「『私はもう年だから……』という“思い込み”はとても多いんです。いまは“人生100年時代”なのに、“人生70年時代”だったころの思い込みで、50歳くらいになると『そろそろ終活しなくちゃ』なんて言い始める人もいます。

『そちらの“終活”じゃなくて、就職活動の“就活”のほうが大事よ、50代は』なんて言っているんですけどね」

ベストセラー『女性の品格』で知られる昭和女子大学理事長・総長の坂東眞理子さん(76)。出版したばかりの著書『思い込みにとらわれない生き方』(ポプラ社)では、さまざまな“無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)”について取り上げている。

坂東さんが“無意識の思い込み”について考えるきっかけは、’21年2月に批判が殺到した、森喜朗元首相(85)の“女性は話が長い”という趣旨の発言だった。

「森さんのように『女性だから……』という方は少なくありませんが、“男性だけでなく女性自身も、無意識の思い込みにとらわれているのではないか”と考えるようになったのです」

『女性自身』の読者世代が陥りがちな“思い込み”をこう話す。

「共通してあるのが、『女性だから』『年だから』という思い込み。過去の経験やひと昔前の価値観から“こうに違いない”と思い込んで、自分の可能性を狭めている方は多いのではないでしょうか」

■「親の面倒を見なければ」介護にも“思い込み”が

たとえば多くの人が悩む介護の問題にも“無意識の思い込み”は潜んでいる。「親の面倒は自分が見なければいけない」「他人に介護してもらうのは親不孝だ」。そんなふうに思い込んでいる人はまだまだ少なくないかもしれないが……。

「保育園だって、私が子育てをしていた時代は“お母さんが働いて好きな仕事をしたいからって子どもを保育園に預けるのはかわいそう”という考え方の人が多かった。でも、今の世代の人たちには“プロに任せてもいいんだ”というのが共通理解になってきています。

これと一緒で介護施設に行く親が今後もっと増えてくると、“プロの手を借りてもいいんだ”という認識に変わっていくはずです」

“思い込み”を捨て去ることで、人生100年時代を豊かに生きることができると坂東さんは説く。そこで、思い込みをなくし、人生を輝かせる具体的な方法を聞いた。

【1】「~べき」から自分を解き放つ

「自分で納得していればいいんですが、“母親だから”“嫁だから”など、この立場だからこうすべきという思い込みはあるものです。私の友人の50代くらいの人でも、『親の介護をやらなければいけないから責任のある仕事には就かない』と言ってる人がいたんですが、本当にもったいない話。

一方で、別の友人である大会社の役員になった人はすごく忙しくて、母親を家で介護できなくなって施設に入ってもらったんです。それで施設に顔を出すのは週1回でも、1日2回は必ず電話をかけるそう。通勤途中に『朝何食べた?』とか、その程度のことでも『私のことをちゃんと考えてくれてる』とお母さんにとっては心の支えになっているようなんです。

“こうすべき、ああすべき”ではなくて、“この中で自分は何ができるのかしら”と考えると自由度が上がるんじゃないでしょうか」

【2】SNSだけでなく、書店や図書館へ

「SNSが恐ろしいのは、“あなた好みの情報をお届けします”と、同じような情報ばかりが目に入ってきてしまうこと。そうすると、どんどん深い狭い世界に入っていってしまう。とてもきちんとされている方が、ネット上の陰謀論を信じ込んでいるということも実際に私の周りであった話です。

ひとつの情報源に頼るのでなく別の情報の動きも意識する。新聞で見出しだけでも見る、いつもと違う人から話を聞く、別の分野の本を読む……。そういうことが視野を広げることになると思います。

本を読むにしても、好きなジャンルばかり読んでしまいがちですが、図書館で好きな分野でなくても知らない本を選んでみるとよいですね。

そういう本は“面白くてたまらない”ということは少ないかもしれないけれど、世界を広げる読書になります」

【3】若い人に教えてもらう

「たとえば私はパソコンはあまり得意ではなくて、あきらめそうになることが多いんです。でも『いやいや』と思い直して、若い人にやり方を聞くようにしています。『お願い、やって』と頼んでしまったほうが楽かもしれませんが、これからの時代を生きていくうえでは自分でやれるのはとても重要ですからね。若い人にものを聞くのは恥ずかしいと思うかもしれませんが、知らないことはあって当然。教えてもらえばいいんです。若い人は説教されるのは嫌がりますけれど(笑)、教えを請われるのは嫌がらないものです」

【4】親友よりも、新しい友達を

「“親友がいないのは不幸せ”。これも一種の思い込みでしょう。そもそも親友に出会えるかどうかは運。運よく親友に出会えた人でも、少数の親友にしがみついていると境遇が変わったりして会えなくなる場合があると、ショックは大きくなります。しがみつくと相手にとって負担になることもあります。

だから親友とはいわずに知り合い、私のことを知ってくれている人がいれば十分。好意のある知り合いを数多く持っているというのはとても幸せなことなんです。

仕事や習い事など、新しい場に行けば新しい出会いがあるはずですから、そこで“新しい友達”をつくってみてはどうでしょう。

そんなとき“自分の考え方や価値観がぴったり合う人”はそんなに多いものではありませんから、『同じように感じてくれない人は友達にはなれない』と切り捨てるのではなく、『へ~そうなんだ』と違ってるから面白いと考える心の柔らかさがあるといいと思います。

知り合いが多かったり複数のコミュニティに属していれば、たとえばママ友の仲間はずれになっても、ほかのグループがあるから平気と思えるのではないでしょうか」

【5】趣味がなければ、人の役に立つ

「60代70代の人たちが『もう年なんだから好きなことをしてのんびり暮らしたい』って言ったりするでしょう?

それも一世代前の“人生70年時代”の思い込み。まだ世の中のために役に立つことができるんじゃないか、私には何ができるんだろう、っていうふうに考えてみてはどうでしょう。

人は、自己実現以上に人の役に立っているということで満足感を得られるそうなんです。『役に立った』と喜んでもらったという機会を増やしたら幸福感が高まると思います」

坂東さんは、読者にこんなエールを送ってくれた。

「『女性自身』の読者の世代の方たちは、本当に力があるんです。でも、挑戦する前にあきらめている。立ちすくんで足を一歩前に出さないのはもったいないですよ」

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