納得ができるものしか自分の口に入れたくない。それはあたり前の願いであり、権利だ。
納豆や豆腐、スナック類などのパッケージに表示されていた「遺伝子組換えでない」という表示が4月からほぼ消える。
「大豆やとうもろこしを原料とした食品を製造するとき、今までは製造ラインを分ける“分別管理”をしても、意図せざる遺伝子組み換え食品の混入が5%未満であれば『遺伝子組換えでない』と表示できました。しかし4月からは、検出限界値(約0.01~0.1%)未満でないと『遺伝子組換えでない』と表示できなくなります」
そう説明するのは、NPO法人日本消費者連盟の運営委員で、食品表示に詳しい原英二さん。「遺伝子組換え」の表示義務の対象は、大豆やとうもろこし、なたねなどの9農産物。さらにこれらを原材料とした、味噌やポテトスナックなど33の加工食品群だ。
醬油などは表示義務の対象外だったが、任意で「遺伝子組換えでない」と記載することは可能だったが、これもむずかしくなる。こうした食品表示ルールは、「食品表示法」で定められており消費者庁が管轄している。なぜ、「遺伝子組換えでない」の表示は消えるのか。
「『遺伝子組換え表示制度』については、2017年から消費者庁が『遺伝子組換え表示制度に関する検討会』を開いて議論していました。そこで消費者からあったという〈(混入の基準値は)低ければ低い方がいい〉という意見に消費者庁が従う形で2018年に変更が決定。5年の経過措置のあと、今年4月から施行されることになりました」
■大豆・とうもろこしは実質的に表示が禁止に
基準の数値が厳しくなるのならいいのではないか、と思いきや「そうではない」と原さんは指摘する。
「日本は、遺伝子組み換え表示の対象となっている大豆やとうもろこしの約9割をアメリカやカナダなど海外から輸入しており、そのほとんどが遺伝子組み換えです。これまで『遺伝子組換えでない』と表示していた多くは輸入原料で、分別管理していても、輸送時に使用する大型サイロやパイプは洗浄しているわけではないため少なからず混じってしまう。つまり、意図せざる混入を検出限界値未満にするのは極めて難しいのです」
つまり、検出限界値未満しか「遺伝子組換えでない」と表示できなくなるということは、この表示が事実上、禁じられたに等しい。消費者庁は、そういう事情を委員に十分説明することなく新たな基準を決定してしまったという。
「これまでのデータを見ると、分別管理をしていれば意図せざる遺伝子組み換え原料が混入する割合は、せいぜい1%程度。ですから混入許容割合を1%未満に設定すれば、きちんと分別管理しているメーカーはクリアできるし、消費者はこれまでどおり『遺伝子組換えでない』という表示を見て購入できる。一石二鳥なのですが……」
実際にEUでは、0.9%以下。日本と同様に多くの作物を輸入している台湾では3%以下が基準だ。
「現在の表示ルールにも抜け穴があり、加工食品の場合、遺伝子組み換え原材料を使用していても、醬油や食用油等は表示が免除。そのうえ含有量5%超で上位3位までしか記載義務がありません。今後はさらに選択しにくくなります」
■何十年もたたないと安全性は担保できない
遺伝子組み換え食品を食べることで、どんなリスクがあるのか。
「ひとつには、遺伝子組み換え農産物とセットで使用されている除草剤のグリホサートに発がん性があることです」
2015年に世界保健機関の専門機関である国際がん研究機関が、これを認めている。
「遺伝子組み換え食品や、DNAを操作したゲノム編集食品などの安全性については議論が続いていて、何十年も経過を見ていかなければ安全性が担保できません。ただ、遺伝子操作やゲノム編集をすることで、予期せぬ遺伝子の変異が生じ、これが異質なタンパク質を生み出して人によってはアレルギーを引き起こす可能性があると示唆する論文もあります」
問題は、表示ができなくなったり、わかりにくく変えられたりすることで、「消費者が選択の機会を奪われることだ」と大西さん。
“遺伝子組み換え大国”米国では、2012年に一部の州でようやく導入された「遺伝子組み換え(GMO)」表示がなくなってしまったという。
「世界でわずか数社のタネを独占している企業が、遺伝子組み換え作物のタネも販売しているのですが、そうした企業からの働きかけなのか、連邦政府は昨年1月、耳慣れた『GMO』ではなく、『バイオ工学(BE)』というわかりにくい表示を義務付けるように」
しかも、食品に貼られているQRコードを読み取るなどして情報にアクセスしなければ、どのような遺伝子組み換え食品が使われているかわからないという。
「スマホを持っていない貧困層や、操作できない高齢者などは知ることができないという“格差”が生じています。今回、日本で表示が変更されたのも、遺伝子組み換え作物のタネを製造している企業の影響を受けているかもしれません」
今後も「遺伝子組換えでない」食品を選びたい人は左上の表を参考にしてほしい。前出の原さんは、こうアドバイスする。
「『遺伝子組換え混入防止管理済』または『分別生産流通管理済み』の記載があるものを選びましょう」
これらが、現在の「遺伝子組換えでない」と、同様の生産管理体制がとられている食品になる。また国産品には遺伝子組み換えのものはないので国産のものを選ぶ、JAS(日本農林規格)によって「遺伝子組換え技術を使用しない」が認証の条件になっている有機農産物を選ぶなどの手段がある。
記載がない場合などはメーカーに問い合わせてみてもいい。前出の大西さんは語る。
「加工食品には、遺伝子組換え食品が原材料に使われていることが多いので、自分で素材を購入して調理するのが望ましいですね」
なお、大豆ととうもろこし以外の表示義務のある農作物については、現在も混入率の定めはなく、今後も混入が認められない場合のみ「遺伝子組換えでない」と表示されることになる。日々、口にするものだけに、わかりやすい表示にしてほしいものだ。