《(当方)公益通報者保護法改正案は、本日、参議院で審議入りした。今後の国会審議で問われる可能性もあるため、貴県知事の一般的な法解釈の認識が、
・2号通報又は3号通報を行った公益通報者も、保護要件を満たせば、解雇等の不利益な取扱いから保護されること、
・事業者がとるべき措置の内容を定めた法定指針では、「公益通報者を保護する体制の整備」を求めているが、ここでいう「公益通報者」には、2号通報又は3号通報をした者も含むこと、
という消費者庁の法及び法定指針の解釈と齟齬がないことを確認したい。
(先方)消費者庁の法解釈について、知事も理解しており、齟齬はない。
(当方)了。》
消費者庁の公文書には、このような記述が。これは「行政機関の保有する情報の公開に関する法律」に基づいて、女性自身が開示請求した消費者庁の公文書に記載されていた文言だ。
表題は「応接録」。日時は「令和7年5月14日(水)13:10~13:15(電話)」で、電話したのは消費者庁の参事官室の職員、電話を受けたのは兵庫県の県政改革課長となっている。文書の日付は「令和7年5月14日」となっており、電話の当日に作成されたものだとみられる。
■独自の法解釈を示した斎藤元彦知事
「体制整備義務につきましても、法定指針の対象について、3号通報も含まれるという考え方がある一方で、これは内部通報に限定されるという考え方もあります」
兵庫県が設置した第三者委員会で、告発者を探索した県の対応は公益通報者保護法違反と認定されたことを受けて、3月26日の会見で斎藤元彦知事がこのように述べた。
元県民局長の告発文書が公益通報者保護法における3号通報(外部通報先への公益通報)と判断されたことから、斎藤知事は、通報者の探索を禁じる法定指針が3号通報に及ばないという法解釈を示すことで、自身の違法性を否定しようとしたとみられている。しかし、斎藤知事が示したこの法解釈が問題視されている。
4月8日に、消費者庁は兵庫県の県政改革課にあてて「公益通報者保護法に関するご連絡につきまして」とメール送付。斎藤知事の見解を否定したうえで、「適切な対応」をとるように求めた。
さらに、4月17日、立憲民主党の川内博史衆議院議員の質問を受けて、消費者庁の審議官は「(公益通報者保護法の)法定指針におきましては3号通報に関する体制整備義務について規定している部分がある」と斎藤知事が紹介した“考え方”を否定。伊東良孝消費者担当大臣は「(県議会と第三者委員会の結論について)一定の納得をしなければならん」と答弁した。
しかし、斎藤知事は「消費者庁から一般的な法解釈としての指摘がされたことは大変重く受け止める」などと言うのみで、3月26日の会見で示した見解を撤回も修正もしなかった。
今回、開示された文書は、知事の「重く受け止める」発言をうけて、消費者庁が「公益通報者保護法及び法定指針の解釈に対し、兵庫県知事の認識に齟齬がないこと」を確認するために行った、5月14日の電話を記録した文書となる。
■真っ向から対立する兵庫県と消費者庁の見解
5月16日、電話での県の返答をうけて、伊東大臣は閣議後の会見で「兵庫県から、知事の解釈について返答があり、消費者庁の法解釈と齟齬がないことを確認」したと述べた。
しかし、同日の朝日新聞は<県の県政改革課によると、14日に消費者庁の担当者から電話があり、「消費者庁の法解釈を知事は理解している」との趣旨を伝えた。だが、知事の解釈が消費者庁の解釈と一致しているかどうかは伝えていないという>(2025年5月16日「朝日新聞」WEB版より)と報じたように、県側は「齟齬がない」と発言したことを否定するなど、情報が錯綜した。
5月22日には消費者庁は斎藤知事の見解を否定する「行政機関における公益通報者保護法に係る対応の徹底について」を全国の自治体に送付。斎藤知事の法解釈の問題について、まだ解決する兆しはない。
少なくとも、電話の当日に作成された公文書には「消費者庁の法解釈について、知事も理解しており、齟齬はない」と記載されている。
はたして、消費者庁と知事の法解釈が一致しているのか、斎藤元彦知事自身が見解を示すしか道はないように思うが……。6月25日の定例会見で、「消費者庁の見解と知事の見解は同じなのでしょうか、違うのでしょうか?」と問われた斎藤知事はこう答弁した。
「公益通報者保護制度について、ご指摘いただいた消費者庁の通知などというものは重く受け止めてるというところです」
消費者庁の法解釈と齟齬があるのか、齟齬はないのか、斎藤知事が明言しない限り、この問題は解決しそうにない。