参議院議員選挙が7月20日に迫ってきました。今回、私が注目するのは「生活の底上げ」です。
というのも、5月の消費者物価指数は変動の大きい生鮮食品を除く総合指数が、前年同月比で3.7%の上昇。6カ月連続で前年同月比が3%を超え、その伸び率は3カ月連続で拡大しています。こうした物価高にあえぐ毎日を、政治がどう変えていこうとするのか、各党の公約を見ていきましょう。
まず物価高対策として、野党は「消費税の減税」を打ち出しています。なかでも積極的なのは国民民主党や日本維新の会、共産党、れいわ新選組、社民党など。食品にかかる消費税に限定する政党が多いなか、国民民主党は「すべての消費税を一律5%」と掲げ、共産党は消費税廃止を目指しながら当面は「一律5%」に、れいわ新選組や社民党などは「消費税廃止」を公約に掲げています。
いっぽう、立憲民主党は「原則1年間、最長で2年間、食品にかかる消費税をゼロ」と打ち出してはいますが、党内は分裂状態。消費税ゼロを主張するグループと、消費税引き下げに消極的な野田代表をはじめとする党幹部とに分かれています。消費税減税にどこまで真剣かは疑問の残るところです。
党内が分裂状態なのは、自由民主党(以下、自民党)も同じです。高市早苗氏など旧安倍派を中心に消費税引き下げを主張する人もいますが、石破茂首相や森山裕幹事長など現在の自民党幹部は消費税引き下げには反対です。
仮に今回の参院選で自民党が惨敗し、参議院でも多数となった野党が協力体制を築けたら、消費税の時限的引き下げは可能かもしれません。
とすると、たとえ消費税の引き下げが実現できたとしても、実施までに「給付金」は必要です。今回の選挙の争点は「減税か給付か」とする論評もありますが、生活者としては、取り急ぎの給付で直近をしのぎ、1年後に消費税が減税される形が望ましいでしょう。
また、自民党は「1人2万円、低所得者と子どもは1人4万円の給付」を大々的に打ち出しています。直前まで給付を否定していた石破首相も、選挙に勝つため公約の目玉として“バラマキ政策”を急きょ盛り込んだのでしょう。
2万円給付の財源は、税収の上振れ分をあてるといいます。日本の税収は6年連続で過去最高を更新中ですから、当初予算を上回る税収入が余っているというのです。
ただこれは、昨年国民民主党が基礎控除の引き上げを主張した際の財源と同じ。当時、自民党は「不確かな財源だ」と一刀両断したのを忘れたのでしょうか。
しかし、これほど長く物価高騰が続くなか、1人2万円では“焼け石に水”です。「夫婦と子ども2人の家族だと12万円」と自民党は胸を張りますが、スーパーで買い物をしていると「値上げ分は月1万円できかない。それが1年以上続いている」印象を持つ人が多いと思います。
野党では、立憲民主党が「食卓おうえん給付金」として1人2万円の給付を掲げています。政策パンフレットによると、2万円は食料品にかかる消費税の半年分とか。食品の消費税をゼロにするまでのつなぎ的な意味合いなのでしょう。
■賃金が上がっても困窮は続く。これを公約と呼ぶのだろうか
そして、もうひとつの焦点はガソリンの高騰対策です。立憲民主党や国民民主党など野党は、「暫定税率の廃止」を求めてきました。
そもそもガソリンには1リットルあたり28.7円のガソリン税がかかっています。ですが、1974年に道路整備の財源不足などを理由に、一時的な施策として1リットル25.1円の暫定税率を付加。そこに消費税までかかる二重課税で、“暫定”の施策を50年以上も続けていること自体が大問題です。
先の国会では、野党7党が「ガソリン税の暫定税率廃止法案」を共同提出。野党が多数を占める衆議院は通過したものの、参議院は与党の反対で廃案になりました。
ですが、今回の選挙で自民党が敗れ、参議院でも野党多数となれば、ガソリンの暫定税率撤廃法案が成立する可能性は高いでしょう。ホルムズ海峡封鎖の脅威は去りましたが、さらなるガソリンの高騰も心配です。自民党の進める1リットル10円安くなる補助金より、25.1円引きとなる暫定税率の撤廃を急いでほしいと思います。
このほか各党の公約を見ていると、根拠の乏しい抽象論の多さに辟易します。特に自民党です。
石破首相は、自民党の公約の柱は15年後の「2040年までに国民の平均所得を5割以上増やす」だと言っていました。ですが、道筋が見えない絵空事だと批判が集中し、これを前面に押し出すのはまずいと思ったのでしょう。
5年後の「2030年度に賃金を100万円増やす」を公約の柱に変えたようです。ただ、これは簡単なことなのです。
今春の春闘では、賃上げ率5%台を2年連続で実現しました。今後も5%アップが続くと、現在の年収が400万円の場合、1年後の2026年には420万円、2027年には441万円、5年後の2030年には510万円。5年で110万円賃金が増えることになります。
賃金アップは企業努力もありますが、大きな要因は物価上昇です。この物価上昇をそのままにしておくことで、賃金アップがかないます。つまり、自民党は物価高騰対策などする気はないと宣言したようなものなのです。
自民党は、1人2万円の給付金が物価高騰対策ではないかと反論するでしょうが、給付金は選挙対策にほかなりません。国民の生活に寄り添った政策とはいえないでしょう。
■徹底的に具体的な公約が結果につながる。すると参院選は……
それに、賃金が5年間で100万円増えたとしても、家計を救ってくれるとは限りません。現状は賃金アップを上回る物価上昇で家計は火の車。こうした状況が5年間続く可能性は否定できません。賃金が上がっても困窮が続く、そんな5年後になるかもしれないのに、これを公約と呼ぶのでしょうか。
6月22日の東京都議会議員選挙で勝利した都民ファーストの会は「介護職の時給を1千500円以上にする」など徹底的に具体的な公約を掲げていました。その結果が得票数に表れました。
そう考えると、具体性のある公約が多いのは、早くからガソリンの暫定税率廃止を訴え、一貫して基礎控除の178万円への引き上げを求める国民民主党ではないかと思います。山尾志桜里さんの公認取り消しなどドタバタ劇がありましたが、ひょっとすると今回も国民民主党が躍進するかもしれません。
片や、自民党の公約は「原則1人2万円給付」以外に具体性はなく、訴求できる実績は「米価の引き下げ」だけでしょう。6月9日の週のスーパーでの米の販売価格は3千920円(農林水産省)。石破首相の目指した3千円台を達成しましたが、「それでもまだ高いし、米だけでは生活できない」と国民は満足していないと思います。
自民党は今回も厳しい戦いになるでしょう。惨敗する可能性が大きいのではないかと思います。
今回の選挙は7月20日、三連休の中日に行われます。こうした日程は組織票の多い与党に有利だといわれますが、2017年の衆議院議員選挙から、全有権者の約20%が期日前投票を行っています。期日前投票も活用して、どんな日程であろうと自分の1票をムダにしないよう投票に行きましょう。