これまで乳房切除が中心だった乳がんに、切らずに済む治療の選択肢が生まれた。61歳の患者は「この治療を受けて本当によかった」と話す。

「入院は、わずか3日間でした。乳房に大きな傷や変形もなく、見た目はほとんど変わりません」

そう明かすのは、2024年4月に検診で早期乳がんが見つかり「切らない乳がん治療」と呼ばれる“ラジオ波焼灼療法”での治療を受けた中田千秋さん(仮名・61)。

女性が罹患するがんの中でもっとも多い乳がん。厚生労働省のデータ(『全国がん登録罹患数・率報告2020』)によれば、患者数は年間9万人にものぼり、9人に1人が生涯に一度はかかるとされている。

乳がんは、たとえ早期発見であっても、乳房を部分的に切除する場合が多い。乳房に傷や変形を伴うことから、術後のQOL等にも影響する点が問題視されてきた。

しかし、中田さんが受けたラジオ波焼灼療法は、「皮膚の表面からがん細胞に針を刺し、ラジオ波の熱でがん細胞を焼いて壊死させる」という方法。つまり、乳房を切らずにすむため「画期的な治療法」として注目されているのだ。

「ラジオ波焼灼療法は、以前から肝臓がんなどで標準治療となっていました。これが早期乳がんの治療でも採用され、2023年12月からは保険適用になったのです」

そう話すのは、国立がん研究センター中央病院・乳腺外科長の髙山伸医師。

前出の中田さんは、2年ぶりに受けた自治体の検診で、早期乳がんが見つかった。

「総合病院で針生検やMRIなどを受けた結果、一般的なタイプの浸潤性乳管がんでした。

腫瘍の大きさは直径9mm。腋窩リンパ節の転移はなく、ステージIと診断されました」(中田さん、以下同)

この時点で中田さんはラジオ波焼灼療法のことを知らず、病院からは部分切除を勧められたという。

「乳房の切除にもためらいがありましたが、気がかりだったのが、自宅で介護している母(94)のこと。外科手術を受けたら体力も落ちて、しばらく介護ができなくなるかもしれない。施設に預ける必要があるのでは、と心配したんです」

そんなとき、ラジオ波焼灼療法の存在をインターネットで知る。

「私の早期乳がんなら、もしかして、この方法で治療できるのでは……と思って。主治医に相談し、ラジオ波焼灼療法を行っている病院に紹介状を書いてもらいました」

■術後の痛みも少なく治療費は18万円ほど

こうして中田さんは、昨年、東京都内の基幹病院でラジオ波焼灼療法による治療を受けた。

「治療は全身麻酔で行われ、1時間ほどですべての処置が終わりました。麻酔が覚めたあとは照射した部分が少しヒリヒリした程度。特に行動の制限もなく、自由に院内を歩き回れましたし、体への大きな負担も感じなかったです」

とにかく母に心配をかけたくなかった中田さんは「出張に行ってくる」と伝えて入院。「ラジオ波焼灼療法のおかげで退院後すぐに介護ができた」と胸をなで下ろす。

そんな画期的な治療法なら「手術費用も高いのでは」と気になるが、中田さんの場合は、「3割負担で18万円ほどですんだ」という。

「今も乳輪のあたりに少しヒリヒリ感はありますが、少しずつ緩和されるだろうと主治医から聞いています」

乳房を切らずにすみ、体への負担も少ない。まるで夢のような治療に思えるが、デメリットはないのだろうか。

前出の髙山医師は、「メリットの多い治療法だが、厳格な適格基準があり、早期乳がんなら誰でも受けられるわけではない」としたうえで、こう続ける。

「腫瘍の大きさは直径1.5cm以下、腋窩リンパ節転移や遠隔転移がないこと。がんの種類も、一般的な浸潤性乳管がんと非浸潤性乳管がんにのみ適用されます」(髙山医師、以下同)

がん細胞の“焼き残し”が発生する可能性も否めないという。

「外科手術なら、切り取った組織全体を病理検査して、がん細胞が残っていないか確認できます。しかしラジオ波焼灼療法の場合はがん細胞自体を焼いてしまうので、術後の病理検査ができません。そのため、がん細胞の焼き残しが発生したり、がんの全体像がつかめず、術後の治療を決定する評価が不十分になったりすることもゼロではないのです」

副作用としては、照射した患部が硬くなったり、多少の痛みを感じたりすることもある、と続ける。

「あくまでも、標準治療は外科手術による部分切除です。ラジオ波焼灼療法は、適格基準に当てはまっていた場合、選択肢のひとつとして検討するのがよいでしょう」

ラジオ波焼灼療法を選択した場合であっても、「術後に行う治療は大きく変わらない」と髙山医師。

「治療後、残った乳房に放射線治療を行います。必要な方は抗がん剤治療やホルモン療法も行います。

また、焼き残しの有無を確認するために、ラジオ波焼灼療法の場合のみ、放射線治療が終了して3カ月後に再度、針生検を行います」

万が一焼き残しがあった場合は、外科手術でがん細胞を切除する。

早期乳がん患者の割合は年々増加し、2020年には57.5%に。定期健診を受け、早期発見できれば、治療の選択肢が広がるといえるだろう。

とはいえ、治療法は主治医と相談しながら、デメリットも考慮したうえ選択することが望ましい。気になる人は、日本乳癌学会のウェブサイトで対象の医療機関を確認しよう。

「私はこの治療を受けられてよかったです。多くの女性に知ってもらいたいです」(前出・中田さん)

ラジオ波焼灼療法は、中田さんのような多くの女性にとって、希望の選択肢となるかもしれない。

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