口が回りにくくなった、なんだか口が渇く……。口内の不調に、マスクを外して気づいた人も多い。
年齢とともに「むせる」「食べ物がうまく飲み込めず、食べこぼしが増えた」「滑舌が悪くなる」など、口腔機能の衰えが出てくる状態をオーラルフレイルと言う。
「オーラルフレイルは口のフレイル(虚弱)という意味の造語で病気ではありません。口に“ささいな衰え”が出た状態を言います。高齢者特有の状態だと思うでしょうが、じつは患者さんを診ていると40代後半から50代ぐらいから口と口の周りにささいな衰えが現れている人が増えています。それを放置しておくと、衰えが積み重なり全身のフレイルに進み、筋肉が衰えるサルコペニアや低栄養を引き起こして心身機能の低下につながると考えられています。健康寿命を延ばすためにも、早くオーラルフレイルのサインに気づき対策を講じることが大切です」
そう語るのは、幸町歯科口腔外科医院の宮本日出院長だ。
オーラルフレイルはシグナルがあるが、そのなかでいちばんわかりやすい兆候が「むせる」頻度が高くなることと「口の渇き」という。
「いちばん頻度が高いのは『むせる』回数が増えてくること。痰がからんで、食事のときに、何もしていなくても、など、さまざまな場面でむせるケースが増えてきますが、ここではお茶や汁物を飲んだときにむせることを指します。
また、『口の中が乾燥する』といったケースも衰えのサインの一つ。コロナ禍でマスク生活が続き、今もマスクが外せないという人も多いでしょう。マスク生活が続くと口呼吸になり、唾液で口の中が潤わず乾燥することが頻発。
このように“ささいな衰え”をほったらかしにしておくと、ドミノ倒しのようにさまざまな症状が体中に出てくる。
「たとえば、虫歯や歯周病を放置したことで、自然とやわらかい食べ物を食べるようになります。?むための口の周りの筋肉を使わなくなり、口の機能が衰えます。高齢になると1年間で7%程度の筋力が落ちるといわれています。舌の筋肉が衰えると口の周りの筋肉も衰え、嚥下機能にも影響が。また、やわらかい食べ物ばかり選んで偏った食事を取りがちになると、栄養バランスが崩れて、心身機能の低下にもつながると考えられています」(宮本院長)
オーラルフレイルの人はそうでない人と比べ、2年以内に身体的フレイルを発症する確率が2.4倍、4年以内に死亡するリスクが約2倍になるという。高齢者に多い誤嚥性肺炎も、オーラルフレイルに端を発することが多い。
■オーラルフレイルかチェックリストで診断を
今年4月、日本老年医学会、日本老年歯科医学会、日本サルコペニア・フレイル学会の3団体が会見を開き、自分がオーラルフレイルの状態かどうかを5項目でチェックできるリスト「Oral frailty 5-item Checklist(OF-5)」を公表。
5項目のうち2つ以上に当てはまるとオーラルフレイルの状態と判断できる。
「高齢者の約4割がオーラルフレイルに当てはまるという調査もあります。介護の現場や医療機関の待合室などで歯科医療従事者以外でも判断できるようにリストを簡便にしました。2つ以上当てはまったら放置しないで、歯科医にかかることをお勧めします」
そうアドバイスするのは、チェックリストの作成に携わった東京都健康長寿医療センター歯科口腔外科の平野浩彦部長。
「2018年には口腔機能低下症という疾病ができました。口腔内の環境や舌の力、咀嚼力、嚥下状態などをスコア化して判断するもの。『OF-5』チェックリストでオーラルフレイルと感じたら口腔機能低下症の検査を受けることが一般的になることを望んでいます。同時に、ふだんからできる口の体操で鍛えましょう」(平野部長)
■オーラルフレイルを防ぐ「ぶくぶく体操」と「パタカラ体操」
平野部長が患者に勧めているのは「ぶくぶく体操」。
(1)左頬に空気を入れてふくらませ、ぶくぶくと4回動かす。
(2)右頬、上唇、下唇も同様に4回動かす。
(3)最後に口全体に空気を入れてふくらませ、ぶくぶくと4回動かす。これを2回繰り返す。
唇や頬、呼吸の動きを高めるので、食べこぼしが改善され、口呼吸から鼻呼吸に改善されていくという。
宮本院長が勧める「パタカラ体操」は、誤嚥を防ぐための代表的な訓練。口・舌を鍛えて、食べる・飲み込む機能の向上を目指す。
「早口でパタカラ、パタカラと言うのではなく、一音ずつはっきりと発音するようにしましょう。
口の健康は全身の健康につながる。毎日行い健康をキープしよう。