あらゆるものの値段が上がっている昨今、老後は年金だけでは生活できないというのが常識だ。そこで、お金の専門家に、ゆとりのある老後生活を送る方法を聞いた。

2025年6月に「年金制度改正法」が成立した。年金を受給しながら働く際の「在職老齢年金」の基準が引き上げられ、パートなど短時間労働者が社会保険に加入する「年収の壁」も撤廃される。私的年金であるiDeCoには70歳まで加入可能と門戸を広げ、老後の選択肢は確実に広がっている。

「ゆとりある老後は、多くの選択肢から自分に合った方法を見つけ、早めの計画立案が大切です」

そう話すのは『お金も人生も薔薇色!老後計画』(主婦と生活社)の著者で、ファイナンシャルプランナーの山口京子さんだ。

老後資金というと、2019年の「老後2000万円問題」を思い浮かべる人が多いだろう。当時の家計調査で無職の高齢夫婦世帯の支出と収入を比べたところ、月5万5000円の赤字が判明。65歳からの30年間で赤字が2000万円に膨れ上がると、単純に積算したものだった。

「コロナ禍を経て家計調査のデータも変わりました。また、2000万円などと総額の目標より、老後資金は月額で考えるほうがわかりやすいと思います」(山口さん、以下同)

加えて、高齢になるほど食事量も活動量も減るため、支出は減っていく。それらを加味し、家計調査の最新データから、年代別の生活費を試算した。

家計調査の実支出と収入が同じなら、すべて使い切るギリギリ生活になるだろう。ゆとり生活には月5万円の、豊かな生活には月10万円の上乗せが必要と考える。

「70歳までのゆとり生活は月40万円が目安です。70歳を超えても月40万円をキープできれば、ワンランク上の豊かな生活が実現できるでしょう」

山口さん指南のもと、「ゆとり生活」を目指して、3つの事例で考えてみた。

■50代からの投資で70歳で完全リタイアを目指す

夫婦ともに50歳、会社員の夫を持つAさんは、夫の扶養内でパート勤めをしてきた。夫の退職金は1500万円で、65歳で受け取る予定だ。夫は常々“退職金の平均は1878万円(2023年、中央労働委員会)なのに……”と不平を漏らしている。Aさん夫婦の子供は独立し、住宅ローンも完済。これから老後資金作りに邁進するつもりだ。

「住宅ローン完済で浮いた月10万円をNISAで運用しましょう」

Aさん夫妻は全世界株式型の投資信託で、月10万円を50歳から15年間積み立て投資を行った。利回りが5%で、積立原資の1800万円は約2659万円に達した。

「利回り5%というと高いように思いますが、世界株式型の投資信託を運用した場合の平均的な利回りは7%。十分期待できる値です」

夫が定年退職した65歳からは、この約2659万円を90歳までの25年間で取り崩す。5%で運用しながらだと月約15万円受け取ることが可能だ。

Aさん夫婦の年金額は、厚生年金のモデル夫婦と同額の月23万2784円。合わせて月約38万円を確保できた。

「70歳までは少し働きましょう。夫婦で月2万円稼げば、月収は40万円。ゆとりある老後の達成です」

実は、退職金の1500万円は手つかず。定期預金などの安全資産で確保すれば、介護や医療などの急な出費にも対応できる。さらに退職金を65~90歳の25年間で均等に崩せば、月5万円まで上乗せが可能。実支出+10万円の「豊かな生活」も実現できる。

■65歳で貯蓄ゼロでも、75歳まで働くことで余裕のある生活を

Bさんの夫は会社員、自分はパート勤めで、夫の退職金が1500万円というところまではAさんと同じだ。だが残念ながら、晩婚だったBさんは住宅ローンや教育費に追われ、65歳時点で貯蓄はゼロ。頼れるのは退職金だけだ。

「退職金をすべて投資に回すのはリスクが大きいので、一部は定期預金に置いておきましょう」

退職金はNISA口座での運用を考えるが、NISAは年間投資額の上限が360万円と決まっている。

そこで、月30万円ずつ3年間に分けてNISAで積み立て投資。

「退職金はBさんの“虎の子”ですから、できるだけ長く運用を続け、Bさん夫婦は働きましょう」

Bさん夫婦も年金は、Aさん同様2人で約23万円。65~69歳は夫婦で17万円稼ぐと月40万円に到達。70~74歳は夫婦で12万円稼ぐと合わせて月35万円となり、ゆとり生活が満喫できるだろう。

「75歳まで5%運用を続けると、運用資産は1639万円になります。これを90歳までの15年間で取り崩すと月約12万8000円。年金と合わせるとゆとり生活が続けられます」

65歳貯蓄ゼロでも75歳までがんばって働けば、ゆとりある老後が実現可能なのだ。

■自営業夫婦は生涯現役を目標に年金繰り下げを活用する

夫婦とも自営業で、2人分の月収は平均して40万円。「働くことが生きがい」というCさん夫婦は40万円の収入を長く維持しよう。

年金は、2人とも未納はなく国民年金の満額、1人月6万9308円を受け取る予定だったが、「まだ働けるうちは、年金を繰り下げましょう」という提案に従い、最長の10年間繰り下げて84%アップ。月約12万8000円、2人で約25万円もらえることになった。

ただ働けるうちは働いた収入で暮らすをモットーに、75歳以降に受けた年金は定期預金に貯蓄。

80歳になってリタイアするまでに年金貯蓄は約1500万円に達した。80歳以降は、繰り下げた年金月約25万と、貯蓄の中から5万~6万円上乗せすれば、ゆとり生活を堪能できる。

人生の終盤に、常にお金を気にしながら困窮生活を送りたくはない。自分なりの老後資金計画を立てて、コツコツ進めば豊かな老後が待っている。

編集部おすすめ