日本銀行の経済政策に注目が集まっている。世界各国の中央銀行が大幅な利上げをするなか、日銀も続くのか……。
11月2日、米国の中央銀行にあたるFRBは政策金利を0.75ポイント引き上げることを決定した。これで4回連続の大幅な利上げ。3月まで0.25%だった米国の政策金利は3.75~4%という水準になることになる。
「政策金利」とは、中央銀行(日本の場合は日本銀行)が一般の銀行に貸し付ける際の金利のこと。
「景気が悪いときは金利を引き下げる。そのことを通じて、一般の銀行が貸し付けるときの金利も下がり、企業や個人が金を借りやすくなって、経済活動を活性化させます。一方、景気が過熱し、物価の急上昇などのインフレが起きた場合、政策金利を引き上げることで抑制を図るのです」
そう語るのは、「暮らしと経済研究室」主宰で経済学者の山家悠紀夫さんだ。
「米国では物価の急上昇を受けて、政策金利が引き上げられました。現在、日本の政策金利はマイナス0.1%と、低金利を通り越したマイナス金利です。経済情勢を考えれば、すでに金利は引き上げられていてもおかしくはありません」
■ローンが返却できず自宅を手放す懸念も
政策金利の引き上げは、私たちの生活にも大きな影響を与える。
「じつは住宅ローンの変動金利は、政策金利の影響を受けて決まります。
ファイナンシャルプランナーで著書に『住宅ローンはこうして借りなさい』(ダイヤモンド社)がある深田晶恵さんはこう警告する。じつは変動金利が上がる兆候はすでに出ているという。
「国債市場の動向で決まる“固定金利”は今年の2月からじわりと上昇しています。じつは固定金利は、変動金利に先行して上がっていくという“経済の約束事”があるのです」(深田さん)
日銀のマイナス金利施策に加え、銀行間の競争もあり、住宅ローンの変動金利は史上最低水準の0.5%前後で推移している。今年4月の住宅金融支援機構の調査によると、住宅ローンの利用者の73.9%が変動金利を選んでいる。日銀の黒田東彦総裁は、10月28日の会見で「今すぐの引き上げは考えていない」と語ったが……。
「黒田総裁の任期は来年4月まで。後任の総裁が金融政策の修正に動く可能性はある。消費者物価指数が1年前より3%上がっていますから、金利も上がるとすれば3%ほどでしょう。住宅ローンの変動金利も同程度上昇していくことが考えられます」(山家さん)
変動金利が上がっても、直ちに返済額が増えるわけではない。
「金利の上昇で返済額が大きく増えないように、5年間は返済額が変わらず、5年後でも返済額はそれまでの1.25倍までしか上がらないというルールがあります。
変動金利0.5%で4000万円の35年ローンを組んだ人が、返済開始から5年で3%の金利になり、その後も金利が下がらなかったケースで考えてみよう。金利が0.5%から変わらなかったケースと比べて、30年で1582万2573円も総支払額が増えることになる(図参照)。本来、老後資金として貯蓄や投資にあてることができた1600万円がローンの返済に消えてしまうのだ。
「さらに最悪なのは、返済期間で残高がゼロにならないパターン。契約書には『ローン最終回で一括返済すること』とある場合が多く、老後資金や退職金が消えてしまう懸念があるのです」
それでも返済できなければ、家を手放すことになる場合も……。
■長年の低金利で金利感覚が麻痺
変動金利が上がってから、慌てて固定金利に切り替えようと思っても後の祭り。前述のように、変動金利が上がるときには、すでに固定金利も上がっているのだ。
「住宅ローンは、夫にすべて任せている人も少なくありません。今からでも、夫婦でしっかり情報を共有して、変動金利の上昇に備えておくことが必要です。返済が難しくなったら毎月の返済額を下げたり、ボーナス返済を設定したりするなど銀行に相談しましょう」
長年の低金利の影響で、「ローンを借りても、総返済額は元金から大きく増えないと金利感覚が麻痺している人が多い」と深田さん。当然、政策金利の上昇は、教育ローンや自動車ローンなどにも影響を与える。老後破綻を防ぐため、金利上昇に備えよう。