「ベランダに、体の赤い小さなクモのような虫がたくさんいて気持ち悪くて。何とかしてください!」

毎年、この時季になると保健所や駆除会社にこんな悲鳴に近い問い合わせが増えるという。

この不気味な虫の正体とは……。

「それは『カベアナタカラダニ』と呼ばれるダニの一種です。ちょうど今の時季(5~7月)に最も動き回るダニで、日当たりのよい場所に大量に発生します。特にベランダやガレージ、エアコンの室外機の上、コンクリートの割れ目などでよく目撃されています」

そう教えてくれたのは、害虫防除技術研究所代表で、医学博士の白井良和さん。

正式名称は、「ダニ目前気門亜目タカラダニ科アナタカラダニ属カベアナタカラダニ」。現在、タカラダニ科は日本で4属13種が確認されているそうで、人家付近で最も目撃されるのが、この「カベアナタカラダニ」(以下「タカラダニ」と表記)なのだ。

一般的に知られているヒョウヒダニやイエダニ、コナダニなどはあまり人目につかない暗い場所にいるイメージがあるが、タカラダニは正反対。日当たりのよい、人がたくさんいる場所に出没するため、この時季に目撃される回数が急増するのだという。

このように人目につくことが多いタカラダニ。その生態について、白井さんに解説してもらった。

「大きさは1ミリ程度で、体の色が赤。花粉や胞子、そして一般的に“コケ”と呼ばれる地衣類をエサにしているといわれています。

北海道から沖縄まで広く生息し、活動期間は2カ月程度。産卵後に死にます。卵は翌年孵化し、春先に幼虫となり、5~6月に成虫となって活動します。興味深いのは、成虫がすべてメスで、オスは存在しない単為生殖であることです」(白井さん・以下同)

見た目が赤色のダニなので、刺されたりすると毒があるのではないかと怖がる人が多いようだ。

そもそもタカラダニは、人間を刺したり嚙んだりすることはないのか、人体に悪影響を及ぼすことはないのかが気になるところだ。

「これまで人間を刺したという事例はありません。だから過度に怖がる必要はないです。ただし、つぶしたタカラダニの体液が皮膚に触れた際にかゆみや発疹が出たという報告もあり、絶対に害がないとまでは言い切れません。小さいからといって、手で触ったり、つぶしたりしないほうが無難でしょう」

家のまわりで見つけた場合、どのように対処すればいいのか。

白井さんにタカラダニを見つけたら取るべき対処法を聞いた。

【1】水で流すか、掃除機で吸い取る

タカラダニはコンクリートの上などに多く出没するため、水で流すか掃除機で吸って一気に撃退しよう。

「ベランダや外壁など、家の外にいた場合は、ホースで水をかけて洗い流す。

あるいはホームセンターなどで売っているダニ用の駆除スプレーを噴霧する。ダニアレルギーを持っている人にとっては目にするだけでも恐怖なので、掃除機で吸い込んだタカラダニをゴミと一緒に袋の中に入れ、確実に処分することが精神的にもストレスにならないと思います」

【2】けっしてつぶさない

ベランダに干している洗濯物や布団にくっついていることも多いという。もしタカラダニがくっついていたら、つぶさないようはたいて落とし、水で排水溝に流そう。

「見つけた場合はつぶさないこと。体液が皮膚につくとかぶれる可能性がありますし、衣類の上でつぶしてしまうと、赤い体液が衣類ににじんでついてしまいます」

【3】植物を置いている場合はそのまわりをこまめに掃除する

「エサとなる花粉などに集まってくる可能性があるので、日当たりのいい玄関先やベランダに花を植えたプランターなどがある場合は周辺に水をまいたり、こまめに掃除をするといいでしょう」

【4】洗濯物を取り込む際にタカラダニがついていないか確認する

洗濯物や干した布団にくっつくことが多いので、部屋に入れないように一度チェックを。

だが、くっついていることに気づかず、洗濯物を取り込んでしまうこともあるだろう。その場合はどうすれば……?

「家の中で見つけても、刺したり嚙んだりはしないので、焦ることはありません。タカラダニをつぶさないように粘着テープに軽く貼りつけた後、折り畳んで捨てるようにしてください」

【5】家の中への侵入を防ぐため窓のサッシに殺虫剤をまく

体が小さいため、わずかな隙間から侵入してくることも。屋内でよく見るときは、サッシや網戸にダニ用の駆除スプレーをまいて遮断。

まだまだ大量発生のピーク。見つけたときは、くれぐれもつぶさないように!

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