電動車いすや介護ベッドなどの福祉用具による事故が、2023年4月から2024年11月の間に、446件発生し、そのうち31件の死亡事故があったことが厚生労働省の委託調査(公益財団法人「テクノエイド協会」)で明らかになった。

「事故が多いのは電動車いすで、川や水路への転落。

踏切内で列車にはねられた方もいます。

また介護ベッドの誤操作も多い。

たとえばリモコンがお尻の下敷きになってスイッチが入ってしまい、いきなり足と首が持ち上がったり、首が挟まれたなどの事故もあります」

そう語るのは、福祉用具専門相談員(K-WORKER福祉用具貸与事業所部長)で介護福祉士の山上智史さん。

福祉用具の利用者は現在約380万人いるが、利用者の用具選びに2つのミスマッチがあり、それが事故につながっていると山上さんは指摘する。

「日々、体の状態は変化しますが、ずっと同じ車いすを使うなどで、利用者の体の状態と用具が合っていない場合があります。

もし、指の関節の筋力が低下したなど、体の状態が変わったら、用具も替える必要があるのですが、それが浸透していません。

もう一つは利用の目的と用具のミスマッチ。

福祉用具を使い“何をしたいか”が大切です。車いすで外出したい人の場合、積極的な移動が目的なのに、楽に長時間座れるような調整の車いすを使っていては、身体能力が低下することもあります」

■利用者だけでなく家族も実際に試してみること

福祉用具は、介護が必要になって初めて出合うもので、利用開始直後の事故も多いという。

「用具の説明を受けるときにメリットと共にデメリットも聞きましょう。

私の場合、『車いすのメリットは移動が楽なこと。デメリットは下肢の筋力低下になります』と伝えます。

そのうえで利用者本人が『もう少し歩行器を使ってみる』『それでも使いたい』と自分で考えて選ぶことで、安全に使おうという意識が芽生えます」(山上さん、以下同)

また用具を使い始める前には、利用者本人はもちろん、ケアする家族も実際に試してほしい。

「車いすで病院に行くのが目的ならば、段差、坂道など外出して現場までのルート確認を。介護者の家族も車いすに座って移動を確認してほしい。信号の段差でうまく歩道に上がれないなど、危険なところがあれば、迂回するなどの対策を講じましょう」

そして、使い方や注意点を大きく紙に書いて「見える化」し、注意点を目立つところに貼っておこう。

「車いすなら、《ブレーキのかけ忘れ注意!》など。

スイッチの誤操作の多い介護ベッドは、リモコンの定位置を決めたり、体が挟まれないよう専用カバーやクッションを置くなど、事故にならないような環境づくりも大切です」

利用者の体の変化と用具の定期チェックを忘れないようにしたい。

「ペットボトルの蓋が開けられなくなったなど、“自分でできないことが増えた”ときは、福祉用具の見直し時です。そして日ごろから1カ月、半年と点検しましょう」

介護が必要な人を補助する用具が思わぬ事故の原因にならないよう十分な注意が必要だ。

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