在日本ではドラマでも漫画でも同性愛をテーマにした作品がいっぱいあります。

これだけ作品が利益を生んだり、観る側も楽しんだりしているにも関わらず、当事者の権利の話になると、制作者も視聴者も“知らんぷり”しているように感じます。『現実を生きるセクシュアル・マイノリティに対して、もっと敬意を払ってほしい』と思うんです。今は、同性愛が“消費されて終わり”になっています」

■東海林氏が同性婚の成立を願う理由

近年ではレインボーフラッグ(LGBTの尊厳とLGBTの社会運動を象徴する旗)を掲げるようになった日本の企業も多い。そして『東京レインボープライド(毎年ゴールデンウィークに開催される、“セクシュアル・マイノリティの存在を広く伝えること”を目的にしたイベント)』も年々来場者が増え、コロナ禍になる直前の’19年には278もの企業や団体が協賛していた。

「しかし旗を掲げるだけでは、多様性を尊重していることにはなりません。国側の陳述に対して、当事者が怒ったり悲しんだりしています。旗を掲げた以上は他人事にせず、いまこそ一緒に声をあげてほしいのです」

昨年3月、札幌地裁は「子どもを産み育てる夫婦を法的に保護することは、結婚制度の目的の一つだが本質ではない」などとし、「同性婚を認めないのは憲法違反」との判決を示した。いっぽう当時、加藤勝信官房長官(66)は「婚姻に関する民法の規定が憲法に反するものとは考えていない」と会見で語っていた。東海林氏は、こう結ぶ。

「『子供のころに同性婚が認められていたら』と、想像することがあります。同性とも結婚できるとわかっていたら、“同性が好き”ということについて逃げたり隠れたりする必要はなかったはず。未来の展望も、もっと広がっていたと思うんですよね。

何より、僕の周りには同性婚を望んでいる人がたくさんいます。同性婚が成立すれば、その人たちみんなが幸せになる。それだけでも“いいこと”ではないでしょうか。

東京五輪は『多様性と調和』を謳い、『性的指向などの違いを認め合うことで社会は進歩する』としていました。その理念に今一度、きちんと立ち返ってもらいたいと思います」

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