「老後に不安を抱く人は少なくありませんが、不安の主要因はお金で、老後資金の大きな柱となるのが年金です。みなさんがどのような年金生活を送っているのか、実態は誰もが知りたいところですし、私自身、夫婦で勉強したいという思いがあって、街ゆく人々に『あなたの年金はおいくらですか?』とインタビューを始めたんです」
こう語るのは、登録者数12万人を超えるYouTubeチャンネル「梅子の年金トーク!」を運営し、先日には『聞くのがこわい年金の話』(興陽館)を出版した梅子さん(45)だ。
政府は5年に一度“年金の健康診断”ともいわれる「財政検証」で、モデル世帯の年金の推移を予想している。だが、そのモデル世帯は“40年間、未納なく年金に加入し続けた、平均賃金で働く会社員の夫と専業主婦の妻”と、かなり恵まれた人たち。多くの人がモデル世帯よりも少ない年金でやりくりしているのが実情だ。そこに物価高騰が追い打ちをかける。
そこで「ボツを含めれば500人以上の年金生活者にインタビュー」してきた梅子さんに“年金生活のリアル”を聞いてみると――。
【ケース1】夫・14万円、妻・5万円受給の70代夫婦
「公園で仲よく散歩をしているご夫婦を見て、お声掛けしました」
この夫婦は若いときには貧しく、缶詰3個で1週間を過ごし、真面目に働きながら子供たちを育てたという。そんな苦労の末に得たのは、2人合わせて月19万円ほどの年金生活。
「持ち家のため家賃はかからないとはいえ、今も子供とは同居しており、食費をもらっていました。それでもお金が足りず、貯金を取り崩しているそうです」
’22年に生命保険文化センターが行った調査によると、夫婦2人の老後の最低生活費は平均月23万2千円。月19万円の年金受給額はこの数字を下回っている。
「節約しないとやっていけない生活で、趣味にもお金をかけていないと話していました。週に3~4日、近所をウオーキングしたり、友人と体育館で体操をするなどにとどめているそうです」
【ケース2】夫、妻とも12万円受給の70代夫婦
「ご主人にお話を伺いました。
夫婦合わせて約24万円と平均以上の年金を受給しているが、医療費、介護費などもかかるため、生活は赤字続きだという。
「持ち家を売却し、同じ物件に賃貸で住み続けることができるリースバックを利用されていました。物件を売却した際にまとまったお金は入りましたが『思ったほどの値段では買ってもらえなかった……』とこぼしていました」
デイサービスやショートステイを使って妻のケアをしてきたが、1人での介護も徐々に厳しくなってきた。
「警備員の仕事の面接を受けているところで、もし仕事が決まれば妻を施設に預け、新たな生活を始めるとのことでした」
【ケース3】夫・生活保護、妻(66歳)・6万円受給
「働くことが好きで、今でも新聞配達をしているという女性。給料は月5万?6万円で、年金と合わせると12万円ほどで生活しているそうです。少し前に腰を痛めてしまい新聞配達の仕事は休んでいますが、代わりにポスティングの仕事をしていました」
体調が悪くても、生活のために働かざるをえないケースは多い。
「ご主人は認知症で施設暮らしをしているため、世帯分離をして、現在は生活保護を受けているとのことでした」
【ケース4】夫と死別した女性(79歳)・遺族年金10万円受給
「9年前にご主人が亡くなったという女性は、『生前の夫から(夫の年金の)6割くらいが受け取れる』と聞いていたけど、実際には4割ほど。想定していた金額よりも少なかったと話していました」
夫が死亡した専業主婦の場合、妻は自分の基礎年金に加え、夫の厚生年金の報酬比例部分の4分の3が遺族年金として支給される。年金は月10万円ほどで、生活保護費より少ないという。生活保護受給者は医療費が無料だからと、血圧120を超えたくらいで受診する知人がいることに憤っていた。
「ご自身も生活保護を受けることを一度は考えたそうですが、子供たちから止められ、申請を諦めたそうです。住居は賃貸で家賃があるため、ギリギリの生活。
【ケース5】夫と死別した女性(83歳)・遺族年金20万円受給
「死別したご主人が国家公務員だったこともあり、夫の遺族年金を含め、1人で月20万円の年金を受け取っていました。グラウンドゴルフやマージャンなど趣味も豊富で、積極的にチャレンジするタイプの方で、私自身もモチベーションが上がるインタビューでした」
金銭的にはゆとりがあるものの、「無駄なものは買わない、古い洋服も着回す。新しいものに飛びつくと、お金がいくらあっても足りない」と、堅実な生活ぶりが印象的だったそうだ。
「インタビューを通して感じたのは、スーパーで半額シールが貼られた商品を頻繁に購入したり、おかずの品数を減らすなどして、節約に励む人が多かったこと。ガス代節約のため、お風呂の湯量を少なくし、寝転びながら入浴する人もいました」
【ケース6】離婚女性(81歳)・3万5千円受給
「若いころ、酒癖が悪く、博打うちで、借金を作る夫から3人の子供を連れて夜逃げした過去のある独身女性がいらっしゃいました」
養育費は受け取らず、昼は工務店、夜は飲食店の仕事と必死で働き、3人の子供を大学まで卒業させた。
「頑張った親の背中を見た子供たちが金銭面で援助してくれるそうです。年金は少なくても、家族関係が良好であれば何とかやっていける、という好例でした」
離別、死別、独身など単身の高齢女性は貧困リスクが高い。昨年発表された「財政検証」によると、現在50歳の男性が将来もらえる年金額は平均14.1万円であるいっぽう、女性はわずか9.8万円だ。
梅子さんが最後に語る。
「多くの方がおっしゃっていたのは、年金生活で家賃の支払いは厳しいので、持ち家が安心であるということ。また厚生年金に加入して長く働いていればよかった、貯金をしておけばよかった、という後悔も。少ない年金でも豊かに暮らすためには、お金のかからない趣味を持つことも大事だと感じました」
人生の先輩たちのリアルな声を参考に、今からできる準備をしておく必要がありそうだ。