多くの新入社員が新社会人として働き始めて、2カ月あまり。近年、企業のプロモーション活動の一環として、TikTokを中心としたSNSで、新入社員たちがダンスを披露する動画の投稿が目立っている。

「当初はベンチャー企業に多い印象でしたが、いまでは様々な企業がこのような動画をアップしています。新入社員の紹介を通じて、会社の雰囲気やサービスをPRしたいといった狙いがあるようです」(ITジャーナリスト)

笑顔で元気よく踊る新入社員たちの姿に、ネット上では《この会社めっちゃ楽しそう》《新卒の子たちが社長と一緒に踊ったり出来る環境ってめっちゃいいですね!》と好意的な意見が。

だがその一方で、《新入社員を踊らせてる映像をTikTokにあげてるタイプの会社めっちゃ怖い》《インスタに流れてくる新入社員の人らのダンス動画めっちゃいたたまれない》など、不快感を示す声も上がっている。

さらに就職活動を控えていると思しきユーザーの中には、不安を感じる人もいるようで……。

《TikTokで新入社員を強制的に踊らす企業だけは避けよ》
《とりあえず新入社員に変な集団行動とかダンス踊らせてSNSあげる企業じゃなかったらどこでも良き》

■「パワハラになる可能性は相当高い」

一見すると、わきあいあいと楽しそうに見える「新入社員ダンス」。しかし、その運用の仕方次第では、パワーハラスメントに発展する可能性がないだろうか。そこで本誌は、労働問題に詳しい日本労働弁護団常任幹事の嶋﨑量弁護士に話を聞いた(以下、カッコ内は嶋﨑弁護士)。

「例えば、ダンスが好きで自発的にダンス動画に参加するのであれば、パワハラにはならないでしょう。ですが、断りづらいといった理由でしぶしぶ参加するとなれば、パワハラになる可能性は相当高く、業務命令として許されないでしょう」

具体的にどのような側面がパワハラとみなされるのか、嶋﨑弁護士は次のように解説する。

「上司が部下の新入社員に、ダンス動画への参加を命令したことを前提とすれば、職場の優越的な関係を利用したものになり、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものではないか、労働者の就業環境が害されるものでないかが問われます」

嶋﨑弁護士は「新入社員のダンス動画は会社の宣伝にもなっていますので、ある程度の必要性はあるかもしれません」と言及する一方で、こう指摘する。

「人前で踊ることやその動画が広く発信されることに対して、『恥ずかしい』『嫌だ』といった羞恥心を覚える人もいます」

さらに、嶋﨑弁護士はこう続ける。

「まして踊っている姿のみならず『顔出し』の動画をSNS上で全世界に発信されると、社外にもプライバシーが晒され、その記録も将来的に残ります。

いわゆるデジタルタトゥーです。従業員でも会社を離れた私生活、もしくは退職後も含めて情報が拡がり残ってしまうので相当では無く、労働者の就業環境を大きく害すると判断される可能性は高いでしょう。後で気が変わり嫌になっても、1度拡散されたら回収もできません。一時的に宴会芸として強いられること以上に問題があるのです」

■会社側は慎重な意思確認が必要に

従業員の立場でダンスを踊るだけでなく、その姿が顔を晒した状態でSNS上に発信されるーー。このような行為を会社側から求められ、「断りづらいから」との理由で参加する新入社員も少なからずいるだろう。そのため、彼らと同意を交わす面でも細心の注意が必要だという。

「ダンス動画に参加する新入社員たちが、“本当に納得して楽しんでいる”かは、相当注意して判断する必要があるでしょう。新入社員たちが本音ではどのように思っていたとしても、会社側は新入社員が『会社の提案を嫌とは言えるわけがない』という前提で意思確認をすべきでしょう」

嶋﨑弁護士はさらに、こう念を押す。

「もしも、ダンス動画に参加することで“会社に貢献している”としてプラスの評価を得られるとすれば、なおさら彼らは断りづらく感じるでしょう。参加しないとメリットを得られない状況を作るのも問題です。

また、新入社員のダンス動画は“素人感”がウケているようにも思いますが、プライベートでダンスの動画を投稿している人ばかりに踊らせているわけではないでしょう。本人の同意があったとしても、会社側は相当慎重な意思確認をしないといけないと思います」

果たして心から楽しんでダンス動画に参加している新入社員は、どれ程いるのだろうか?

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