11月28日、岸田文雄首相は防衛費などの関連予算を今後5年で倍増し、27年度には国内総生産(GDP)比2%以上にするよう関係閣僚に指示。財源確保を年内に決着させる考えを表明した。

政治アナリストの伊藤惇夫さんがこう語る。

「岸田首相は、これまで行った決定はことごとく間違ってきた“決断オンチ”です。だいたい岸田首相は、防衛費増額について数値目標を設けずに『必要なものを積み上げていく』と繰り返してきたのに、突然『2%目標』と数字を出してきました。政権を安定させるため、自民党で影響力のある安倍派に押されて数字を出さざるをえないという状況。さらに内閣支持率の低迷を打開するため、リーダーシップを発揮しようともくろんでいるともいわれています」

2022年度の防衛費は約5.4兆円でGDP比1%ほどだが、これを2%に増やすと11兆円になる。軍事評論家の田岡俊次さんが語る。

「今年4月に発表された『世界の軍事費』(ストックホルム国際平和研究所)によれば、2021年の日本の防衛費は世界9位でした。11兆円に倍増させると、日本は一気にアメリカ、中国に次ぐ3位に。平和憲法を掲げながらも、実質的に軍事的列強国の一国となるのです」

あらたに必要となる5兆円規模の財源として、自民党内では国の借金である国債で一時的に対応するべきとするという声が大きい。

■超物価高のなか所得税増税が……

同志社大学大学院ビジネス研究科教授でエコノミストの浜矩子さんがこう憤る。

「第二次世界大戦での戦時国債で戦禍を拡大させていった教訓があるはず。しかも11月29日に、日本銀行が買い入れている国債が下落して9千億円近くの含み損が発生したことが発表されたばかり。

それでもまだ国債を使おうとする自民党政治家の見識が疑われます」

一方、財務省は防衛費の増額分を増税で確保するべきだと考えている。伊藤さんが解説する。

「防衛費は恒常的な経費のため、安定財源が不可欠といわれます。税目別で収入が多いのは消費、所得、法人の基幹3税ですが、消費税については自民党の宮沢洋一税制調査会長が、社会保障財源にあてるため『防衛費であまり手をつけたくない』と否定的な考え。財源として候補にあげられているのが所得税と法人税です」

企業などの所得に対してかかる法人税について、11月21日に経団連の十倉雅和会長が「法人税が独り歩きして先行されて議論されるのはいかがなものか」と牽制した。

「岸田首相は、就任当初に“金持ち優遇”となっている金融所得課税の見直しを打ち出しましたが、富裕層からの反発を受けてすぐに見送りました。経済界の意向や政治力のある人の声には“聞く力”があるようですから、法人税に対しては及び腰になる可能性が高い。そのしわ寄せは、声を上げられない国民にいくことになるのです」(浜さん)

そうなると可能性が高いのが所得税の増税だ。2021年度の所得税の税収は21兆3千822億円。防衛費11兆円のためには5兆6千億円を捻出する必要があるが、所得税だけで賄おうとする場合、現在より約26%税収を増やさなければならない。

仮に、単純に所得税が3割増税される場合、年収600万円の家庭(夫婦2人)の所得税は現在は年16万7000円ほどだが、増税されると約21万7100円と、年5万円の負担が増える。累進課税となっている所得税は、収入が上がるごとに税率が上昇する。

年収800万円家庭(夫婦2人)の所得税は現在39万3000円ほどだが、増税されると51万900円と、年11万7900円も負担増に。

「コロナ禍に加え、円安や物価高に直面する家計にとって増税は国民生活の破綻を招きます。国民の信を問わずに軍拡のための大増税はまさに政府の暴走といっていいでしょう」(浜さん)

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