「コロナ禍で、きちんとお別れができなかったために、亡くなった悲しみや喪失感を乗り越えられない人が増えています」
そう語るのは、よりよい死と葬送を実現するため活動する、NPO法人「エンディングセンター」の井上治代理事長だ。
コロナ禍で、葬送の仕方が大きく変化している。
終活関連サービス事業を行う鎌倉新書は’22年に「第5回お葬式に関する全国調査」を実施。’20年には葬儀全体の約半数を占めていた、親族以外の参列者も集う一般葬の割合は25.9%に減少。一方で、家族葬は前回調査の40.9%から55.7%に増加した。
また、別の調査ではコロナ禍で、約4割の葬儀に、友人・知人が参列していないことも明らかになっている。
■死を実感できないと悲しみが続いてしまう
「お葬式は、残された人が故人の死を受け入れて、心を整理し通常の生活に戻っていくきっかけになるものです。しかし、コロナ禍で、葬儀自体ができなかったり、十分な葬儀ができなかったと感じている家族や、葬儀に参列できなかった人は、その人が亡くなったことを実感するのが難しくなります。そうなるといつまでも落ち込んでしまったり、元の生活に戻ることが難しくなったりするのです」(井上さん・以下同)
最近では、こうした“あいまいな死”を乗り越えるため、葬儀や供養をやり直す“弔い直し”のニーズが高まっているという。
「私の恩師が亡くなった際にも、家族葬でその死を周囲に伝えていなかったことがあります。後から死を知った私は、ショックと喪失感に襲われましたが、自分なりの“弔い直し”をして死を受け入れたんです」
井上さんが友人でもできる弔い直しの方法を教えてくれた。
(1)友人用の祭壇をつくって思いをはせる
(2)お墓参りをする
(3)昔の友人たちとお別れ会を開く
「宗教的な儀式を行うことだけでなく、その人を思うことそれ自体が、弔いになります。
また、親族にお墓の場所を聞いて、お参りをするのもよいという。
「お墓参りをすることでも、死を実感しやすくなります。ご親族に『墓前にお参りしたい』と、お墓の場所を聞いて伺いましょう。さらに、お別れの会を開いて友人たちと故人の思い出話をすることも、死を受け入れることにつながります。“今も、皆の心の中にいるんだ”と感じることや、お互いの喪失感を共有することが、悲しみを和らげてくれるんです」
このような行動を起こすことそれ自体も、死を受け入れることにつながっていくという。
「死は、家族だけのものではありません。人は社会的な存在なのだから、友人や知人も落ち込んで当然。私は、葬儀の相談を受けるたびに『家族葬にされても、故人が亡くなったことは、周りにお知らせしてください』と伝えています。死者を弔うことは、残されたものが、前向きに生きていくためにも必要なのです」