長引くコロナ禍。感染者が増加するとともに、治癒後も倦怠感や頭痛、思考力の低下などで日常生活に支障が出る後遺症に悩む人が増えている。

治療に当たる医師に、対処法を教えてもらった。

「コロナが治った後に無理をすると、身の回りのことはできても一人で外出できない“準寝たきり”状態や、介助なしには生活ができない“寝たきり”状態になってしまう場合があるのです」

そう警鐘を鳴らすのは、5千人以上のコロナ後遺症患者を治療しているヒラハタクリニック(東京都渋谷区)の院長・平畑光一さん。

約8万人のコロナ罹患者を対象に行ったオランダの研究では、成人の8人に1人が後遺症になっているという。さらに、症状が長引くケースも少なくない。フランスの調査では、後遺症の発症から12カ月たっても何らかの症状が残っている人が85%という結果が報告されている。一度治った後に、再発する場合もある。

「当院の統計では、オミクロン株以降の後遺症症状としては倦怠感や、気分の落ち込み、“ブレイン・フォグ”と呼ばれる思考力の低下が多く、仕事復帰に影響を与えています」

専業主婦でも、家事ができなくなってしまった人がいるという。

このような後遺症の悪化を防ぎ、治すためのポイントについて、平畑さんは以下のように語る。

【1】疲労をとにかく避ける

「少しでも“だるい”と思うことは、できるだけしないことです。スマホの使用も控えめに。横になって動画を流してボーッと見ているだけでも脳が疲れるので、使用は短時間にとどめましょう」

家事・育児・介護なども、無理は禁物。倦怠感がひどい場合は、入浴やシャワーも控えて、体をふく程度にしよう。

「体力を回復させるための運動にも注意が必要。体を動かしてつらくないならかまいませんが、屋外での散歩やジョギングなどは悪化を招くことが多いです。少しでもだるさを感じたら、即中止して」

療養期間が明けて、仕事を再開する場合は、さらに注意が必要だ。

「休んだ分を取り戻そうとがんばって、一気に後遺症がひどくなった患者さんが多くいます。とくに通勤は負荷が高く、片道1時間以上かかる場合は要注意。電車を途中で降りて座るなど、こまめに休息をとってください。

特にコロナに罹患して最初の60日間は、決して無理をしないこと。ここで無理をすると“準寝たきり”や“寝たきり”状態になりかねません」

【2】飲酒・喫煙・甘いもの・油ものは控える

「飲酒・喫煙は後遺症の症状が続いている間は、絶対にやめてください。とくに飲酒をすると、一気に後遺症が重くなる人が多いので要注意。また、消化器に負荷をかけると後遺症が重くなるということが少しずつわかってきています。砂糖や油ものは控え、食べすぎにも注意が必要です」

【3】鼻うがいをする

コロナ後遺症では、上咽頭(鼻とのどの間の部分)に炎症を起こしていることが多く、この炎症を治療することで症状が改善される場合が。その治療に効果的なのが、鼻うがいだ。

「手軽にできる鼻うがいは、後遺症の症状全般を軽減してくれるだけでなく、コロナの予防や罹患時のリスクも軽減してくれます」

アメリカの調査では、1日2回の生理食塩水による鼻うがいで、コロナによる入院や死亡のリスクを約9分の1に減らせたという報告も。市販のキットも販売されているので、ぜひ試してみよう。

【4】上咽頭擦過療法を行う

鼻うがい以上に上咽頭の炎症に効果があるとされるのが、上咽頭に薬を直接塗り付ける上咽頭擦過療法だ。まだごく一部の耳鼻咽喉科でしか行われていないが、保険適用のため安価に受けることが可能。治療できる病院は増えつつあるので、探してみよう。

【5】鍼灸を試す

後遺症の症状全般を軽減してくれる可能性がある鍼灸。ただし、施術を受けるときには注意点も。

「普通に施術を行うと、効きすぎて、かえって悪化することも。最初は、すごく軽く施術をしてもらってください。だるくて治療院を受診できないという人は、訪問の鍼灸師にお願いしてみましょう」

【6】漢方薬を取り入れる

「漢方薬に詳しい医師に症状を説明し、自分に合った処方をしてもらうことで、後遺症が改善されるケースがあります」

【7】亜鉛やアミノ酸を取り入れる

味覚・嗅覚障害や脱毛などの症状が残っている人は、亜鉛が不足している可能性があるという。

「血中の亜鉛濃度を測ってから摂取するのが望ましいですが、近くに相談できるクリニックがない場合は、サプリなどで一般的な量を摂取して様子を見てみましょう。市販のアミノ酸(BCAA)が倦怠感の軽減に効果があった、という人もいます」

【8】呼吸リハビリをする

お金をかけずにできて効果的なのが呼吸リハビリだ。

「深呼吸するだけでも、症状が改善されるケースも。深呼吸で疲れてしまう人は、膝が直角になるように台に足をのせてあおむけに寝たり(上写真参照)、膝を立てた状態だとラクに呼吸ができます」

longcovid.jpで公開されている重症者向けの呼吸法の一例としては、ソファや段ボール箱などに足をのせ、左右の腕の下にクッションを置いた状態で5~15分通常の呼吸をするというものがある。

後遺症になってしまった場合でも希望を持つことが大切だ。

「当院で2カ月以上診察した“準寝たきり”だった患者645人のうち、76・4%は、ある程度生活できる、または仕事ができるところまで回復しています。焦らず治療・療養を続けてください」

各都道府県で案内されているコロナ後遺症外来がある病院やクリニックを受診したうえで、これらのポイントを実践してみよう。

とはいえ、まだコロナ後遺症を診るクリニックが少ないのが現実だ。

「増えない原因のひとつは、診療報酬が非常に低いからではないでしょうか。コロナ後遺症患者を診察するには十分なヒアリングが必要で、風邪の3~5倍時間を要します。しかし、診療報酬は風邪と同じなのです」(平畑さん)

療養したくても仕事を休めなかったり、後遺症で仕事に行けなくなってしまう場合も。もし業務中にコロナに感染したのであれば「労災申請の検討をしてみて」と語るのは産業医科大学産業生態科学研究所・災害産業保健センター助教の五十嵐侑さん。

「認定されやすいのは、医療・介護従事者ですが『職場でクラスターが発生していた』『同僚が陽性だった』などがわかれば、どんな職種でも認められる可能性があるのです。パート・アルバイトでも申請でき、認められれば後遺症で休む場合も、給与の約8割が労災保険から支給されます。

2年前まで遡って請求できるので、長く後遺症に悩んでいる人は申請してみるのもいいでしょう」

後遺症は治らないとあきらめず、健康な生活を取り戻そう!

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