《つらい気持ちになったなら、ODするよりSDしよう。相談しよう》

明るい音楽とともに《ODするよりSDしよう》のキャッチコピーが繰り返され、悲しげな羊が、片手に薬の瓶、もう片方の手にスマートフォンを持ち、薬を捨ててスマホで相談するという30秒のアニメーション。

これは、社会問題となっている薬の乱用”オーバードーズ”に関する厚生労働省の広告。政府広報の公式Xが3月3日、このCMを投稿したのだが、波紋を呼んでいる。

冒頭に続いて、オーバードーズについて《医薬品を決められた量を超えて、たくさん飲んでしまうこと》と説明し、《オーバードーズは、心と体を傷つけてしまう危険な行為です》と啓蒙している同広告。また、《あなたに寄り添いたい そんな支援があります》と、「オーバードーズ 厚労省」で検索するよう呼びかけている。

若年層のオーバードーズは深刻な社会問題となっている。消防庁及び厚生労働省の調査によると、薬の過剰摂取が原因と疑われる救急搬送者は、’20年9595人、’21年1万16人、’22年1万682人と増加。’22年に救急搬送された人は20年と比べ、10代で1.5倍、20代で1.2倍になったという。

政府広報のXの他の投稿が数千~数万ほどしか閲覧されていないのに対し、3月5日時点で500万回以上閲覧されている同広告。厚労省が若者のオーバードーズ問題を深刻に捉えていることが伺えるが、Xでは韻を踏みキャッチーに仕上げた広告のトーンやコピーライティングに対し、批判的なコメントが多く上がっていた。

《メッセージが酷い。オーバードーズするまで追い詰められた人にとって、相談は容易ではないし、キャッチーにする意味がわからない》
《そんなにライトなモノじゃないと思う。親しみやすいイメージを持たせたかったのかもしれんけど》
《ODを知らない人が選択肢に入れちゃいそうだなあ、と電車で流れるこの映像を見ながら思った 1回だけならまだしも、このフレーズ繰り返しすぎ……(1回でもあかんけど)》

一方で、実際にODを行う若年層にはこれくらいキャッチーなフレーズでないと届かないのではないかとの擁護の声もあがっていた。

この広告はどのような意図で作られたものなのだろうか? 厚生労働省の担当者は、取材に対し広告の制作意図を以下のように説明した。

「若者のオーバードーズが社会問題化していますので、なるべくそういう当事者の方を相談支援に繋げたいという意図で作っています。厚労省のホームページで相談窓口を網羅したものがございますので、そこに繋げるような形で広告という形をとりました」

確かに、Xの画像をクリックすると、同省の「一般用医薬品の乱用(オーバードーズ)について」というページが開くようになっている。オーバードーズについての解説や複数の相談窓口の案内、小学生向けと、中高生向けにそれぞれ専門家監修のもと作成された”啓発資材”も掲載されていて、市販薬の乱用の実態や背景、相談窓口等についてより詳しく知ることができる。

リンク先は真面目なテイストだが、広告ではなぜ羊に韻を踏ませたのか? ちなみに羊は睡眠薬をイメージしたわけでは「全くない」という。

「ある程度キャッチーにしていろんな方に届くようにという意図はありますけれど、まず背景に、人間関係の悩みなどがあるということが言われていますので、もちろん販売規制などもやっていますけれども、厚労省としては、一方で相談支援に繋がるというところを意識してということになります」

ホームページの啓蒙資材は精神科医や薬剤師などの複数の専門家が監修しているが、広告にも専門家の監修はあったのだろうか。

「政府広報ですので、内閣府の取りまとめで、そちらでお金を出していただいて、広告会社に委託して作っています。中身のチェックはもちろん厚労省でもやっていますし、厚労省の中には医師免許を持っている職員もいますので、そういったものも含めてチェックをしています。

特に若い方にアプローチする必要があるので、あまり重くならずに軽めのトーンでということで、そう依頼したわけではないのですけども、いくつか候補がある中から選んだような形です」

さまざまな点から上がっている批判への見解については次のように回答した。

「今、批判があるというのを初めて伺ったのですが、炎上しているという事実をまだ確認できていないので何とも申し上げられないのですが、ある程度見ていただかないことにはどうしようもないので、関心を持ってみていただくという観点も必要だと思います」

確かに普段の政府広報では、見たことのないインプレッション数だ。その点において目的のひとつは達成できたと思うかとの問いには「そこまでは申し上げませんけど」とした上で、「厚労省のホームページで啓蒙商材等も作成していますので、啓蒙にご協力いただけるならそういう点も記事にしていただけると、世のためになるのかなと思います」と回答。最後まで、啓蒙するという強い意思を示した。

今回の厚労省の広告は、むしろ若者に届けることを意識した結果だったようだ。

編集部おすすめ