「世界選手権はシーズンを締めくくる大きな大会ですから、有力選手たちの不在はやはり残念ですよね……」(スポーツライター)

3月23日に開幕するフィギュアスケートの世界選手権。羽生結弦(27)が右足のケガの治療に専念するため欠場することが発表されているが、いまそれよりも注目されているのは“ロシア選手の除外”だ。

ロシアのウクライナへの軍事侵攻を受けて、国際スケート連盟(ISU)は3月1日にロシアとベラルーシの選手の世界選手権出場を認めないことを発表した。

「ロシアはフィギュア大国です。特に女子は、世界選手権でロシア勢が表彰台を独占する可能性が高かったのです。ロシアの関係者たちはISUの決定に猛反発しています」(前出・スポーツライター)

反発の急先鋒が、トリノ五輪金メダリストで“皇帝”と称されるエフゲニー・プルシェンコ(39)。

日本でもファンは多く、羽生が幼少期から憧れてきたスケーターとしても知られるが、そんなプルシェンコのインスタグラムの投稿が、大きな波紋を呼ぶことにーー。

ISUの決定に異を唱えるその投稿は、《黙っていられません。スポーツは政治とは別のものです》という内容の書き出しから始まる。

そして、文章の後半では、《誰もが平和を望んでいて、私も望んでいます》と現在の情勢について触れ、こう続けた。

《できるだけ早くすべてが終わり、交渉が実を結ぶことを心から願っています。私は大統領を信じています!》

「《大統領を信じています!》という言葉を“プーチン擁護”だと受け取る人は多く、プルシェンコは世界中から批判を受けています。その数日後にも《人種差別をやめろ、ジェノサイド(民族大量虐殺)をやめろ、ファシズムをやめろ》という内容を含む文章を投稿し、これにも“やはりプーチンを支持している”と、怒りの声が殺到。元カナダ代表の五輪メダリストスケーターまで、直接コメント欄に非難の声を書き込んだほどです。

フィギュア界が分断の危機にあるのです」(スポーツ紙記者)

ただこれらの投稿については、真意がわかりにくく、“彼は平和を祈っているだけなのでは”という見方をする人も少なくない。

ロシア政治が専門の筑波大学の中村逸郎教授は《大統領を信じています!》という言葉をこう読む。

「これはプーチン政権への皮肉でしょう。ロシアには『ロシアを論じて考えようと思ってもわからない。ただ信じるだけだ』という意味のことわざがあるんです。ロシア特有の考え方です。“プーチン大統領を信じる”というのはつまり、“いまプーチンのやってることは常識で考えたら、わけがわからない。もう信じるしかない”という皮肉の声、だと私は考えます」

■反戦運動で身柄を拘束され、戦場に送られる可能性も

ロシアのアスリートたちが置かれている状況は「非常につらいものだ」と中村教授は言う。

「ロシアのトップアスリートたちは、メダルを目指すために、国家予算を投じられて、小さいころから養成してもらっています。国に恩があって、感謝はしているんです。でも心の中では、“いまやっているこの戦争は間違っている”と、みんな感じていると思います。

一方で、いま、プーチンに真っ向から反対することは拘束されたり粛清にあう可能性がある。

だから『戦争には反対しない』と言っておかなければなりません。“反戦”“反プーチン”と言っただけで、非常に身の危険があるのです。“平和”という言葉ですらです」

たとえば、ロシアのスケーターで、平昌五輪の女子の銀メダリスト、エフゲニア・メドベージェワ(22)はインスタグラムに反戦メッセージとみられる投稿をして、世界から“勇敢な行動だ”と喝采を浴びている。

しかし中村教授によると、「かなり際どい。今後、身柄を拘束されてもおかしくない」という。

「いまもロシアでは、若者を中心に、反戦運動をして身柄を拘束されている人たちがいますが、彼らは今後ウクライナの戦場に送りこまれる可能性があります。反戦を訴えた者は従軍させるという法律が3月3日からロシアの連邦議会で審議中なのです」

中村教授は、さらに続ける。

「私の見立てですが、今後、現役の選手たちの多くはロシアから国外に出るでしょう。そうしないと国際競技に出られませんからね。だからスポーツ大国としてのロシアは終わりだと考えています。すべてプーチンがダメにしたのです」

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