年齢を重ねて健康に過ごすには何に気を付ければいいのか。医師の和田秀樹先生は、こう話す。
「高齢者はやせてはいけません。やせることは、筋力の低下につながり、歩行に影響します。動かなくなると、体が衰え、要介護に進むこともある。それが原因で認知症につながる場合もあるのです。
やせることは、老化を早めること。むしろ危機感を持ったほうがいい。いかに体重を減らさず、『ちょっと太めを維持する』か、それが大事なのです」
こう聞くと驚く人もいるかもしれない。年をとると食べるのが面倒になったり、欠食しがちになる。それが、無意識のダイエットになっているケースがあるのだ。
「栄養をとっていないと体重が減ります。そこでやせたと喜んではいけません。健康にやせたのとは違い、このような状態による体重の減少は、体内の水分減少と筋肉減少ですから、体力が落ちて疲れやすくなり、肌にハリやツヤもなくなってしまいます」(和田先生、以下同)
動くと疲れがち、日常の動作がおっくう、何をするのも面倒……。
高齢になると、食べる量があまり減っていなくても除脂肪体重(体重から脂肪量を引いた重さ)の割合が減少していることがある。除脂肪体重の主要な成分は、骨格筋、結合組織、細胞内液、骨だ。
「除脂肪体重の割合が減少しているということは、つまり、筋肉量が減り、骨がスカスカになり、細胞内液が減って肌が老化するわけです。これに栄養障害や摂食障害、ダイエットなどが加わると、除脂肪体重はさらに大きく減少します。
そして、年をとると食べ物がうまくのみ込めない嚥下障害なども起こります。食べ物を食べる・のみ込むのにも筋力が必要なのです」
なるほど、筋肉量を増やす=筋肉やせにならない、ということがいかに重要か、が理解できる。
■65歳以上の人の15%が筋肉やせに該当するという
そこでぜひ紹介したいのが、「ふくらはぎ輪っかテスト」で「筋肉やせ度」をチェックすることだ。
「やせたほうが健康によい、と信じている人が多いですが、年をとってからやせるのは危険です。高齢者がやせる=筋力低下だからです。筋肉が減ると、歩いたり立ち上がったりする日常生活の動作が難しくなり転倒しやすくもなります。
輪っかテストは誰にでもできる方法だ。
その【診断】は、
(1)指先どうしがつかず、ふくらはぎを囲めない→「筋肉やせ」の可能性はほぼなし
(2)ちょうど囲める→「筋肉やせ」リスクは(1)の2.4倍高い
(3)隙間ができてしまう→「筋肉やせ」リスクは(1)の6.6倍高い
では、このリスクのある人たちはどう回避すればよいのだろうか。
「ちゃんとした食事と運動が不可欠ですね。筋肉のためには、タンパク質をしっかりとる必要があります。たとえば体重50kgの人は1日50gのタンパク質が必要。55kgなら55gですね」
タンパク質を多く含む食品としては、鶏肉(むね)100gで24.4g、豚肉(もも)100gで22.1g、牛肉(もも)100gで20.7gという具合なので、意外と多くの量が必要だ。なお、かまぼこは100gで18.0g、卵が100gで12.3gである。
「筋肉やせにならないためには、食事だけでなく運動も大事です。1日30分のウオーキングを日課にしてみてください。買い物に行くついででも、最寄りの駅から1駅歩くのでもいいでしょう。また、スクワットなどを試すのもいいですね」
1週間、寝たきり状態になると15%の筋力が低下、3~5週間では50%の筋力が落ちるといわれる。
「実は私は以前、どこへ行くのも車であまり歩かなかった。しかし、数年前に糖尿病と診断されたことで、歩くことを始めました。するとどの薬を使っても効かなかった血糖値が半分まで下がったのです。これには私自身が驚きました」
タンパク質をとり、未来を健やかな生活にしよう。