住んでいた場所は違っても、年齢が近ければ「そうそう! わかる」って盛り上がれるのが、青春時代、歌って踊った音楽の話。各界で活躍する同世代の女性と一緒に、“あのころ”を振り返ってみましょう――。

「高校時代、毎日のように友達と入り浸っていたのがカラオケボックス。小室ファミリーの全盛期で、みんながみんな、安室奈美恵さんや華原朋美さん、globe、trfを歌っていました。曲の番号は歌本を見なくても入力できるほど。1~2時間くらいのつもりだったのに、延長を重ねて何時間も歌い続けてしまうんですよね」

そう’90年代を振り返るのは、タレントの小野真弓さん(42)。幼いころは、カラオケを人前で歌えないほど、目立つのが苦手だったという。

「学級委員をするタイプでもなく、悪いことをして怒られるタイプでもない。目立たず、騒がず、積極的に挙手もしない。それが集団生活でいじめっ子にもいじめられっ子にもならない方法だと思っていました。大人から見れば、扱いやすい子だったはず。ただ、目立つことをやって怒られる友達を見て、うらやましいと思う気持ちもありました」

小学校3、4年生くらいのときに、いとこが懸賞で当てたチケットで、ミュージカルを初鑑賞した。

「鑑賞したのは子どもミュージカル。私とそれほど年齢が変わらないのに、舞台でスポットライトを浴びながら、堂々と歌と踊りを表現している姿がキラキラしていて。

“あんなふうに変われたらな”と願望を抱くようになりました」

そんな気持ちを抱いていた小野さんの中高生時代にヒット曲を連発していたのが小室ファミリー。

「TM NETWORKのころはまだ小室哲哉さんのことを知らなくて、trfがきっかけ。それからは、次々に小室ファミリーの曲がリリースされていくので、曲を追いかけるのに必死でした」

安室奈美恵のこともすぐに好きになった。

「ダンスがカッコよくて、歌詞も素敵。メークをマネしようと、ペンシルで唇を縁取ってベージュ系のリップを塗ってみたのですが、様子がおかしい(笑)。それでも白い厚底ブーツを履いたり、細眉にしたり、日焼けサロンにも行きました。日サロはお金がかかるから、夏場は日焼けオイルを塗ってあえて日なたを歩いて登校したり、休み時間に屋上で友達と並んで寝転がったりしていました」

■『I’m proud』の歌詞を自分自身に重ね合わせて

高校時代、下校途中に渋谷に立ち寄ると、自分も含めてアムラーだらけだった。

「用もないのに渋谷に寄って、プリクラを撮ったり、マクドナルドでポテトを食べたり。そして、ほとんど毎日のようにカラオケボックスに行っていました」

必ず歌っていたのは華原朋美の曲だった。

「『I BELIEVE』(’95年)『LOVE BRACE』(’96年)『LOVE IS ALL MUSIC』(’97年)と、何でも歌いましたし、知り合いのお母さんからパート先のドラッグストアにある華原さんのポスターをもらって、部屋のドアに。“こんなにかわいく笑える女のコになりたい”と、部屋に入るたびに思っていました」

もっとも心に残っている曲が『I’m proud』(’96年)だ。

「最初に聴いたのは中3くらいでしたが、カセットテープに録音して、何度も繰り返し聴き続けた曲。

メロディも好きですが、私は歌詞をすごく聴き込むタイプ。自分自身に重ね合わせていました。当時は自信がなくて、自分の将来が見えなかった時期。大人になって経験するであろう恋愛や結婚についても、わくわくより不安が。でも、『I’m proud』を聴くと、いつか自分のことを誇れるようになれると思えました。そのためにも、自分が変わらないといけないなって」

最初に考えたのは、これまで経験がなかった“自分を表現すること”だった。

「大好きだったオーディション番組の『ASAYAN』(’95~’02年・テレビ東京系)で、普通の女のコが有名になっていく姿を見ていたので、芸能界が身近に感じられるようになりました」

短大に進学するのか、就職するのか、進路に悩んでいた17歳のとき“自分を変えるために、とにかく、一度チャレンジしてみよう”と、松田聖子酒井法子が所属していたサンミュージックの新人発掘オーディションに応募した。

「合格したら1年間、歌やお芝居のレッスンを無料で受けられます。結果は不合格でしたが、マネージャーの1人が会社を説得してくれて、おまけ合格のようなものに」

思い切って飛び込んだ芸能界だったが、最初はもちろん何もできない素人。ドラマデビュー作となった『はぐれ刑事純情派』(’88~’09年・テレビ朝日系)では、ウエートレス役も満足にできなかった。

「トレーを持って藤田まことさんにコーヒーを出すというシーンでしたが、緊張しちゃってコーヒーカップを持つ手が震え、中身がこぼれてしまうほど。藤田さんは笑って『大丈夫だよ』と緊張をほぐしてくれましたが……。

食レポをしても『おいしい』しか言葉が出ない(笑)。せめておいしそうな顔だったらいいのですが、ガチガチにこわばった顔だから、カメラマンさんも困っていました」

落ち込みながら帰宅する電車の中で聴いていたのも小室ファミリーの曲だった。

「アップテンポのtrfの曲に元気づけてもらい、疲れたときは華原さんのバラードに癒されていました。小室ファミリーの曲に毎日励まされながら仕事を続けていたおかげで、ようやく’02年、『アコム』のCMを機に名前と顔を覚えてもらえるように。自信のなかった私が、ようやくプライドを持てる仕事に巡り合えたんです」

小室哲哉の生み出す音楽は、楽しく踊れるだけではなかったのだ。

【PROFILE】

小野真弓

’81年、千葉県生まれ。女優、グラビアなどで活躍後、’02年にアコムのCMで大ブレーク。癒される笑顔が話題となった。トリマーや動物介護士の資格を持ち、動物の保護活動にも積極的。’19年に木更津の一軒家を購入してからは、愛犬、愛猫と悠々自適な田舎生活を楽しんでいる

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