「“川浜一のワル”の大木大助を演じた『スクール☆ウォーズ』(TBS系)が、ボクの出世作。その礎となったのが『不良少女とよばれて』の西村朝男なんです」

こう振り返るのは、松村雄基さん(61)だ。

不良役のイメージが強いが、プライベートでは真逆の性格だという。

「生徒会長をやっていたし、どちらかといえばケンカをいさめるほう。オートバイにもまたがったことがありませんでした。だから暴走族『東京流星会』のリーダー・朝男を演じるとき、どうやったらそれっぽくなれるのか悩みました。すごみのあるしゃがれた声を出そうと、もんたよしのりさんの声を潰したエピソードを参考に、わざと喉をからしました」

髪形も、スタッフなどに相談してパーマをかけて、リーゼントにするなど工夫してみた。

「ところが最初のカメラテストのときに、大映テレビの名プロデューサーである春日千春さんがいらっしゃって『彼はオールバックがイメージに合う』と。その鶴の一声でメークさんが駆け込んできました。『せっかくパーマをかけたのに、無理、無理』と言ったのに、ディップローションで強引にオールバックにして、上から下まで、真っ白なスーツ姿(笑)。暴走族というより、ヤクザですよね」

こうした現実離れしたキャラクター設定や展開、印象的なセリフ回しが大映テレビの魅力だった。

「伊藤かずえさんをバイクで追っかけるシーンがあったんです。海の中にジャブジャブと入ったかずえさんから『あなた、何者よ』と聞かれたとき、『俺は海鳴りだ』といって帰っちゃうんですよね。『砂をかむような毎日だぜ』といった、日常会話では使わないような独特の言い回しも多用されていました。

普通ならどういう気持ちで演じたらいいのか難しいのでしょうが、制作現場にどっぷりつかって“大映トリップ”という状態になると、何も不思議ではなく、自然と演じられるようになるんです」

まるで、現実と劇画の間にいたような感覚だったという。

「ずいぶんあとになって、大原清秀さんという大映テレビの脚本家の妹さんとお会いしたとき、『兄が、松村雄基という若いけどいい役者がいる。彼を生かすセリフを書きたいとうなりながら徹夜で机に向かっていた』と伺いました。

スタッフの方々、応援してくださる視聴者のみなさんに支えられて、朝男という役が輝いたのだと思います」

『不良少女とよばれて』(TBS系、1984年)

舞楽者である原笙子さんの自伝的小説をドラマ化。不良のレッテルを貼られた曽我笙子(いとうまい子)が、楽師の久樹哲也(国広富之)や西村朝男(松村雄基)との交流を通して成長する青春ドラマ。「この物語は?」から始まるオープニングナレーションが印象的。

【PROFILE】

まつむら・ゆうき

963年生まれ、東京都出身。高校在学中にテレビドラマデビューすると、80年代は大映ドラマの常連俳優として大活躍した。剣舞家であり、書家でもある。

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