’23年度の公的年金は、3年ぶりに増額が決まりました。年金支給額は68歳以上で1.9%、67歳以下は2.2%増えます(23年1月20日・厚生労働省)。
年金が増えて喜んでいる方もいるでしょうが、実は物価を考え合わせると、年金は実質目減りの状態にあるのです。本来、年金は物価の上昇と共に受給額が上がる仕組みでした。しかし、年金の支え手である現役世代が減り、財源不足が問題です。それらを解消し「100年安心」な年金にしようと’04年に年金改革法が成立。「マクロ経済スライド」を導入して、年金額の抑制を図りました。
これは、物価などの変動率から、現役世代の人口減少と平均余命の延びから算出される「調整率」を差し引いた割合しか年金を上昇させない仕組みです。その結果、物価が上昇しても以前のように年金は増えなくなりました。
■年金だけでは物価高に対抗できない
しかし、マクロ経済スライドは物価などの下落時には発動されないのがルールです。デフレ下でずっと発動されずに10年余りが過ぎ、初めて実施されたのは’15年度でした。
今年、物価の上昇を受けて3年ぶりにマクロ経済スライドが発動されました。そのため、物価の上昇に対して、年金の増額が低く抑えられています。 ここで’23年度の改定率を見てみると、68歳以上の方の年金額は’22年の物価変動率2.5%が基準です。ただし2.5%の増額から、’23年度の調整率0.3%と’21年度・’22年度のキャリーオーバー分0.3%が引かれ、1.9%の増額に抑制されたというわけです。
年金額の抑制は、若者世代の負担を減らすために必要な措置でしょう。とはいえ、’22年12月の消費者物価指数は前年同月比で4%の上昇。いまは41年ぶりの物価高です。値上げが相次ぎ、年金生活者の家計は火の車だと思います。
国にはこうした状況に配慮して、たとえば「今回のみキャリーオーバー分は据え置く」などの措置をとってほしいものです。でも、岸田内閣は検討すらしていないでしょう。