「『まんが道』は、もともと放映予定だった作品がボツになり、急ごしらえすることになったドラマなんです」
こう語るのは、長江健次さん(61)。当時は「若くて、トンガっていた」と振り返る。
「そもそも、もう一人の主役の竹本(孝之)が、主題歌を歌うことに納得いかない。長渕剛さんが手がけた『HOLD YOUR LAST CHANCE』という曲なんですけど、ボクは長渕さんに曲を書いてもらったことがあるのに、なんでやねん! って(笑)。今から考えたら小っ恥ずかしい話ですけど、当時は肩肘張っていたんですね」
原作では、竹本演じる満賀道雄がメガネをかけているのだが、ドラマでは長江さん演じる才野茂がメガネをかけることに。
「それも“たぶん、竹本がメガネをかけるのを嫌がったからだ”と。竹本もこだわりのある役者だから、お互い演出に関して譲らず、ぶつかることもありました」
セリフも出番も竹本のほうが多かったことも気に入らない。
「演出家とは毎晩のように飲みにいって、『長江くん、爆発する演技は誰でもできる。抑える演技が大事なんだ』と諭されました。あるとき、演出家とベロベロになるまで酒を飲んで、自宅に泊めたことがあったのですが、翌日、2人とも寝坊をして……。でも『長江くん、大丈夫だよ。主役と演出家がいなければ撮影は始まらないから』と言ってくれて。ボクは怒られることはなかったですが、演出家がかばってくれたのかもしれませんね」
ドラマは好評で、翌年には2作目『青春編』の放映が決まり、セリフも格段に増えた。
「今度は制作期間に余裕があったのでしょう、キャストもひねりがあって、石森章太郎さん役には、息子の小野寺丈さんが。
鈴木保奈美、森高千里など、若手も多かった。
「とはいえ、2作目も和気あいあいという雰囲気ではありません。仲のよい明るい現場もいいのですが、心に秘めたライバル心がぶつかる、バチバチの現場で生み出されるパワーもあるんですね」
だからこそ、原作モデルとなった藤子不二雄の安孫子素雄さん、藤本弘さんから「2人に主役をやってもらってよかった」と喜んでもらえたという。
「今では、お互い年をとり丸くなって、竹本のライブを見にいったり、ボクのラジオ番組にゲストに来てもらったりする仲になっています」
『銀河テレビ小説 まんが道』(NHK、1986年)
『ドラえもん』などで知られる漫画家・藤子不二雄の自伝的漫画が原作。“トキワ荘”を舞台に手塚治虫をはじめ多くの漫画家が実名で登場し、漫画黎明期の夢と情熱をリアルに感じられる名作。主人公のイメージが原作と逆になっているのはなぜ?
【PROFILE】
ながえ・けんじ
1964年生まれ、大阪府出身。『欽ドン!』のフツオ役で人気を博し、多くのバラエティ番組、ドラマで活躍。8月6日、町田市のまほろ座MACHIDAにて、C&Aナンバーを全力で歌う、トリビュートライブを開催。