「頭痛、肩こり、不眠、倦怠感やうつなど、原因不明の不調や症状が続くときは、鼻の奥で炎症が起こる『慢性上咽頭炎』を疑ってみるべき。この慢性上咽頭炎は“万病のもと”ともいえる疾患です」
そう語るのは、『つらい不調が続いたら慢性上咽頭炎を治しなさい』(あさ出版)などの著書がある、堀田修クリニック院長の堀田修先生。
上咽頭とは、鼻とのどの交差点にあたるところ。新型コロナウイルスの第6波で猛威をふるったオミクロン株が増殖する部位として報道され、上咽頭という名前を耳にした人も多いだろう。
「上咽頭は左右の鼻腔を通過した空気が合流して、下方向に流れが変わる“曲がり角”。PCR検査でも上咽頭を綿棒でぬぐい検体を採取するように、ウイルスや細菌がたまりやすい場所です。また、上咽頭は体内に侵入した花粉やほこり、PM2.5などの異物を迎え撃つ最初の関門。異物を排除するために免疫が働いており、常に小さな炎症が起きている箇所です」(堀田先生・以下同)
ウイルスや細菌に感染したり、ストレスや疲労の蓄積で免疫力が低下することなどの理由から、絶えずひどい炎症が続いている状態が「慢性上咽頭炎」だ。
堀田先生によると、日本人のじつに10人に1人は慢性上咽頭炎になっているという。頭痛や肩こりだけでなく腎炎や慢性湿疹、炎症性腸疾患、関節炎なども、慢性上咽頭炎が引き起こしているケースが少なくないと堀田先生は指摘する。
【慢性上咽頭炎チェックリスト】
□ のどの痛みが続く
□ かぜでもないのにせきが出続ける
□ のどがイガイガする
□ 耳の下を押すと痛みを感じる
□ 頭痛(片頭痛、緊張型頭痛)がある
□ 後鼻漏(鼻水がのどに流れ落ちる)がある
□ 肩や首のこりが治らない
それにしても、鼻の奥の炎症がそこまで全身に影響を及ぼしてしまうのは、いったいなぜなのだろうか?
■炎症物質が血液によって全身に運ばれてしまう
「上咽頭に慢性的な炎症が起こっていると、そこで作られた炎症物質が血液に乗って全身を駆け巡ります。すると、腎臓や腸など体のほかの臓器でも炎症を引き起こしてしまうことに。また、慢性上咽頭炎の特徴は、血がたまる『うっ血』とむくみを引き起こすことですが、上咽頭には、自律神経をつかさどる迷走神経の末端が分布しています。炎症に伴う炎症性サイトカインで迷走神経が刺激されると、自律神経が乱れ、慢性疲労や倦怠感、集中力の低下などが起こることも。
堀田先生の話によると、慢性上咽頭炎は、認知機能の低下とも深く関わっている可能性があるのだという。
認知症の6割以上を占めるアルツハイマー型は、脳内に蓄積する「アミロイドβ」というタンパク質の「ゴミ」が発症の原因のひとつとされている。
「脳の中には、脳脊髄液という液体が流れアミロイドβなどの老廃物を洗い流します。とくに睡眠中は脳のグリア細胞が縮むことで脳脊髄液がスムーズに流れ、しっかり洗い流してくれるのです。ところが慢性上咽頭炎になると自律神経が乱れ、睡眠の質も低下。
こうしたことから、慢性上咽頭炎が、認知機能低下のリスク要因になるかもしれないのだ。
堀田先生には次のような実体験があるという。
「93歳になる私の母は、3年ほど前から記憶力が低下し、話す内容が理解できないものだったりと、認知症の初期症状が見られました。そこで、母に慢性上咽頭炎の治療法で、塩化亜鉛溶液に浸した綿棒で上咽頭を刺激する『EAT』(上咽頭擦過療法)を週4回ほど行っていたところ、最近ではめっきり記憶力も改善し、変なことを口にすることも少なくなりました。上咽頭のうっ血が解消され、同時にこの部位のリンパ管の詰まりが解除されたためだと考えられます。脳の老廃物の排出がスムーズになり、脳細胞の機能回復につながったのかもしれません」
慢性上咽頭炎の治療には「EAT」が効果的だが、強い痛みを伴う。
「鼻から吸い込まれたウイルスや細菌などの病原体、ほこりや花粉などの炎症物質などを洗い流すには鼻うがいが有効です。0.9%濃度の生理食塩水を自分でつくってもいいですし、市販の鼻うがいキットを使ってもいいでしょう。また、口呼吸を避けることも大切。口呼吸では、鼻呼吸と違って加湿、加温されていない空気が体内に入ってきます。その一部が上咽頭に入り込み、炎症を起こす原因になってしまうのです。
ちょっとした不調だけでなく、認知症リスクにまで関係する上咽頭。オミクロン株がピークアウトしても、コンディション維持に努めることがとても大切だ。