YouTubeや著書で人気のバレエダンサー。その彼が恋に落ち、結婚したのは、クリスさん、男性だ。

二人はどこにでもいる、新婚さん。フランスで正式に結婚したカップルだ。彼らは仲睦まじく、ごく自然にゆったりと、誰の目も気にせず、腕を組んで寄り添って歩くーー。(全3回の第3回)

竹田さんはバレエダンサー。「上品にボディメークができる」とSNSや動画サイトで話題の「床バレエ」の日本での第一人者だ。「美尻王子」の異名を持ち、10年ほど前から床バレエのエクササイズ本を何冊も出版。

今年4月に出版した『マネしたらやせた! 30秒だけ床バレエ』(講談社)も好評を博している。

いっぽうのクリスさんは、リトアニア出身。国内外で活躍する、建築やインテリアのデザイナーだ。

フランス在住の二人は今年3月、パリから南に列車で2時間ほどの距離にあるブロワ市で、結婚した。彼らが暮らすフランスでは、ちょうど10年前の’13年から、同性婚が正式に認められている。

葛藤を抱えながら大人になった二人は、幸いなことに、生涯をともに歩むパートナーと巡り合い、ありのままの自分でいられる場所を見つけることができた。

じつは竹田さんは、交際開始間もないころにクリスさんのプロポーズを受け、それを快諾していた。でも、当時暮らしていた日本では、同性婚は認められていない。

「結婚が目的でフランスに来たわけではないんです。でも、ビジョン(保護団体から引き取ったグレイハウンド)という“息子”ができて、やっぱり正式に結婚して家族になりたい、そう思うようになったんです」

先述のように、フランスは同性婚を認めている。二人は結婚に向け動き出す。書類を揃えるなど準備を進め、インターネットで縁起のいい日取りを調べた。

「今年の3月に、最強にパワフルな日があるとわかって。二人で『その日だ!』って。それで、今年の1月、ブロワ市庁舎に婚姻届などの申請書類の受け取り、結婚の宣誓を行う婚姻式の日取りの予約をしに行ったんです。そこで驚いたのが、窓口の人が私とクリスに向かって、すごく普通に『結婚ですか、はい、こちらにどうぞ』と言ってくれたこと。同性婚やLGBTなんて言葉は一切なかった」

式当日の3月21日。市庁舎の一室で、タキシード姿の二人は、立会人を務める市長の代理の女性に向かって結婚の宣誓をした。

すると、彼女は厳かな口調で二人にこう告げた。

「私たちは、どんな国の人であろうとも、また、どんな性別の人であろうとも、愛があれば結婚を受け入れます」

そのシーンを回想する二人。クリスさんは「すごい感動した」と大きな瞳をいっそう輝かせた。竹田さんも、穏やかな春の日の光景を思い浮かべていた。その目には、いまも光るものが浮かんでいるように見える。

「小さいころから、社会に溶け込めないと思っていたし、本当の自分をずっと出せずにいましたから。

その言葉は……、自分たちが、この社会に受け入れてもらえたんだと、本当に嬉しかった」

■世間の反響の大きさで自覚した「LGBTQ」で悩む人に伝えたいこと

クリスさんの両親はいま、結婚を祝福してくれているという。

「昔、ホモフォビアの気持ちが強かったお父さんだけど、いまは僕の幸せを喜んでくれるようになった。純くんとの結婚も『息子が一人増えた』と祝福してくれた。それは、僕もめちゃ嬉しかった」

いっぽう、竹田さんの実家の家族はというと……。

「私をいじめていた姉は、いまではいい理解者です。母はあまり自分の意見を言わない人ですが、私の話はちゃんと聞いてくれます。

でも父は相変わらずで……」

竹田さんはこう言って顔を曇らせたが、それでも、この国はゆっくりと、前に進んでいる。

『新婚さんいらっしゃい!』の彼らの出演回の放送に前後して、二人のことをさまざまなメディアが取り上げると、インターネット上にはたくさんの反響が上がった。

もちろん、そこには賛否両論ある。だが、その多くは同性婚を遂げた竹田さん、クリスさんを祝福するもの。また、当事者やその家族から「励まされた、勇気をもらった」といった主旨の次のようなコメントも少なくなかった。

《とっても素敵なカップルです、応援しています》
《息子が同性愛者で将来に不安を感じていたけれど、2人の姿に、こういう形があると安心しました》
《いろんなかたが生きやすい社会になるといいなぁ》

反響の大きさを、当の二人も喜んでいる。竹田さんは言う。

「多くのLGBTQの人たちに、こんなハッピーな形もあるんだよ、というのが届いたのなら、私たちも嬉しいです」

最後に竹田さんは、日本中のお父さん、お母さんにメッセージを発した。それは、どこか自分の父に向けての言葉のようでもあった。

「どうかお子さんには『男らしくしなさい、女らしくしなさい』ではなく『あなたらしくいなさい』と言ってください。法律を変えるのは簡単ではないけれど、家庭でできる気遣い一つで、子どもの生きづらさは半減するはずだから」