本国タイで大ヒット、日本などアジア各国でも話題になった映画『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』のバズ・プーンピリヤ監督待望の新作『プアン/友だちと呼ばせて』が、公開後初の週末の、ミニシアター系映画の興行収入ランキング(興行通信社調べ)で2位につけるなど、好調なスタートを切っている。
タイ各地とニューヨークを舞台にした本作は、色鮮やかな映像と耳に残る音楽もあって鑑賞後も深い余韻を残す。
タイ×香港出身の名監督2人が手掛けた作品に、W主演として挑んだタイの人気俳優2人にインタビューをお願いした。
【あらすじ】
「死ぬ前に頼みを聞いてくれ」――。ニューヨークでバーを経営するボス(トー・タナポップ)のもとにそんな電話がかかってきた。電話の主は数年前にニューヨークからタイへ戻ったウード(アイス・ナッタラット)からだった。白血病で余命宣告を受けたウードは『元カノに返したいものがあるから運転手をしてくれ』とボスに頼み、2人の旅が始まった。
ボス役/トー・タナポップ
’94年生まれ。モデル、歌手としても活動。代表作にヒット学園ドラマ『Hormones:シリーズ』(’13~’14年)、『プロジェクトS:ザ・シリーズ』(’17年)などがある。タイの人気俳優のひとり。
ウード役/アイス・ナッタラット
’91年生まれ。
――タイで有名なバズ監督、そしてプロデューサーにウォン・カーウァイ監督が携わる作品に出演が決まったときの感想は?
アイス「バズ監督の作品に出演できるのは役者として夢が叶ったという心境。ウォン・カーウァイ監督についても国際映画祭に多数出品している世界中で有名な方であることは認識していました。すべての作品が好きです」
――出演決定の連絡を受けて、うれしくて飛び跳ねたりとか、感情が高ぶった感じにはならなかった!?
アイス「じつは最初、ウォン・カーウァイ監督が関わっているとは知らなくて、あとからプロデューサーですと知らされて衝撃を受けたんです。助監督に電話して『本当なの?』って聞いたら『本当だよ』と言われて。だからうれしくて飛び跳ねたというよりも、これって何? と現実を受け止めきれなかったのが正直なところです」
――ということは、トーさんもプロデューサーがウォン・カーウァイ監督であることは知らなかった?
トー「僕は最初からウォン監督がプロデューサーであることは知っていました。なのでオーディションに行くときはすごく興奮しましたし、すごくプレッシャーも感じました。とてもリスペクトしている2人と仕事ができたらいいなと思う一方で、自分はこんなにすごい2人と仕事ができる能力があるのかという気持ちもありました。でも選ばれて、とてもうれしいと思いましたし、本当に人生のいい経験のひとつになったと思います」
――撮影中、バズ監督から役柄について、どのようなことを言われました?
トー「事前のワークショップで考え方なども聞きましたし、脚本の読み合わせを何度もして、役になりきりました。バズ監督は役者に強制しすぎない。
アイス「監督はキャラクターに関しての解釈を役者に任せてくれました。だから、監督とはキャラクターについては、ほとんど話していません。バズ監督はタイにバーを持っているのですが、僕は撮影前にそのバーで1カ月間働きました。というのも、この作品はバズ監督のプライベートを描いているから。バーで働くうちに、バズ監督の考えていることが、なんとなくわかっていきました。撮影中の監督は、離れたところから見守ってくださっていた感じです」
トー「この映画はどの役者にも即興を求められたので、すごく演技がチャレンジになったと思います。でもそれは監督と役者、そして役者同志にも信頼関係があったからこそ成り立ったこと。監督は演技の方向性を示し、その場面の設定を話して、あとは自由にしていいと言われたんです」
――即興の演技を求めたという点、バズ監督はウォン監督の手法を取り入れたのかもしれませんね。ではそれぞれ、役柄とご自分が似ている点、異なる点を教えてください。
トー「似ているところは、ボスの本当に人を愛さないところと、人に愛されていないんじゃないかと考えるところ。僕も人に愛されていないんじゃないかなと心配になるときはあります。
――トーさんはタイで主演作品もたくさんある人気俳優なのに、「愛されていない?」とは、どういうことなのでしょう?
トー「自分ではそんなに人気があると思っていないですし、僕はとてもシャイな人間で自信がないので、人に愛されていないのでは? と不安になるときが時々あるんですよ」
――そうなんですね……。アイスさんはいかがですか?
アイス「ウードには恋人がたくさんいるところが違いますね。自分は今まで、恋人は1人しかいないので。だから自分にはない人間関係を理解しなければならず、ウードと元恋人の関係を研究しました。人間として、夢や欲や嫉妬心がある部分は通じるところがあると思います」
■がん患者を演じるために、1カ月半で17キロ減量
――今回アイスさんが演じたウードですが、どんどん痩せていくさまがスクリーンに映しだされていきます。1カ月半で17キロ体重を落としたそうですが、どのように落とされていったのでしょう?
アイス「まず食事の量を減らしました。1カ月半で目標の体重になるよう綿密にカロリー計算をし、食事のかわりに果物を食べ、早歩きや水泳といった有酸素運動をしました。まわりの人がおいしそうに何かを食べているのを見たときは、“幸せなんだろうな”“自分のかわりに食べてくれているんだな”と思うようにしました」
――体重が落ちるとともに体力と気力も落ちていったのだろうなとウードを見て思いました。
アイス「心身ともに、がん患者らしく見せるため、痩せることが目標でした。痩せることによって自然に話し方や歩き方も変わっていったのです。大変だったのは、普通の体重に戻すとき。胃が小さくなっていたので、少しずつ胃の大きさを戻しながら健康な状態になるのは、痩せるより大変でした」
――トーさんはバーテンダー役をするにあたり、有名なバーテンダーのもとでトレーニングされたと聞きました。
トー「バーテンダーの技術を学んだのは2~3カ月です。今まで引き受けた役柄は、自分で経験がない職業だった場合、必ず勉強して身につけるようにしています」
――バーテンダーという職に対してどのような感想をお持ちになりましたか。
トー「役者は芸術ですよね。バーテンダーも芸術だなと思いました。これが正しい、これが間違いというのはなく、どう見えてもいいものだし、新しいものを作り出す職業なんだという感想を持ちました」
――この映画は友情を描いた作品ですが、共演してのお互いの感想をお聞かせください。
トー「アイスさんのウード役への真剣な取り組みは、同じ役者として本当に尊敬しています。そしてアイスさんの減量は、誰もができることではないと思っています」
アイス「ボスは見た感じは明るい人に見えるけれど、じつは内面に悲しみを秘めている。それをトーさんはすごく上手に演じていました。トーさんは演じるときの視野が広い。その広さを、自分も役者として持つべきだと思いました」
――撮影終了は’20年の新型コロナウィルス感染症流行の直前と聞いています。そこから本作は2年を経て、’22年2月にタイで公開されました。
トー「タイでは国からの要請ですべての撮影を中止した時期もありました」
――このコロナ禍で“おこもり時間”が増え、タイBLが日本でも人気になりました。タイドラマ、タイ映画、タイエンタメに興味を持つ日本人にメッセージをお願いします。
トー「日本の皆さんはじめまして。タイのドラマや映画に興味を持ってくださってありがとうございます。いい作品をつくっていこうと頑張っていきますので、応援お願いします。そしてこの作品はとてもよい映画なので、きっと気に入っていただけると思います。絶対に見逃してほしくないです!」
アイス「タイのエンタメ作品に興味を持っていただいてありがとうございます。末永くお付き合いいただけたらとてもうれしいです。この作品については1本の映画として感想はもちろんさまざまだと思います。ですので、日本の方の感想、フィードバックをすごく楽しみにしています。よろしくお願いします!」
『プアン/友だちと呼ばせて(原題One for the Road)』
2021年サンダンス映画祭ワールドシネマドラマティック部門クリエイティブ・ビジョン審査員特別賞受賞
監督:バズ・プーンピリヤ(『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』)
製作総指揮:ウォン・カーウァイ(『恋する惑星』『花様年華』)
出演:トー・タナポップ、アイス・ナッタラット、オークベープ・チュティモン
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8月5日(金)より、新宿武蔵野館、シネスイッチ銀座、渋谷シネクイントほか全国順次ロードショー