「8月22日、厚生労働省は、8月11~17日までの1週間に報告された新型コロナウイルスの1医療機関あたり患者数が6.30人であったと発表しました。これで9週連続で増加傾向が続いていることに。
7月中旬時点ですでに患者数の40%を占めていて、現在主流となっているのが、オミクロン株から派生した新たな変異種『ニンバス』です。“カミソリの刃をのみ込んだよう”と表現されるほど、一部の患者は強烈な喉の痛みを訴えています」(医療ジャーナリスト)
お盆が明けて、通勤ラッシュも再開。さらなるニンバスの感染拡大が懸念されるなか、7月30日、科学誌『ネイチャー』で気になる論文が発表された。
米国コロラド大学アンシュッツ・メディカルキャンパスの研究者らは、新型コロナウイルスのパンデミックの始まりから2年間でがん死亡率が上昇したことに着目。その要因は新型コロナによる治療の遅れだけでは説明できず、重要な仮説が浮上するというのだ。立川パークスクリニック院長の久住英二さんが語る。
「その仮説とは、新型コロナやインフルエンザなど呼吸器疾患に感染することで、がんの再発が起こりやすくなる、というものです。
がんサバイバーは治療の結果、寛解という状況になったとしても、体内のがん細胞がゼロであるとは限りません。じつはがん細胞というのは常にアクティブに活動するわけではなく、休眠状態で潜んでいると考えられているのです」
研究では、女性でもっとも多い乳がんの細胞をもつマウスを使用。新型コロナウイルスやインフルエンザに感染させたところ、休眠状態にあったがん細胞が感染後数日で増殖。研究者の一人はメディアの取材に「がん細胞は、コロナの感染終了とともに再び休眠したが、その時点でがん細胞は100倍になった」旨を語っている。
「休眠がんが活発になったのには、インターロイキン6というタンパク質が関係していると論文では示唆されています。
そのため論文では、さまざまな人間の遺伝子情報や既往データなどを収集したUKバイオバンクといわれるデータベースを基にさらに検証が行われています」(久住さん、以下同)
その結果、全がん患者4千837人のグループのうち、新型コロナに感染した経験のある人は、していない人に比べ、がん関連死が約2倍に増えていることがわかった。さらに、フラットアイアンヘルスの乳がん患者3万6千845人分のデータベースを分析したところ、新型コロナの未感染者と比較して、感染者は肺がんリスクが40%以上増加していたという。
「マウスばかりでなく人間においても、新型コロナ感染が休眠しているがん細胞を目覚めさせる危険性があることが指摘されています」
また、がん再発のきっかけになる可能性を秘めているだけではなく、新型コロナは帯状疱疹を引き起こすスイッチになるとも考えられている。
’22年に、米国研究機関が米国人200万人を対象に行った調査では、50歳以上で新型コロナと診断された人は、感染していない人に比べて帯状疱疹の発症リスクが15%高くなり、その高リスクの状況は感染がわかってから最長6カ月間続くという結果だった。
「50代から増え始め、80歳までに3人に1人が発症するといわれる帯状疱疹は、皮膚の強い痛みと、神経に沿って帯状に広がる赤い発疹が特徴的です。
ほとんどの人は子供のころに水ぼうそうにかかっているため、休眠した水痘・帯状疱疹ウイルスが神経細胞に入り込んだままになっています。しかし加齢や免疫不全の病気にかかることで、眠っていたウイルスが暴れ出し、帯状疱疹を引き起こします。
水痘・帯状疱疹ウイルスが体内で静かに抑えられているのは、細胞性免疫の働きがあるためです。新型コロナの感染が、この免疫の働きを弱め、帯状疱疹を発症させると考えられています」
効果的なのは、帯状疱疹ワクチンだ。予防効果は、生ワクチンが50%だが、不活化ワクチンは90%以上といわれている。今年4月から、65歳から5歳ごとに定期接種の対象となり、各自治体では接種費用が助成されている。
新型コロナがもたらす脅威として、後遺症も忘れてはならない。東京都「新型コロナ後遺症ポータル」によると、コロナ感染者のうち、後遺症があると答えた人の割合は、23.4%にのぼった。
’25年2月に発表された「新型コロナウイルス感染症 診療の手引き」で詳細を見ると、成人の場合、感染後3カ月間で疲労感・倦怠感は3.5%、睡眠障害、集中力低下はともに2.7%、脱毛は2.1%、ブレインフォグ、嗅覚障害、味覚障害はともに1.9%の確率で現れた、と報告されている。
次々に新しい変異種が現れ、さまざまな症状を引き起こす新型コロナ。久住さんに注意点を聞いた。
「ニンバスが激しい喉の痛みを引き起こすと報じられているため、反対に症状が軽いとコロナではないと思い込んでしまう人も多いようです。
しかし、一見かぜのような症状でも、検査してみるとコロナだったということはよくあります。症状の重くない感染者が、重症化リスクのある人にうつしてしまう危険性があることを頭に入れておくべきでしょう」
予防のためには、人混みの中でのマスク、手洗いなども大事。
「口呼吸をしている人はかぜをひきやすいです。口のまわりの筋肉を鍛えるために、テレワーク中や掃除、洗濯など家事をしている間にアイスの棒のようなものを、歯を使わず唇だけでくわえて過ごすとよいでしょう。鼻呼吸を促進することにつながります。
コロナは社会にさらなる脅威をもたらす可能性のあるウイルスであることを忘れてはならない。