7月4日、超高齢化時代を象徴する統計データが発表された。

警察庁によると、2023年に警察に届けがあった認知症の行方不明者は、前年比330人増の1万9千39人。

そのうち遺体で見つかったのは502人で、いずれも過去最多を更新。認知症の行方不明者は、この10年で1.8倍にも増加している。

東京都健康長寿医療センター研究所のデータでは、認知症による行方不明者の死亡原因で最も多いのが、「溺死」(39.3%)、次に「低体温症」(34.4%)、「事故」(14.8%)、「病気」(8.2%)……。

早期発見こそが、生死を分ける鍵となる。

一方、行方不明となり、無事に発見された数は、2023年より前に警察に届け出があった人を含めると、1万8千221人。

このうち自治体や民間の警備会社などが貸与するなどした全地球測位システム(GPS)機器を身に付けていたことで、発見された人数は、昨年7~12月だけで71人いた。

■名古屋から博多まで新幹線で移動していた例も

過去にGPSがきっかけで発見されたこんな事例がある。

「市役所に行くと言って、自宅からタクシーに乗った母親が、市役所がしまった時間になっても帰ってこない。

心配になった娘がGPSアプリで検索してみると、自宅のある奈良から遠く離れた、京都のホテルにいることがわかり、すぐに警察に連絡して、ホテルの前で無事保護された」(奈良県、要介護2の70代女性)

「朝7時半過ぎに、父親が自宅にいないことに気づいた息子が、GPSアプリを開いて検索したところ、自宅から20kmも離れた位置を指した。

急ぎ現場周辺に急行すると、河川敷を歩く父親の姿を発見。どうやって移動したのかは不明だったが、ケガなく保護できた」(熊本県、要介護1の80代男性)

「仕事先から父親の居場所をGPSアプリでチェックしたら、位置表示画面が新幹線沿線を高速で移動中だった。

驚いた息子はすぐにJR東海に保護を依頼。

結局、名古屋から博多まで新幹線で移動して、博多駅構内で警察に保護された」(愛知県、要介護2の70代男性)

認知症による徘徊を見守るサービス『iTSUMO』は、2016年のサービス開始以来、全国で延べ利用者件数が約2万件という、介護保険制度を利用したレンタルサービスを展開している。

「GPS端末だけでは、福祉用具の貸与として介護保険が適用されません。

そこで適用可能な品目のひとつ、認知症老人徘徊感知機器にオプションでGPS機器を付加することで、介護保険制度を利用することが可能となります」

こう話すのは、運営会社アーバンテックの辻和宏さん。

介護保険適用となると、1割負担の人であれば、月額2千円前後の利用料で済む。さらに、ケアプランに入ることにより、ケアマネジャーや福祉用具店からサポートが得られることも大きなメリットとなるのだ。

「老老介護で、介護する側が高齢者の方も多くいます。

スマホにGPSアプリをダウンロードして位置情報を検索するのですが、いざ使おうとしても操作の仕方がわからなくなることもあります。

そういう場合でも、事前にケアマネ、福祉用具店との間で、使用開始後の役割分担もしっかり決めたうえで貸し出しております」(辻さん)

一般的にGPS端末を身に付ける場所として、靴のかかと部分に端末を入れる専用シューズを使用することが多いが、『iTSUMO』の場合は、ふだん履き慣れている靴の甲の上に端末を入れるカバーを取り付けるスタイルを採用しているのが特徴だ。

■GPSを無料で貸し出してくれる自治体もある

全国の自治体でもGPS端末の貸し出しをしているところはある。

2015年からGPS端末を“無料”で貸し出している群馬県高崎市では、GPS端末を靴やカバン、衣服などに付けた高齢者が所在不明になったときに、介護者(家族など)が見守りセンターに連絡すれば、365日24時間の対応で捜索し、位置情報を介護者の携帯電話などに送信してくれる。

介護者が捜索・保護ができない場合でも、見守りセンター職員や警察が代行してくれるそうだ。

このようなサービスを行う自治体は全国にいくつもあるが、基本的に月額の利用料などがかかるケースが多い。

もし、自分の親が徘徊する可能性がある場合は、親が住む自治体に、どのような見守りサービスがあるかどうか、まずは問い合わせてみることだ。

GPSの活用以外にも、認知症などの行方不明者対策で注目されているのがQRコードだ。

高齢者の衣服やカバン、杖などに貼られたシールのQRコードをスマホで読み取ると、事前に登録している家族や関係者に、発見を知らせるメールが自動的に送られるというサービスである。

医薬品卸売業などを展開する、東邦ホールディングスが開発した「どこシル伝言板」だ。

すでにこのサービスは、千葉県千葉市、福井県福井市など、全国323市区町村(6月30日時点)で導入されており、今後、県内すべての自治体に導入を決めている県もあるという。

「QRコードを読み取った人の画面には、事前に登録されている身体的特徴や話しかける際の注意点などが表示される仕組みとなっており、発見者側の対応にも一役かっています。

そして発見者と家族が、専用の伝言板で、保護した場所や状況確認などを、匿名でやり取りができ、セキュリティも万全です」

こう語るのは、東邦ホールディングスグループ・東邦薬品 営業戦略本部の植田元気さん。

このシステムを導入している自治体は、登録申請をした家族に、アイロンで衣類などに貼り付ける耐洗ラベル20~40枚、ナイロン素材や杖などに貼る蓄光シール10枚の組み合わせを無料で配布している。

年々、認知症の行方不明者が増えていくなか、これらの対策は、積極的に利用すべき。同時に、介護とは無縁の人たちも、QRコードが付いたシールを貼った高齢者を見つけたら手助けをする。そういう周知啓発も必要だ!

※本文中の事例は、アーバンテックから提供

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